〈俺の人生、終わってるのかも……〉という、中学1年生・土屋悠人(ゆうと)のぼやきから、物語の幕は開く。兄は優等生で弟はイケメン。学校でも家庭でも居場所がないと感じている悠人の孤独を埋めてくれるのが、隣人のコハクさんこと宮本琥珀だ。
世界的バレエダンサーだった琥珀だが、ケガにより引退と報道される。実は琥珀は母親とも死別したばかり。挫折を抱えているはずなのに、存外に明るい表情を見せる彼女に、悠人は最初とまどうが…。
「自分にとって何が日常なのか、人はわりと認識できないもので、失って初めて気づくような部分があると思います。と同時に、失ったその状態が日常になっていくということもありますね。そのもろさや不思議さについて考えてみたかったんです」
バレエ一筋できた琥珀は、いわゆる生活能力が皆無。そこで悠人は、倍も年上の彼女の部屋を訪ね、何くれとなく世話を焼く。琥珀の本心をつかみかねながらも、そんなひとときに悠人自身の寂しさも慰められる。
「大人から見ると、悠人の悩みは絶望するほどではないと感じるかもしれませんが、中学生の閉じられた世界ではとても深刻な問題になります。そういった部分を繊細に描いていけたらいいですね。一方、琥珀は、天才ゆえに当たり前のことが何もできない人というところからキャラを肉付けしていきました。元天才は一種の使命を終えた人、という見方もできる。そんな天才を降りた人のその後を描きたいなと思ったんですね。琥珀がいつか当たり前の生活ができるようになればいいなと思います」
ある日、琥珀は悠人に〈“地図にない場所”って知ってる?〉と問いかける。ふたりの住む地域の子どもたちの間で、かつて〈イズコ〉と呼ばれる地図に載っていない場所の都市伝説が流行ったのだ。
「悠人と琥珀のキャラを作ってから、世代や性別を超えた特殊な共通認識があれば面白いなと考えました」
かくて、ふたりは〈イズコ探し〉の小さな冒険を始める。まずは資料を求めて出向いた図書館で、悠人は幼なじみのすずと遭遇。バレエを習い、琥珀のファンでもあるすずが、悠人と琥珀の関係にさざ波を起こしそうで…。
気になる2巻は、夏頃発売予定。
『地図にない場所』1 中間子の悠人が兄や弟、両親とどう関わっていくのか、家族関係が変化していくのも楽しみ。『ビッグコミックスペリオール』にて連載中。小学館 591円 ©安藤ゆき/小学館
あんどう・ゆき マンガ家。『町田くんの世界』(集英社)で第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第20回手塚治虫文化賞・新生賞を受賞。
※『anan』2021年3月3日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)