急浮上した案件。実施する前に丁寧な説明を求む。
岸田首相は、7月にリトアニアで開催されたNATOの首脳会議に出席しました。NATOは「北大西洋条約機構」であり、地理的に日本は離れていますが、NATOには価値観や安定・繁栄のためのルールを共有する「パートナー国」という枠組みがあり、今会議にも日本や韓国、ニュージーランド、オーストラリアが招かれていました。
実は、東京にNATOの連絡事務所を置く案が浮上しています。今年5月、NATOのストルテンベルグ事務総長が、インド太平洋地域との連携を強化する必要があるなどとして、事務所の開設に向け日本政府と協議中であることを明らかにしました。
この背景には、サイバー戦が激しさを増しているというのがあります。特にロシアや中国などが、ハッキングだけでなく、インフルエンサーに直接働きかけて、その国を乱すようなプロパガンダに加担させたりという「認知戦」を仕掛けています。その防衛には、国際的に広く協力し合わなければならず、NATOはサイバー防衛の出先機関として、東京にアジア初の事務所の開設を望んでいるのです。
これに対し、フランスのマクロン大統領が「NATOはあくまで北大西洋条約機構であり、インド太平洋地域まで展開するものではないだろう」と、設置案に異を唱えました。マクロン大統領は中国やロシアとも独自の外交を行っており、世界協調を促しているので、東京事務所の設置で中国やロシアを刺激したくないという狙いがあるのだと思います。
連絡事務所を設置したからといって、日本がNATO加盟国になるわけではありません。ただ、本格的にコミットすることになり集団的自衛権の義務も発生すれば、NATO諸国が攻撃を受けたときに日本も対処せざるを得なくなり、戦争に引きずり込まれるリスクは拭えません。
フランスの反対により、今回は見送られましたが、東京事務所案は引き続き検討されると、NATO事務総長はコメント。しかし、この件は国会できちんと議論されていません。岸田首相には国民に向けてきちんと説明をしていただきたいと思います。
ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。
※『anan』2023年9月20日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)