いいリズムとテンポ、これが名コメディの肝です。
今やドラマや映画で大活躍の天海祐希さんですが、もともとは舞台育ち。異なる芝居フィールドをよく知る天海さんにとって、映画とはどんな存在なのか。
「劇場で、たくさんの方々と一緒に観る、目の前のものを共有できるという意味では、いわゆる生のお芝居と似ている部分がありますし、一方で映像作品ということで考えると、ドラマと近しいともいえる。なので私にとって映画は、舞台とドラマの真ん中にあるエンターテインメントです」
コロナ禍で映画館に行きづらい状況があり、また自宅にいても配信で映画が観られるようになったといえども、映画は映画館で観るのが一番、と力説する。
「やっぱり私は大きなスクリーンで観るのが好きですね。声には出さなくても、同じシーンでみんながクスッとなったり、びっくりしたりする、それが空気で伝わってくる感じは、映画館ならでは。あの瞬間は、本当に楽しいです」
10月30日より、主演映画『老後の資金がありません!』の公開がスタート。この作品のテーマは、タイトル通り“老後の資金”。一昨年、“人生100年時代、生き抜くには老後資金が2000万円不足”というニュースが流れ、日本中に相当なインパクトを与えたこと、覚えている人も多いだろう。
「社会的な問題をテーマにすることで、今までそこに視線を送っていなかった方々がちょっと気がついたり、徐々に意識を向けるようになったりすると、私たちの仕事も少しは役立っているのかな、と思います」
テーマがテーマなだけに、重い映画…? と思ったら大間違い。実はこれ、コメディ映画。天海さんと大女優・草笛光子さんをはじめ、若村麻由美さんや松重豊さんといった出演陣が、これでもかと笑いを仕掛けてくる。厳しい現実を描いているにもかかわらず思わず笑ってしまうのは、実力派俳優たちが生み出すテンポの良い芝居ゆえ。天海さんご自身も、コメディでの芝居においては特にリズムを大切にしているのだそう。
「どんな芝居でもリズム感は大事で、特に“笑い”は、タイミングがずれるとまったく笑えなくなる。今作に、私と夫役の松重さん、松重さんの妹役の若村さんとその夫役の石井正則さん、4人で食卓を囲んで話し合いをする場面があるのですが、みなさんコメディにも長けていらっしゃるから、ちょっとしたことを拾って笑えるアドリブを仕掛けてくる。そのテンポの素晴らしいこと! 演りながら笑ってしまい大変でしたが、きっとあのおかしさはスクリーンを通じても伝わることと思います」
またこの作品は、役者の表情にも笑いの引き金が潜んでいるのも見どころ。聞くと天海さんにとっての名作映画とは、“心を掴まれる表情がある作品”なのだとか。
「2時間弱の映画の中で、一瞬でも、“あぁ、この表情、素敵…”と思える瞬間があれば、それはもう私にとっては名作。今回推薦させていただいた2作とも、そんな心を掴まれる表情があります。役者としては、どのシーンでもどのカットでも、常にそういう瞬間をと思い演技を積み重ねてはいますが、なかなか簡単に作れるものではないですね。ちなみに『老後の資金がありません!』で私が“名作!”と思う表情はたくさんありますが、妻にリストラされたことを伝えるときの、松重さん演じる夫の表情。驚かされながらもつい笑ってしまうあの顔を、ぜひみなさんにも観てほしいです」
上映スケジュールを調べ、予定を調整し、チケットを買い、映画館に出かける。そのように人を動かす力を、映画は持っていなければならない、と天海さん。
「暗い劇場から外に出て日常に戻ったとき、おもしろかったと感じるのはもちろん、頑張ろうと思えたり、自分の現実を生きていこうと思ってもらえること。映画はそういう存在であってほしいです」
My 名作映画
『ある日どこかで』
タイムトラベルとラブストーリーが融合した、ラブファンタジーの傑作。「男性劇作家(クリストファー・リーブ)が時をさかのぼり、過去を生きる女優(ジェーン・シーモア)と恋に落ちるのですが、二人の表情が素晴らしい。音楽、衣装、全てが素敵。好きすぎて宝塚の公演で演じさせていただきました(笑)」
『HANDIA アルツォの巨人』
18世紀後半から19世紀のスペインが舞台。「巨人症になってしまった弟と、その兄の物語。兄は弟を見世物にしながら各地をまわり、お金を稼ぐのですが、弟役の役者さんが、目でいろんなものを語る演技をなさる。演技というものは“嘘”ですが、その中で“嘘のなさ”を表現されている。その表情から目が離せません」
『老後の資金がありません!』
節約をモットーに老後の資金をコツコツ貯めてきた主婦の篤子(天海祐希)。ところが、舅の葬式、娘の結婚式とどんどんお金が飛んでいく。さらに自分はパートをリストラ、夫(松重豊)の会社が倒産してしまう! 姑(草笛光子)への仕送りができなくなり仕方なく引き取ることになったが、姑は驚くほどの浪費家で…。退職金もなく、目の前に迫る貯金0円。老後どころの話じゃない…。他に出演は新川優愛、瀬戸利樹など。10月30日全国公開。©2021映画「老後の資金がありません!」製作委員会
あまみ・ゆうき 1967年8月8日生まれ、東京都出身。主な出演作にドラマ『離婚弁護士』『緊急取調室』、映画『最高の人生の見つけ方』など。ナレーションを務めるドキュメンタリー映画『私は白鳥』が11月27日公開。
ブラウス¥30,800 パンツ¥36,300(共にアドーア TEL:03・6748・0540) イヤリングパーツ各¥22,000 パーツ(右耳)¥25,300 パーツ(左耳)¥74,800 ※すべて片耳売り(以上シンティランテ/イセタン サローネ東京ミッドタウン TEL:03・6434・7975) パンプスはスタイリスト私物
※『anan』2021年10月20日号より。写真・森山将人(TRIVAL) スタイリスト・大沼こずえ(eleven.) ヘア&メイク・林 智子
(by anan編集部)