青春の波に乗れない少女たちが、空白から生み出すもの。
「女の子ふたりの話は、以前から短編としていくつかアイデアがあって、それをまとめて長編にできないかなと思っていました」
身も蓋もない言い方だが、熊倉さんのマンガの特徴は言葉で表現しにくい部分というか、説明しても理解しづらいところに宿っている。本人もそのことを自覚しているようで、「説明が難しいから」と本作の構想を8ページほどの予告編としてまとめて、担当編集者と共有したそう。
「映画の予告編みたいな感じで、クライマックスも一応わかるものです。担当さんと打ち合わせた内容とは全然違ってしまったのですが(笑)」
狛江ショーコは帰り道で偶然会った同級生の片桐スイが、不思議な力を持っていることを知る。左のコマがそのシーンで、スイは念じたモノを現実に生み出すことができる。ただしその物体は、目に見えない。
「かわいい女の子を描くのが好きなんです。ショーコは明るいけれどトンチンカンなところがあって、『あの子ちょっと変だよね』みたいに見られている子。スイは優等生だけど学校があまり好きではなく、屈折した子というイメージです」
そもそも本作を描くにあたってオーダーされたのは、青春モノ。皮肉なことに熊倉さんは、青春モノを読むのも描くのも苦手で避けてきた。
「爽やかな青春っていうのがピンとこなくて…。自分の学生時代も楽しいことがあるにはあったけど、つらいことのほうが多かった気がするので。似たような人は一定数いるはずなので、そういう人でも楽しめる青春モノを描こうと思いました」
ふたりの距離が縮まっていく前半に対して、後半は少々不穏な空気が漂ってくる。陰湿ないじめに遭うスイは次第に破壊衝動を抱くようになり、マイペースなショーコはクラスが分かれてしまったこともあり、彼女の変化にすぐに気づくことができない。そして読者も、独特な雰囲気をふわふわと楽しんでいたはずが、1巻を読み終える頃には、予想していなかった場所にいることに。
「面白い絵が自分でも見たいんです。描きやすいけど退屈なものより、絶対に大変だとわかっていても、描いていて楽しい印象的な絵にしたい」
想像力を掻き立てられる“空白”は、この先、何を生み出すのか。1巻にして早くも、名作の予感が!
『ブランクスペース』 スイの不思議な能力を偶然知ったショーコ。空白からの無邪気なモノづくりは、いじめを機に暴力的な方向へ。「コミプレ・ふらっとヒーローズ」にて配信。ヒーローズ 715円 ©熊倉献/ヒーローズ
くまくら・こん マンガ家。アフタヌーン四季賞「2012年夏のコンテスト」で佳作受賞。'14年デビュー。『春と盆暗』『生花甘いかしょっぱいか』など。
※『anan』2021年4月21日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)