ピンサ、と聞いて、あーピンサね! と思う人は少ないかもしれない。ピザみたいな見た目だけどピザじゃない。小麦粉だけでなく大豆粉や米粉を生地に用いるため、ピザよりずっと軽やかで、耳のサクサクっぷりが異次元な粉もの料理。まだ日本で一度も流行っていないのが不思議なレベルの食べ心地の良さだ。尾山台に今年の6月にオープンしたイタリアン『OSTERIA LA BUCA』では、ピンサが堂々ラインナップしている。スペイン産生ハムにイチジクとトマトソースを合わせたピンサは、果実の甘味とハムの塩気が絶妙に絡み合い、軽やかな生地と一体となって口の中で溶けていく。
シェフの横山修治さんは、長らく三田で『OSTERIA LA BUCA di MITA』を営んだ百戦錬磨の人。ローマのピンサはもちろん、彼が愛するシチリアの料理や修業時代に暮らしたマルケの料理など、多彩なイタリア料理がメニューに並ぶ。だからメニューを読むのが楽しい。イワシを使ったシチリアの郷土料理・ベッカフィーコなどのレアキャラも登場するが、とはいえお店に肩肘張った空気は皆無。「気軽に立ち寄って食べてもらいたいですし、自分自身も楽しみながら、お客さんにも楽しんでほしいんです」と横山さん。料理をしながらお客さんとお喋りをするのが大好きだという彼のリラックスな姿勢が、お店にも穏やかな空気とおいしい予感をもたらしている。
アラカルトメニューより、スペイン産生ハムとイチジクのトマトソースのピンサ(2380円)、イワシのパン粉包み焼きにオレンジが香るベッカフィーコ(880円)、グラスワイン(800円)。
OSTERIA LA BUCA 東京都世田谷区等々力4‐13‐18 ベルステージ尾山台 1F TEL:070・2307・4903 11:30~14:30(月・火曜はランチ営業なし)、17:30~22:00 水曜休
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードエッセイスト。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)など。
※『anan』2024年9月4日号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子
(by anan編集部)