現体制に影響はなくても、将来、分岐点になるかも。
昨年11月、中国で白い紙を掲げ、ゼロコロナ政策に抗議する運動が広がり、「白紙革命」「白紙運動」と呼ばれました。発端は、11月24日に新疆ウイグル自治区ウルムチの集合住宅で起きた火災です。ロックダウン下で移動制限があったため、脱出も救助も遅れ10人が死亡しました。これまでにも厳しいゼロコロナ政策により、自宅を出られず感染した家族がそのまま死を迎えるなど、溜まっていた市民の怒りが噴き出し、抗議運動につながりました。当局の言論統制を免れるため、スローガンは書かずに白紙を掲げたのです。
白紙運動はSNSを通じて、北京、上海、重慶、天津などの都市で一気に起こり、アメリカやヨーロッパ、東南アジア在住の中国人も声を上げ、日本では11月末に新宿駅前で集会が開かれました。興味深かったのは、参加者にはグラデーションがあり、ゼロコロナ政策に不満を持つ「穏健派」と、習近平体制に反対する「過激派」に分かれていたことです。穏健派のほうでは静かにロウソクに火を灯して、被害者を追悼し白紙を掲げており、過激派のほうでは「習近平独裁を倒せ!」「中国人に自由を!」と叫んでいました。
そういう意味では民主化を求めて一斉に声を上げた天安門事件とは質が異なります。しかし、強権を振るう現政権に対して、中国の人々が顔も名前も出して抗議したというのは、命懸けの大きな事件です。これにより、習近平政権はゼロコロナ政策を緩和の方向に転換。ただ、その後、感染者は急増し、各地で医療崩壊が起きています。
白紙運動により、習近平体制が揺らいだわけではありません。ただ、自分たちが声を上げれば政府に届くのだという原体験を得たので、こういうことが積み重なった先に、体制が倒れることが将来起きるかもしれません。新宿の抗議集会に参加していた天津出身の女性は、「これで将来が変わると思いますか?」という質問に、「絶対に変わらない。変わらないからこそ、声を上げる意味があると思う」と話していました。中国は中国なりの「人民民主主義」を目指していると言います。民主主義としては、ひとつの前進なのかもしれません。
ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~)が放送中。
『anan』2023年2月1日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)