優しい月光から届く「やり直す」力。
最近、新月や満月が近づくと、SNSでは「今日はスーパームーン」「ストロベリームーンなんだって」「今度の新月はどんな願い事をすればいいのか」と、まるでごくポピュラーな行事のように多くの人が話題にするようになりました。日常にあふれる、月に関するニュース記事や投稿を見ていると、これは占い好きだけの話題であったはずなのに、とびっくりするほどの盛り上がりです。
「スーパームーン」という言葉がまだ広まっていなかった2012年頃、このananで紹介したのは、何を隠そう、この僕でした。アメリカの占星術家リチャード・ノルが1979年に占星術専門誌に発表したことから知られるようになりましたが、この言葉自体に天文学的な定義はなく、「占星術用語」だったのです。
新月への願いは、2001年に占星術家のジャン・スピラーが『[魂の願い]新月のソウルメイキング』で提唱しました。2003年には日本でも紹介され、人気を集めたことを思いだします。新月の日に願い事のリストを書くというのは、神秘的であり、おまじないとして多くの人の心にフィットしたのでしょう。特に近年、コロナ禍で外出もままならなくなった人々にとって、一定のリズムで満ち欠けをくり返し、時に夜空でまばゆい光を見せてくれる月とは、移り変わる世の中のようであり、またある種希望なのかもしれません。
漆黒の闇のように見える世界でも、そこには確かに月があり、再び光を取り戻す。月は、この大変な状況の中で生きる僕たちに「何度でもやり直せる」力を与えてくれるのではないでしょうか。
月の満ち欠けの原理
古代から注目されてきた、月と人とのシンパシー。
人々は古代から月を活用してきました。旧石器時代のレリーフ「ローセルのヴィーナス」は、裸婦が牛の角と思われるものを持っていますが、角には、13本の線が刻まれ、この刻み目が月のサイクルを表すといわれています。西洋の魔女文化では、月のサイクルを新月から満月までを「乙女」、満月で「母」、満月から新月にかけてを「老女」という3つのフェーズで女性の一生に例えています。現代で一般的なのは「新月、上弦、満月、下弦」という4つの月相。新月から輝きを取り戻し、また欠けていく。その4段階でひと巡りと考えられているのです。
月の現象が示す意味を知ろう!
月の代表的な5つの現象から、その意味をよみ解いてみましょう。それぞれのときにやるといいこと、避けたいこともチェック。
【新月】自分の「無意識」にアクセスする“始まりの月”。
太陽と月が重なる新月。2つの星が重なることを占星術では「合(コンジャンクション)」といい、両方の意味が強調されると考えます。月のサイクルを使った「ルネーション占星術」では「ニュームーン」と呼び、新しいことに取り組むと大きな実りを得られる「種まき月」。何か計画を立てる日、アクションを起こす日に適しています。ジャン・スピラーの「新月の願い」は、新月のタイミングから数時間~数日以内に「○○がうまくいきますように」といった願いを10個、紙に書きだすというもの。この方法自体は最近のものですが、月が満ちていく時期に“大きくさせたいことを始める”という営みは、古い書物にもある伝統的なものです。新月は月のサイクルが一周する、約1か月先をゴールと考えた物事の起点にするとよいと考えられています。
【GOOD!】
1か月先までの計画を立てる、新しいことをスタートさせる、小さなチャンスをたくさんつかむ、古くなったものを新品に交換する、新しい服をおろす。
【CAUTION!】
やめたいことをズルズル続ける、不安定な気持ちで決断する、心配を先送りにする、行動しない、舞い込んできたチャンスから、つい手をひいてしまう。
【満月】心にあふれてくる思いを感じ、これまでの成果を受け取る。
