つい増えがちな冷たいものと早食いが原因。
夏になると食欲がなくなる、という悩みをよく聞きます。でも、高い気温が直接食欲を抑えるわけではないし、そもそも暑くても食欲がなくならない人もいますよね。
中医学では、夏の胃腸=脾(ひ)の不調は、まずは水分や冷たいものの摂りすぎで起こると考えます。さらに冷房による冷えが重なり、ますます胃腸は動かなくなります。異変に気づいたら、すぐに“温める”生活にスイッチしましょう。冷たいものは摂らない、お風呂でお腹を温める、冷房の影響を受けない服装を心がける。どれも地道ですが、徹底することで、胃腸は自然と良い状態を取り戻していきます。
それでも、冷たい麺を食べたい日もあるでしょう。そんなときは、体を温めるしょうがやねぎ、しそなどをたっぷり添えるようにしてください。そして、よく噛むこと。実はこれがとても大切なんです。
基本的なことですが、消化器のうち、食べ物を細かく刻むことができるのは歯だけです。胃の中の消化液はあくまで化学物質なので、入ってきたものをすり潰す作業はできない。食べ物をよく噛まないで飲み込むと、胃は粘膜と筋肉を一生懸命動かして消化液と混ぜ合わせなければなりません。水と一緒にビニール袋に入れた固形物を混ぜることを想像すると分かりやすいのですが、固形物が大きいほど、混ぜ合わせるのに時間も労力も必要ですよね。
早食いは胃腸に負担をかけるだけでなく肥満にもつながり、体にとっていいことはありません。口はミキサーの役割を担うところ。そんな意識で、ゆっくりと噛むようにしてください。
脾を養う力がある、あの野菜を積極的に。
そうして食欲が戻ってきたら、普段から脾を丈夫にする「健脾(けんひ)」の働きがある食材を摂るのもよいでしょう。代表格はキャベツ。有効成分の名がついた胃腸薬が有名ですね。もちろん生ではなく、火を通して食べるようにしてください。さつまいもやにんじんも、脾を養ってくれる食べ物です。 反対に、脾が弱りやすい人におすすめできないのは、海藻以外のねばねば食材。おくらや山芋は生で食べることも多く、避けるのが無難です。
暑いときこそできるだけ温かいものを選び、よく噛んで食べる。シンプルな養生ですが、続けることで胃腸の調子は上向きになっていきますよ。
さくらい・だいすけ 漢方専門家、国際中医専門員。完全予約制の漢方相談処「成城漢方たまり」で相談を行う。『体をおいしくととのえる! 食べる漢方』(小社刊)ほか、監修書、著書多数。https://yurukampo.jp/
※『anan』2020年7月29日号より。イラスト・原田桃子 文・新田草子
(by anan編集部)