そこまで手をかけなくても……(涙)と料理を前に思うことがあるけれど、九品仏のイタリアン『igora』が始めたテイクアウトのオードブル盛り合わせは、まさにそれだった。蓋を開ければ14種類の色鮮やかな前菜がぎっしり。パテ・ド・カンパーニュ、筍グリルのセミドライトマト和え、小柱とグリーンピースのリゾットを詰めたライスコロッケ……。なんて手のこんだ春爛漫ハッピーセット。しかもお値段2000円というのだから困ったものだ(もっと課金させて)。
「たしかにやりすぎかも(笑)とも思いますが、おうちで過ごす時間が増えたからこそ、ワイン片手に少しでも楽しんでもらいたいんです」とシェフの坂井務さん。新卒で入社した企業で会社員を経験するも「いかに効率的に作業をしてお金を生むかの世界でしたが、結局真逆の価値に惹かれたんです」。23歳で飲食に飛び込んでからは、トラットリアからリストランテまで幅広く経験を積み、29歳でイタリアへ。自然派ワインに夢中になり醸造家のもとで住み込みで働いたことも。「作為的ではないワインに魅力を感じるんです。料理も同じで、素材の良さを正しい方向に導くような仕事がしたい」。作為を感じさせない心地よい料理と、労力をかけてでもゲストを楽しませようとする姿勢。テイクアウトであっても彼の仕事は心に響く。カウンターに座って食事をする日が楽しみだ。
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igora 東京都世田谷区奥沢6-22-10 ハルシェール自由ヶ丘1F TEL:03・5760・6176 ランチ11:30~14:00(木~日曜)、ディナー17:00~20:00 水曜休 ※イートイン、テイクアウトともに要予約。6月1日以降の営業時間はFacebookで要確認。
新型コロナウイルスの影響を受けスタートさせたテイクアウトメニュー。旬がはじける14種類のオードブル盛り合わせ¥2,000、豚ロースのコトレッタサンド¥800(共に税込み)。
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードエッセイスト。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)
※『anan』2020年6月3日号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子
(by anan編集部)