「このミステリーがすごい! 2023年版」「ミステリが読みたい! 2023年版」で一位を獲得した呉勝浩によるベストセラー小説を、『キャラクター』『帝一の國』で知られる永井聡監督が実写映画化。薄暗い取調室を舞台に、人間の本質を浮き彫りにする繊細な心理描写と大胆なアクションで、極上の映画体験へと誘う注目作です。今回は本作が初共演となった、山田裕貴さんと佐藤二朗さんが登場。本作の魅力から、芝居の楽しさ、そして佐藤さんが最近お気に入りの晩酌メニューまでたっぷりとお話を聞きました。

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    「実写のお話を聞いたときは恐怖を感じました」

    ── お二人が最初に本作を読んだときの感想を教えてください。

    佐藤二朗(以下、佐藤) 原作があまりにも面白すぎて、本当に実写にしていいのかな? というのが最初の感想でした。爆発的で、もはや畏怖を感じるぐらい衝撃的な面白さでした。

    山田裕貴(以下、山田) 僕も全く同じで、一人の先生が書いたということに対して衝撃を覚えました。呉先生の脳内が知りたいと思うくらいに。

    佐藤 あるいは知りたくないみたいなね、怖くて。

    山田 キャラクター造形から話の流れまでが本当に秀逸で、どういう心を持っていたらこんな物語が書けるのかという。それに、キャラクター一人ひとりにも愛情をきちんと感じるんですよね。だからこそ実写のお話を聞いたときは恐怖を感じました。

    佐藤 触っちゃいけない感じがするよね。これだけの面白い原作の映像化に対して、「これ外したらエライことになるんじゃないの?」とビビってしまうほど、悪魔的に面白い作品でした。

    ── それぞれが演じる役について、オファーが来たときの感想を教えてください。

    佐藤 僕はスズキタゴサクと共通点が多いんです。どこにでもいる中年おじさんで、小太りの中日ドラゴンズファン。作品は野方警察署が舞台になるわけですが、なんと僕が東京に出てきて最初に住んだ町も野方だったんです。

    山田 すごい偶然ですね。

    佐藤 そうなの。だから心のどこかでこの役はできると信じていた気がします。

    山田 僕は原作で描かれている類家の思考に共感しかありませんでした。というのは、彼がスズキタゴサクに対して語る言葉について僕も考えたことがあったから。大きな声で言えることではないけれど、目の前に広がるある種の幸せも、地球の裏側までみれば手を差し伸べたくても届かなかったり、守れない人たちがたくさんいるわけで。正解かどうかは別として、そういった類家のマインドに辿り着けたという感覚だけが頼りでした。

    佐藤 なるほどね。

    山田 逆にそれ以外は自信がなかったです。当時は自分の芝居に迷いも感じていて、こんなにも素晴らしいキャストのみなさんに囲まれて主役として、類家のような人物を演じるだなんてという戸惑いもありました。

    ©︎呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会

    ── 演じるうえでこだわられた部分を教えてください。

    山田 最初の台本では、渡部篤郎さん演じるベテラン刑事の清宮が、早々に退いて類家が前に出てくる流れがあったのですが、そこは原作に戻して欲しいと監督にお話したことを覚えています。清宮がきちんと戦うことのできる素晴らしい刑事であることを、みなさんに画面から感じてもらえたらと思いました。

    佐藤 正直、スズキタゴサクのことはいまだに何者か分からないです。でも、そういったはっきりと答えが出ないものに無性に惹かれるんです。例えば、松田優作さん主演、村川透監督の映画『野獣死すべし』なんかもそうです。彼らの作品には『蘇る銀狼』といった名作がたくさんあるんだけど、なぜかあれが一番好きなんだよね。なにがいいのか分からないけれど、なんかいい。凄くいい。スズキタゴサクもそういう分からなさが魅力だと思いながら演じました。

    山田 僕の勝手な推測ですけど、二朗さんは本当は分かっていると思います。そうでないとあのスズキタゴサクはできないはず。でも、きっと分からないと答えることが作品にとっても、二朗さんにとってもいいんだろうなというのも分かります。

    ©︎呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会

    初共演は「こんなに幸せなことはない」

    ── 本作が初共演となったお二人。お互いの印象はいかがでしたか?

    山田 撮影当時、『木の上の軍隊』『ベートーヴェン捏造』『爆弾』と5ヶ月の間に3作撮ることが決まっていて、それぞれ堤真一さん、古田新太さん、そして二朗さんと対峙するのが決まってるという状況で、僕は天からなにを試されているんだろうって思っていましたね。

    ── とてつもないプレッシャーですよね。

    山田 僕のなかで二朗さんは、「勇者ヨシヒコ」シリーズなど福田雄一作品で見せるコミカルな演技の印象が強くて、今回こういった形で対峙させていただいてすごく驚かされました。本当に寸分も違わずに再現性の高いお芝居を毎度同じテンションで持ってくるんです。あの台詞量で台詞の言い回しや言い方、テンポなどの全てをコントロールしているんだと思ったら、本当に恐ろしい。同時に、僕もこのレベルまでならないといけないんだと改めて思わされて、現場ではたくさん質問させていただきました。

    佐藤 そのときに話したのは、言い回しなどを計算してやるだけでは面白くないし、最終的には現場で演出家や相手役とセッションしなきゃいけないということ。自分が考えてきたプランを一旦ゼロに戻して、相手のボールに反応して投げ返すことを繰り返しながら高めていくほうがはるかに面白いと。その会話の後に生まれたのが、二人が突然笑いだすシーンでした。

