親を追い詰める周囲の視線…“児童虐待”の裏側!

2018.8.28
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「児童虐待」です。

見つけたら通報の義務がすべての市民にあるのです。

社会のじかん

3月に東京都目黒区で発生した、5歳の船戸結愛ちゃんの虐待死亡事件は、世間に大きな衝撃を与えました。日本小児科学会の調べによると、全国で1年間に虐待によって死亡した可能性がある子どもの人数は、約350人。この数は高い水準で増え続けています。これは、児童相談所など、制度として様々な欠陥があるからなんですね。

東京都内の児童相談所の数は11か所。児童福祉司1人が抱える虐待相談などの世帯数は100を超えます。これは欧米の約5倍の数字。児童相談所も児童福祉司の数も全く足りていないのです。また、児童相談所には常勤の弁護士がいません。日本は、親の親権が強く保障されているので、子どもを親から引き離そうとするとき、親に訴えられないよう、法律家の判断を仰ぎたくても、スピーディに対応できないのです。そして、東京都の警察内には児童虐待専門の部署がありません。

児童虐待防止法には、市民は児童虐待を認知したら通報する義務があると明記されています。その相談窓口の全国共通ダイヤルは「189(いちはやく)」。通報は匿名でできますし、虐待でなかった場合も罪には問われません。

3月の事件を受け、社会起業家の駒崎弘樹さんを中心に、芸能人や作家、ソーシャルセクターが集まり、制度の改革を求める10万人の署名を集めて厚生労働大臣に提出。政府は緊急に児童虐待対策に動き出しました。結愛ちゃん家族が以前住んでいた香川県の児相の担当は、大変心配していたのですが、東京に転居したあと、新担当は家庭訪問に行ったけれども本人に会うことができませんでした。これを受け、面会ができなかった場合は強制的に立ち入り調査ができるよう児相の権限を強化。また、各地の児相や警察が情報を共有できること、児相や児童福祉司の数を増やすことなどが検討されることになりました。

しかし、虐待は対応だけでなく、未然に防ぐことが実は重要です。店や電車で子どもが泣きわめいているのを、迷惑そうにしている周囲の大人たちの視線が、どれほど親御さんを追い詰めているか。虐待を生まない社会を作るために、私たちはどうしたらいいか、いま一度考えてみませんか。

堀

堀 潤 ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。

※『anan』2018年8月29日号より。写真・中島慶子 題字&イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)


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