
小島秀夫の右脳が大好きなこと=○○○○⚫︎を日常から切り取り、それを左脳で深掘りする、未来への考察&応援エッセイ「ゲームクリエイター小島秀夫のan‐an‐an、とっても大好き○○○○⚫︎」。第34回目のテーマは「ディズニーと“プラス”な再起動」です。
ディズニーと“プラス”な再起動
昨年の9月頃、ディズニーから1通のメールが届いた。「年末公開のディズニー映画『ズートピア2』(注1)日本語吹替版にカメオ出演してくれないか?」というものだった。実写映画やゲーム(実写ゲームも含む)など、これまでいろんな作品にカメオ出演してきた。実写映画では、撮影現場(ロケ地やセット)に出向き、丸1日かけて撮影はしたものの、完成版では登場シーンをカットされてしまったケースもある。全てを快諾したいが、スケジュールの調整も難しく、直接のオファーではない限り、基本的には断るようにしている。これまで受けてきたものは、どれも監督や知人経由で直接話があった“特別な依頼”だった。
2016年に公開された前作の『ズートピア』(注2)は、小さかった息子と吹替版を劇場へ観にいった。子供から大人までが楽しめる娯楽映画でありながら、そこに草食動物と肉食動物の違いと偏見など、アメリカ社会を投影していた。2016年公開のベスト10に入るくらいの素晴らしい映画だった。その続編が9年ぶりに公開される。「そんな大作に自分が参加するのも?」と、断るつもりでメールを見返してみてわかった。『ズートピア2』の脚本兼監督であり、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーでもあるジャレド・ブッシュさん本人からの直々オファーだというのだ。
「これは断れないぞ」
覚悟して引き受けることにした。
10月末、東京都内の某スタジオで音声収録は行われた。ディズニーは、情報漏洩には敏感である。このSNS時代には、そうならざるを得ないのだろう。僕は仕事柄、声優さんたちからの噂話を漏れ聞く機会が多い。ヒーロー物の新作映画とかでは、情報漏洩を防ぐため、事前情報は一切教えてはもらえないという。アフレコ中も他が隠されて口元だけが見える映像を見て、想像しながら収録すると。今回も例外ではない。事前に台本や設定画も、キャラ表さえも貰えず、わずか数行のセリフで“ピン録り”(注3)をするということだけ、知らされていた。到着して収録ブースに直行するや否や、吹替版ディレクターから簡単な説明があった。「小島さんは、“ポール・モールデブラント”というモグラの役です。収録シーンは3シーンほどあります」と。モニター画面に、キャラが映される。そこには、初めて見るメガネをかけた神経質な感じのモグラが。どこか自分に似ているような、憎めない感じだ。ディレクターからの指示が続く。「ポールはズートピア警察署のIT関係で、いつもイライラしている感じでお願いします」と。一度、シーンを見て、どういう感じにするか考えようと、映像を見てみた。驚いたことに、フィニッシュではないものの、ちゃんとした“絵”が既にあった。これなら、やりやすい。英語オリジナル版からセリフがかなり意訳されている。オリジナル版は、言葉使いがどちらかというと剣呑な感じだったのを、吹替版では和らげているようだ。小さな子供たちも観るからだろう。英語版に引きずられないように、英語版のボリュームを下げる。
「それでは行きましょう」
とディレクター。
僕は、“コジプロのIT担当者”を思い浮かべながら、不機嫌なモグラの声をあてた。
ポール「再起動してみたか? フム」
ポール「頭使ってみたのかよ」
わずか、3シーン。あっという間だった。
実は、コジプロ独立当初から、ディズニーさんより、「いつかコジプロさんと何かできないか?」という打診を受けてきた。最初に実現したのは、ディズニープラスで独占配信をしているドキュメンタリー映画『HIDEO KOJIMA:CONNECTING WORLDS』(注4)だ。あの縁があって、本格化したプロジェクトが、11月に香港で開催された「ディズニープラス・オリジナル・プレビュー 2025」で発表した『DEATH STRANDING ISOLATIONS』(注5)。デスストのアニメドラマをディズニープラスで独占配信するというもの。アニメスタジオは「E&H production」が担当する。まだ決まってはいないが、この後もディズニーとのコラボは、“プラス”されるかもしれない。
12月頭。虎ノ門のウォルト・ディズニー・スタジオ試写室で『ズートピア2』の吹替版を観た。僕の吹替シーンはさておき、映画はまたもや素晴らしかった。今回は、草食と肉食の哺乳類だけではなく、新たに爬虫類が加わってくるのだが、その先住民族でもある彼らを追い出そうとするという、アメリカの黒歴史をさらうようなメタ的なお話。と思いきや、ところが最後はそこには落ちない。前作でバディとなったキツネ(ニック)とウサギ(ジュディ)。その後の二人の活躍を描くだけではなく、「異種間のそれぞれの違いを受け止める」というバディものとしての肝の部分に、お話を見事に落とし込んでいるのだ。アメリカの過去を問いただすだけでなく、移民たちの“楽園”でもあるアメリカの現代を描いているのだ。続編として、クレバーな構造だ。世界中で大ヒットしているのも頷ける。