    ©︎呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会

    山田 そうですね。台本にはなかったのですが、挑戦してみたのを覚えてます。

    佐藤 あそこで二人が突然笑いだすことで、二人だけの世界になるというか、分かりあうことで取調室にいる人も観客もみんなが置いていかれる感じが面白いのかもって思った。最終的にこのシーンがファーストの特報に使われたのを観て、「よしよし」って思ったね。

    山田 二朗さんは計算し尽くされた演技プランを持ちながらもセッションができるというのが本当にすごい。ちゃんと会話ができる楽しさというか、思いっきりステーキと寿司を食べれるというか。役者としてこんなに幸せなことはないなと思いましたし、共演できてとても楽しかったです。

    佐藤 僕にそのことを教えてくれたのは、20代の頃お世話になった舞台演出家の鈴木裕美さん。当時は自転車キンクリートという劇団でいつも怒られてました。「自分でゴールを決めにいく芝居の才能は認める。でも、このままじゃ駄目になるよ」とずっと言われていて。当時は正直ピンと来ていなかったけれど、30代から映像の仕事を始めて、ようやくセッションの楽しさが分かるようになった気がします。もちろん自分でドリブルしてゴールを決める才能も俳優には必要だけれど、ちゃんとパスを出し合って、みんなで空気を高め合っていくというのが大事なんだって。今の裕貴の言葉を聞いて、改めて鈴木裕美さんに感謝をしたいと思いました。

    山田 今はなかなか厳しく言ってくれる人っていないんですよね。だから、自分でひたすら考えて、何が面白いかっていうのを試してみるんですが、何をやっても自分ではつまんなく感じてしまって。だからこそ当時は先輩方から芝居をしながら学ぶ期間なんだという気持ちで臨んでいました。

    佐藤 修行みたいな感じだったんだ。撮影中も結構聞いていたよね。

    山田 いつもは滅多に聞かないんですよ。堤さんや古田さんともそういう話はしていないですし。役どころもあったような気がします。

    佐藤二朗に聞く、いま好きなこと

    山田 二朗さんってなにかマイブームはありますか?

    佐藤 僕はもう酒とかになっちゃうんですよね。酒と妻、息子って。

    山田 ああ、なるほど。

    佐藤 なぜスルーするような感じになる?(笑)

    山田 いやいや! とても素敵です。

    佐藤 本当に好感度をあげようとしているわけじゃなくて、妻の作った料理で晩酌するというのがもう何よりの楽しみなんですね。

    山田 いいですね。定番の組み合わせとかはあるんですか?

    佐藤 秋はやっぱり秋刀魚ですね。今日も実は発注しております。あとは妻が作る豚肉とゴーヤの炒め物。ゴーヤチャンプルーではないので卵も豆腐も入ってないんですけど、妻の味付けがめちゃくちゃ美味いんです。しょっぱさと苦味がいいハーモニーで天才じゃないか? って思うくらい。

    山田 合わせるのはお酒ですか?

    佐藤 いい質問ですね。刺身とかは普通日本酒だと思うんですけど、秋刀魚とかの日は焼酎にしますね。最初はロックで。でも、そうすると酒量が増えちゃうんで、途中から5:5で水で割るようにしています。

    ── ありがとうございます! そのレシピもぜひ書かせていただきます。

    佐藤 晩酌の話はあと5時間ぐらいできますけど。

    山田 また今度ゆっくり聞かせてください!

    Profile

    山田裕貴

    やまだ・ゆうき 1990年9月18日生まれ、愛知県出身。2011年「海賊戦隊ゴーカイジャー」(テレビ朝日系)で俳優デビュー。2024年は『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命- / -決戦-』、『キングダム 運命の炎』『ゴジラ-1.0』『BLUE GIANT』での活躍が注目を集め、第47回日本アカデミー賞話題賞を受賞。今年は『木の上の軍隊』『ベートーヴェン捏造』など主演作が相次いで公開された。

    佐藤二朗

    さとう・じろう 1969年5月7日生まれ、愛知県出身。1996年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げ、本格的に俳優活動を開始。自らの体験をもとにした『memo』(08)や、主辛する劇団の同名作品の映画化『はるヲうるひと』(21)では監督・脚本・出演を務めるなど、マルチな才能を発揮。『あんのこと』(24)で、第48回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。今後は『新解釈・幕末伝』(12月19日)の公開が控える。

    『爆弾』

    Information

    ©︎呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会

    酔った勢いで自販機と店員に暴行を働き、警察に連行された正体不明の中年男。自らを「スズキタゴサク」と名乗る彼は、霊感が働くとうそぶいて都内に仕掛けられた爆弾の存在を予告する。やがてその言葉通りに都内で爆発が起こり、スズキはこの後も1時間おきに3回爆発すると言う。スズキは尋問をのらりくらりとかわしながら、爆弾に関する謎めいたクイズを出し、刑事たちを翻弄していくが…。

    監督/永井聡、原作/呉勝浩「爆弾」(講談社文庫)、出演/山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、坂東 龍汰、寛一郎、渡部篤郎、佐藤二朗

    2025年10月31日(金)ロードショー

    映画『爆弾』公式サイト

    写真・UTSUMI スタイリスト・森田晃嘉 インタビュー、文・市谷未希子

    山田さん衣装・ブルゾン¥64,900(インカミング) シャツ¥79,200(コルボ/共にコンクリート TEL. 070-9199-0913) パンツ¥50,600(ビソウン/スリーテン TEL. 06-6563-9222) シューズ¥92,400(アデュー/バウ インク TEL. 070-9199-0913)

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    状況的に居ても立ってもいられず、何かアクションを起こそうとする意味の日です。放っておいても事態は良くならないばかりか悪化する可能性が高いと考え、危機感を覚えた人が思い切った行動に出ることが予想されます。これに驚いた人が文句を言うかもしれませんが、どのみち何か手を打つ必要があることは確かなのです。

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