フードライター・平野紗季子さんの「MY STANDARD GOURMET」。今回は『枯朽(こきゅう)』のMenu Experimentalです。
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押上の住宅街にぽつりと佇むレストラン。今年の8月に誕生したばかりの『枯朽』だ。にじり口の印象もある低めの引き戸を開くと、店はほとんどキッチンが占めていて、壁を埋め尽くす棚にはスパイスや古物がずらりと並び、まるでオーナーシェフ・清藤洸希さんの食の実験室に忍び込むよう。

コースはおまかせの1種類のみ。秋の日の一皿は、例えば百合根。蒸した百合根に帆立のムースや杏仁のメレンゲを合わせ、底に野生白茶の茶葉が敷かれる。中国・大雪山の野生白茶は浮足立つような華やかな香りを携え杏仁の香りと編まれ、百合根の甘みも加わり雲上の楽園へ……。と誘われるようだが、それを制止して正気を保たせるかの如く、帆立のムースの重しの効いたクラシカルな旨味が同時に響く立体的な味わい。添えられるスープは白茶に蛤とアルドイーノ(オリーブオイル)を合わせ、白茶の華やかさのみならず、苦味がもたらす陰の味わいに触れることもできる。一つの皿に多数の表情。まるでそれぞれの星の瞬きに目を眩ませながら食べ進めるうち、いつしかそれが一つの星座へと連なる食体験。

しかしイノベイティブ一辺倒かといえばそうではないのが、フレンチの経験を長く積んできたシェフだからこそ。秩序の上に成り立つ美しく緻密な重層世界、その只中にひとり身を置き、委ね、呑まれていたいと思った。

季節ごとに変わるコース約10品の一部、百合根の一皿。コースは終盤に向かうほど、よりクラシカルなフレンチの様相に。鴨の血を塗って熟成させ、熱した油をかけながら丁寧に火入れをした「銀の鴨」を用いた一皿は、あまりにも滑らかな鴨のテクスチャーに動悸が止まらない。ランチコース、ディナーコースともに¥22,000。アルコールペアリングとノンアルコールペアリングで選択可能。

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枯朽 東京都墨田区横川2‐13‐9 12:00~15:30(12:00一斉スタート)、18:00~21:30(火曜除く。18:00一斉スタート) 日・月・木曜休 要予約 1日8席限定 詳細はHP(https://ko-kyu.jp/)で。

※『anan』2022年10月19日号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子

(by anan編集部)

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いくら説明しても分かってもらえないので、実際に体験してもらうほうが早いと考える傾向がある日です。同じ経験をすることでの絆や共感――といえば柔らかく温かな印象すらありますが、実際には強引さや強情さが出やすい日ですので、無理筋なことを言ったりしたりするのは避けましょう。何事も穏やかに、素直に接して吉です。

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