太陽と月が対向し、月が「満ちる」タイミング。ルネーション占星術では「フルムーン」、「成就」のときです。これまでやってきたことの結果がでて達成感を得られたり、なんらかの重要な出来事が起きて状況が変わったりするような、節目となりやすい時期です。狼男の伝説にもあるように、満月には人の気持ちを高揚させる働きがあると考えられ、満月前後に気持ちが不安定になる人も多いかもしれません。何もないところから始まる新月での心の揺れとはまた違い、感情が満ちてあふれだすような、気持ちの爆発も起こりやすいでしょう。月は占星術で「無意識」の領域を司るため、コントロールが難しいもの。何かと気持ちが張りつめて余裕を失いやすい現代においては、満月の前後はあえて無理をしない、頑張らないという選択も一つの方法です。
【GOOD!】
計画のゴールの日にする、やってきたことの結果を確かめる、魅力をアピールする、自分を表現するようなクリエイティブな活動をする、作品をつくる。
【CAUTION!】
感情にまかせてきつい言葉を使う、SNSで人を批判する、大きすぎる夢を人に話す、苦しさを隠して頑張りすぎる、限界まで無理をする、寝不足になる。
【(新月で起こる)日食】王者「太陽」を民衆「月」が隠すスペシャルな新月。
月が太陽の前を横切り、その姿を隠す日食は、新月のスペシャルバージョン。古代の占星術で太陽は「王」を象徴。そのため、日食は個人の願いや運命より、オフィシャルな「社会」や「世界」の動向を表すとされています。欠けている時間が1時間なら1年先まで影響があると考えます。願いをかける場合には、約3か月から半年先の目標を設定して。
【GOOD!】
長期間での計画を立てる、半年先を見て行動を開始する、力関係の逆転を図る、リーダーシップをとる、勇気をもって行動する、イメージチェンジする。
【CAUTION!】
強い人に忖度する、自分の意見を言わない、ミスや失敗を隠そうとする、惰性で物事を続ける、過去の思い出にしがみつく、夢や希望をあきらめる。
【(満月で起こる)月食】見えない領域に変化を及ぼす不思議な赤銅色の月。
個人の領域では人の「無意識」、社会の動きを読み解く場合には「民衆」を表す月が隠される月食。運命への影響は欠けている時間1時間に対し、1か月とされています。人が知覚できない領域での心の動きを象徴し、例えば「振り返ると、ちょうど月食の頃から考えが変わっていったんだよね」というように無意識のターニングポイントになりやすいときです。
【GOOD!】
自分の内面と向き合う、会社や職業を変える、ニュースをチェックして世の中の動きに注目する、月食前後に終わること/始まることに目を向ける。
【CAUTION!】
起こっている出来事から目を背ける、変化を認めない、他力本願で流されてしまう、困ったことを人のせいにする、自分を過剰に責めすぎる。
【(新月、満月で起こる)スーパームーン】地球に近づく月が、その力を強めるとき。
現在は満月のときにニュースになることが多いですが、実は新月で地球に接近している場合もスーパームーンとなります。「地球と月と太陽が一直線上に並び、月が地球に最接近している状態」か、90%以内のそれに近い状態での新月・満月のことです。月の力が強まり、いつもと違うことや感情のストームが起こりやすいと考えられています。
【GOOD!】
自分が一番リラックスできることをする、いつもと違うことをしてみる、天気の変化に備える、防災用品のチェックをする、日用品をストックする。
【CAUTION!】
あわてて行動する、不確かな情報に振り回される、デマを拡散する、周囲に止められるようなことをする、不合理な話にのせられて危ない橋を渡る。
お話を伺った方 鏡リュウジさん
占星術研究家、翻訳家。星占いが持つ豊かなイメージの世界を紹介。占星術の歴史にも造詣が深い。『ユリイカ臨時増刊号 総特集=タロットの世界』(青土社)、『明日はどんな日? 星占いを“使う”本』(説話社)が話題。
※『anan』2022年4月13日号より。イラスト・岡野賢介 取材、文・浅島尚美(説話社)
(by anan編集部)