社会のじかん

新型コロナ対策で日本は「太平洋戦争の教訓を生かしきれず」?

ライフスタイル
2021.05.28
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「総力戦研究所の教訓」です。

空気に流されず、科学的根拠に基づいた政策を。

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80年前の12月に太平洋戦争は始まりました。ところが開戦の年の4月に当時の帝国政府は「総力戦研究所」を立ち上げ、日米開戦となった場合にどのような戦況になるのか、様々な観点から検証するよう指示を出していました。研究所に集められたのは30代前半の精鋭たち。大蔵省や商工省など省庁のエリート官僚や、陸軍省の大尉、海軍省の少佐、日本製鐵、日本郵船、日銀、同盟通信社(のちの共同通信社)の記者ら30数名で、模擬内閣を作り、徹底検証されたのです。当時の証言や資料をもとに猪瀬直樹さんがまとめたルポルタージュが、1983年に出版された『昭和16年夏の敗戦』です。

総力戦研究所が引き出した結果は、序盤は日本優位に進み、中盤は産業力、物量の差が明らかになり戦況は悪化、ソ連の参戦で開戦から3~4年で負けるというものでした。ところが、すでに世の中は開戦の機運が高まっており、メディアもそれを煽るようにしており、引くに引けない状況に陥っていました。天皇はこの空気を諌めようと、東條英機に託し、日米交渉の姿勢を見せたところ、「東條弱腰」と多数の批判の投書が寄せられた。結局、東條は「日露(戦争)がそうだったように、戦争はやってみないとわからない」とエリートたちの試算を反故にし、予想通りの敗戦になってしまったのです。

実は昨年、この本が再びヒットしました。それは新型コロナウイルスの対策をめぐり、同じようなことが起きたからです。科学者や医療関係者が、人々の行動規制案を提出しましたが、専門家会議は解体され、ひとつの分科会に格下げとなり、データ活用のために立ち上げた接触確認アプリCOCOAは、数か月にわたり機能していなかった事態が明らかに。人々の行動の追跡も、PCR検査もままならない状況では何も判断できません。科学的根拠のないまま、Go Toや東京オリパラなど、まあなんとかなるだろうと正常性バイアスがかかり、精神論で乗り越えようとする節がある。80年前と変わっていない体質があることを認識しなければいけません。これは僕ら一人一人に刷り込まれた感性かもしれないと、自分を疑う目線を持っていたいですね。

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堀 潤 ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。

※『anan』2021年6月2日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)

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