映画の公開直前。僕が『ズートピア2』の日本語吹替版にカメオ出演するというニュースが流れた。SNSのタイムラインで、たまたまジャレド・ブッシュさんからのポストが目に入った。
「私がこれまでに体験した多くのゲームの中でも、特に敬愛してやまない作品を生み出してきたストーリーテラーであり、クリエイターである小島秀夫さんが『ズートピア2』に参加すると発表できることを、心底うれしく思います。彼はシネマティックな表現において比類なき存在であり、そんな伝説的クリエイターを『ズートピア』のファミリーとして迎えられることを、とても光栄に思っています」
彼のアカウントを見ると、僕をフォローしている。すかさず、彼をフォローする。すると、すぐにDMが来た。それ以降、メールのやり取りをし、12月に渡米した際には、バーバンクにあるウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオに招待された。ジャレドさんの案内でスタジオを回った。あのポールのシーンの貴重な制作過程も見せて貰えた。素晴らしいスタジオだった。施設や設備だけではなく、そこで働くスタッフたちが、まさにディズニーアニメから抜け出してきたみたいな遊び心ある素敵な人たちばかりだった。ジャレドさんとは、今後も頻繁に逢う約束をして別れた。息子さんも僕の大ファンであるらしい。「僕が米国に行く時、ジャレドさんが日本に来る時、逢いましょう。“プラス”になる話をするために」と。
僕にとって、ディズニーは“プラス”な関係にある。『ズートピア2』、まだ観ていない人は観て、“頭を使って”欲しい。字幕版を観た人は、吹替版で“再起動”して、もう一度、楽しんでいただきたい。
注1:『ズートピア2』 2025年12月公開の、大ヒットディズニー・アニメーション映画『ズートピア』の続編。
注2:『ズートピア』 動物たちが人間のように暮らす世界を舞台に、新人警察官のウサギのジュディと皮肉屋の詐欺師であるキツネのニックの奮闘を描く。第89回アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞。
注3:ピン録り 個々に一人ずつ収録をすること。
注4:『HIDEO KOJIMA:CONNECTING WORLDS』 ディズニープラスで配信中の、小島秀夫の創作過程に迫るドキュメンタリーフィルム。
注5:『DEATH STRANDING ISOLATIONS』 ディズニープラスにて2027年配信予定の、『DEATH STRANDING』のアニメーションシリーズ。監督は佐野誉幸、キャラクターデザイン原案をイリヤ・クブシノブが務める。
今月のCulture Favorite

『ズートピア2』監督のジャレド・ブッシュさんとウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオにて。

LAで開催された新作『しあわせな選択』(日本3月公開)プレミア試写のアフターパーティにてパク・チャヌク監督と。
Profile

小島秀夫
こじま・ひでお 1963年生まれ、東京都出身。ゲームクリエイター、コジマプロダクション代表。1987年、初めて手掛けた『メタルギア』でステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開き、ゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。世界中で年間最優秀ゲーム賞をはじめ、多くのゲーム賞を受賞。2020年、これまでのビデオゲームや映像メディアへの貢献を讃えられ、BAFTAフェローシップ賞を受賞。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンターテインメントへも、創作領域を広げている。

『DEATH STRANDING』のアニメシリーズがディズニープラスで2027年に公開!
『DEATH STRANDING』の劇場アニメプロジェクトが始動!

2025年12月16日、コジマプロダクションは創設10周年を迎えました。
開発中の最新作『OD -KNOCK』のティザートレイラーが公開中
小島監督が2025年を振り返ったインタビュー記事もCHECK!
写真・内田紘倫(The VOICE)
anan 2480号(2026年1月21日発売)より

























