高畑充希「私は運命ってあると思っています」 『宝飾時計』で憧れの劇作家とタッグ

2022.12.15
2020年の中止を乗り越え、今年、念願だったミュージカル『ミス・サイゴン』のキムを演じた高畑充希さん。カメラを向けられている間にも時おり照れてシャイな一面が覗くが、その内には2000席近い大劇場を制するほどのパワーを秘める。舞台の上でマグマのような熱情と哀しみを抱え、子供のためにすべてをなげうつ母親の揺るぎない強さと神々しさを全身から放っていた。
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「私は運命ってあると思っています。この人とはこのタイミングで出会うのが運命だったんだなとか、仕事でも今この作品に出合えてよかったなっていうことがすごくあって。『ミス・サイゴン』も、2年前じゃなく今年だったんだなって思うんですよね。作品が今年30周年で、私も30歳のタイミング。しかもこの年齢で、ある程度経験してきた自分が17歳を演じる面白さってすごくあるし、そこから大人にならざるを得ない過程は、私の世代だからしっくりくる部分もあったし。あとウクライナが侵攻されている今、戦争で犠牲になる人々を描いた作品を上演する意義ってすごくあったと思うんです。ともすれば、2年前にはファンタジーのように見えた物語も、今はリアルに感じる。しかも私自身、コロナ禍で生と死の境目の距離が縮んだ感じがしていて、そういう中でキムを演じられたのはすごく感慨深かったです」

年明けには新たな舞台『宝飾時計』も控えている。手がけるのは、小誌でもお馴染みの根本宗子さん。

「初めて見た根本さんの作品はパワフルで、当時の私にはすごく衝撃的でした。あまりに感激して、お会いしたときに衝動的に『いつか書いてください』とは言ったけれど、まさか実現するとは思っていなかったので驚きました」

今回演じるのは、子役から活躍し30歳を迎えた女優。幼い頃に主演していたミュージカルの記念公演に、当時トリプルキャストで一緒だったふたり(小池栄子、伊藤万理華)と共に立つことに。

「私が演じる役は、とにかくこじらせ倒している人で、逆にこじらせすぎて気持ちいいくらい。以前、『問題のあるレストラン』というドラマで演じた、こじらせた役が、本当に難しかったんです。ただ最終的に、そういうところも可愛いなって、役を愛しく思えたんです。公演が終わる頃、自分のことをすごく好きになっているか嫌いになっているか…どっちかになりそうな気がします(笑)」

追い詰められた人間の、内から噴き出す情けなくてドロドロとした感情を、笑いと切なさを交えて描き出すのが根本作品の真骨頂。

「みんな結構キャラが濃いんですよね。しかも本当に口汚い(笑)。これぞ根本さんだーってくらいの会話の応酬です。人間のドロついた感じを、ここまで爽快に描く方ってほかにいらっしゃらないんじゃないかってくらい。観終わって爽快とはいかないけれど、こじれ倒している人たちが互いを罵り合ってエラいことになるのを見て、笑ってすっきりデトックスしてもらえる作品になる気がします」

自身と同じ俳優の役を演じるのはどんな気持ちなのだろう。

「もっと恥ずかしい気持ちになるのかなと思っていたんですけれど、そうでもなくて。自分とは違うタイプだからかもしれません。ただ、自分は普通の感覚を持ち続けているつもりだけれど、異業種の友だちと話していると、よく『俳優をやっている時点で普通じゃない』と言われるんです。でも、本当にそうかもしれない。たとえば『ミス・サイゴン』でキムを演じている間は、本当に相手のことが大好きで仕方ないんですよ。でも相手役は日により変わるわけで、そのたびに違う相手を全力で好きになるし、終われば好きの種類も変わる。そう考えると、やっぱり私も普通じゃないのかもしれません」

舞台『奇跡の人』やミュージカル『ミス・サイゴン』など、幼い頃に憧れた作品に次々出演し、今回の『宝飾時計』では、憧れの劇作家とタッグを組む。まさに自ら運命を引き寄せてきた人だといえるが、もともと「どうにかしてこれを掴む、みたいな握力が強いタイプではあまりない」と言う。

「もちろん憧れの作品でしたが、やれたらいいなって思っていたくらい。熱望して熱望して…みたいな行動力があったというより、運良く叶ってきたというほうが近いです。求めすぎると手に入らなかったときにすごく凹む気がして」

ならば俳優という仕事には、運命を感じているのだろうか。

「運命なんじゃないかな。じっとしていられないから、デスクワークには向いてないですし。こんなにいろんな世界の人と関わって、好きなことをやって、刺激的な毎日を送れていること、本当にありがたく思ってます」

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『宝飾時計』 2023年1月9日(月)~29日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス 作・演出/根本宗子 出演/高畑充希、成田凌、小池栄子、伊藤万理華ほか ホリプロチケットセンター TEL:03・3490・4949(11:00~18:00 土・日・祝日休) 大阪、佐賀(鳥栖)、愛知、長野(上田)公演あり。

たかはた・みつき 1991年12月14日生まれ、大阪府出身。2005年にミュージカルのオーディションでグランプリを獲得しデビュー。以降、舞台や映像で活躍。主な主演作に、ドラマ『とと姉ちゃん』『過保護のカホコ』。昨年、ミュージカル『ウェイトレス』で菊田一夫演劇賞を受賞。今作のテーマ曲「青春の続き」(作詞作編曲:椎名林檎)がデジタル配信中。

ニット¥42,900 ワンピース¥47,300(共にラム・シェ/ブランドニュース TEL:03・3797・3673) その他はスタイリスト私物

※『anan』2022年12月21日号より。写真・MELON(TRON) スタイリスト・番場直美 ヘア&メイク・笹本恭平(ilumini) 取材、文・望月リサ

(by anan編集部)