―― 一昨年の公演は、初日前日に中止を発表。キャストに中止が知らされたのはその前の日だとか。
倉科カナ:中止になったのは誰のせいでもない仕方のないことだけれど、ここまで作ってきたこの子をどこにやったらいいの? みたいな行き場のない気持ちになりました。ただ恵まれていたのは、すぐに、2年後にやりましょうって話になったこと。そのままなくなってしまう公演も多いなか、いろんな方のご尽力のおかげだなと。
――中止発表後、関係者だけでゲネプロ(本番同様におこなう最終稽古)をおこなったそうですね。
倉科:かっこよかったですよ、皆さん。明日の公演はないとわかっているのに、衣裳をもっと良くしようと改良してくださったり、最後の最後までより良いものを追求するために走ってくださる姿が、なんだかとても美しかったです。
――2年を経て、同じ作品にどう向き合おうと思っていますか。
倉科:私としては、あらためて一から作品に向き合ってみようかなと考えています。もともと目の前のものに全力投球して過去は忘れちゃうタイプですし、この2年の間に素敵な作品と巡り合えて、すごく糧になったので、その経験値を持って再び向き合ったらどうなるか、私自身も楽しみなんです。
演劇が好きだからこだわってやりたい。
――それこそ読売演劇大賞でノミネートされた『雨』も『ガラスの動物園』も素晴らしかったです。
倉科:こまつ座さんの『雨』は、井上(ひさし・脚本)さんと栗山(民也・演出)さんのタッグの舞台で、いろんな先輩からこまつ座の作品は絶対経験したほうがいいよと言われていたんです。だから栗山さんから声をかけていただいたときは、本当に嬉しくて。井上さんの戯曲は言葉にとても力があるんですが、栗山さんの演出がそれを最大限に光らせるんです。言葉遊びみたいなセリフを、自分の言葉として質感を感じるように演出してくださり、すごく勉強になりました。一方、『ガラスの動物園』の上村(聡史)さんの演出は、もっとフラットだったんですよね。こう見せたいということよりも、相手の感情をしっかり受け取ったうえで言葉を返していくという当たり前のことをとても大事にされていたというか。今回の作品は、江戸川乱歩さんの小説に出てくるお勢というキャラクターを使ったオリジナル作品とはいえ、乱歩の幻惑的な世界観があります。でも、栗山さんや上村さんの現場で学んだリアリズムみたいなものは、生かしていけたらなと思っています。
――今、演劇に対してすごく情熱を持って臨まれていらっしゃいますが、演劇の何がそこまで倉科さんを惹きつけたんでしょう。
倉科:なんだろう…私が出会ってきた演劇に携わっている皆さんが、損得勘定ではなく純粋にいい作品を作って届けたいっていう想いの純度が高く、素敵だったことは大きいのかもしれないですね。
――観るのもお好きでしたか?
倉科:好きですね。いろんなものを駆使して劇場中継を録画していますけど、すぐにいっぱいになるから必死にブルーレイに落として…。
――ただの演劇ファンです(笑)。
倉科:目の前で俳優さんたちが役柄として生きているのが好きなんですよね。その数時間に向けて多くのスタッフさんもすごい集中力で動いていて、完成した作品を観ると美しさに心が洗われるんです。観客としても、この人たちが今ここに生きている目撃者として一緒に芝居を作っているという感覚になるし、長時間の作品では観客同士の不思議な絆が生まれたりもして。その観客と作り手側がフェアな関係にあるところも好きなんです。
――きっかけは何でした?
倉科:舞台のお仕事を始めた頃は、演劇がすごく苦手だったんです。このままでは嫌いになりそうだと思って、マネージャーさんに舞台の仕事を1年に1本は入れてくださいとお願いしました。それが13~14年くらい前。でも、『タンゴ・冬の終わりに』(’15年)という清水邦夫さんの作品で、みんなで作っていくのはキツいけれど楽しいと思えたんですよね。稽古場には、たくさんのスタッフさんもいて、本当に家族みたいな感覚があって。だから舞台に関しては、妥協して出たいとは思わないです。私の中ではお仕事としてではなく好きだからやりたい分野で、だからこそしっかり時間を取ってこだわってやりたいです。
――嫌いになりそうだから年に1回入れてください、ってすごいことをおっしゃるんですね。
倉科:ここで逃げたら、たぶんもう戻ってこれない気がしたんですよね。
――でも、他に活躍する場所はたくさんあるわけですし…。
倉科:でも、苦手ってことは弱点なわけじゃないですか。逆に考えれば、それだけ伸び代があるということで、そこを伸ばして強みにしたら弱点がなくなる。弱点を作りたくなかったんです。でもそうしたら、いつの間にか演劇に魅了されていて、観るのも出るのも大好きになっちゃいました。今は自分の中で演劇に対してはビジネスの意識がないんです。演劇をやっていると、心がすごく安定するんですよね。
――今は演劇の何を楽しいと?
倉科:お稽古でいろいろ模索できるというところかもしれないです。映像だと瞬発性を求められて、これでよかったのかなという気持ちになることもあるんですが、演劇は稽古があるので、そこのフラストレーションは少ないです。最初はぎこちなかったお芝居が少しずつ噛み合うようになって、さらに広がっていく瞬間に携わると…もうトキメキしかないです。花開いたぁ~って。その瞬間に立ち合えていることがすごく幸せで。
――演劇作品で、とくに惹かれるのはどんなタイプのものですか?
倉科:やっぱり近現代の名作が好きですね。『ガラスの動物園』のテネシー・ウィリアムズも大好きです。普遍的なものを描いていて現代に投影できるというのは、とってもロマンがあるし演劇の良さだと思うので。でも、KERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんの作品…とくに、小野寺(修二・振付)さんとタッグを組んで作られている舞台の独特な展開にも惹かれます。
倉科カナさん主演の舞台『お勢、断行』は、5月11日(水)~24日(火)まで世田谷パブリックシアターにて上演。兵庫、愛知、長野、福岡、島根でも公演あり。江戸川乱歩の小説『お勢登場』の主人公で稀代の悪女といわれるお勢を題材に、作・演出の倉持裕が創作したオリジナル。世田谷パブリックシアター TEL:03・5432・1515
くらしな・かな 1987年12月23日生まれ、熊本県出身。連続テレビ小説『ウェルかめ』のヒロインとして注目され、以降、数々のドラマや映画で活躍。近作にドラマ『婚姻届に判を捺しただけですが』。現在、主演ドラマ『寂しい丘で狩りをする』(テレビ東京)、ドラマ『正直不動産』(NHK)が放送中。第29回読売演劇大賞優秀女優賞受賞。
トップス¥30,800 パンツドレス¥99,000(共にヘンネ/ヘンネ カスタマーサポート customer@haengnae.com) シューズ¥148,500(クリスチャン ルブタン/クリスチャン ルブタン ジャパン TEL:03・6804・2855) イヤカフ¥4,200(トゥワクリム/エスタードジャパン TEL:03・5413・4807) ネックレス¥154,000 リング¥37,400(共にブランイリス/ブランイリス 東京 TEL:03・6434・0210)
※『anan』2022年5月18日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) スタイリスト・道端亜未 ヘア&メイク・草場妙子 インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)