
自身の想いや叫びをむき出しの言葉で紡ぐ音楽に共感が寄せられている、あのさん。アーティストとしての躍進を続ける中、さらなる挑戦を静かに熱く語ってくれた。
今秋リリースしたばかりの自らのブランドの服をまとい、カリスマティックなまなざしをカメラに向ける。日本武道館単独ライブに新曲リリース、そしてオリジナルブランドの立ち上げ。その唯一無二の活動を貫くものとは…?

―― アーティスト活動5周年おめでとうございます。節目に際しては、どのような思いがありますか。
あの ありがとうございます。あまり“周年”って意識したことなかったので、ファンの人たちに言われて「ああ、そうなんだ」って気づいたくらいで実感は薄いかも。でも、せっかくなのでみなさんに楽しんでもらえたらなと思って、曲を作ったり武道館ライブをしたりと活動しています。
―― 今回発表されたアパレルブランド『HELL BLAU』もその試みの一つでしょうか。
あの ブランドは前からやってみたかったんです。実際ファンの人たちにも僕にやってほしいことを聞くと高確率で「ブランド!」って言ってもらっていたので。でも、なんとなく「今じゃないな」って気持ちがずっとあって…それでやっといま実現しました。
―― 今じゃない、というのは?
あの そういうのは、本業の音楽で納得いくものを作れてからやることかなと思っていたので。人生計画はないけれど、挑戦すべき時や直感は大事にしてるかもしれません。
―― そういうチャンスがあったら普通はラッキーと思ってしまいそうですが…。ご自身を俯瞰しているんですね。
あの …かもしれないです。どんなおいしい話も自分が面白いと思えないとやらなかったり、面白くても「もうちょい別のタイミングがあるかも」と踏みとどまったり、自分のリズムがあるんです。でも今回作ったアイテムは気に入っていて、全部自分でも身につけます。なかでもファンの人に喜んでもらえるのはジャージかな。僕の好きな水色が入ってて、男女問わず着られるから。あと歯のピンズも作りました(笑)。透明感のある白さがリアルで気に入ってます。
―― 歯が好きなんですか?
あの …(しばし思考)理由とかあんまないけど…。小学生の時ずーっと歯医者に行ってたことが印象に残ってて、今でもつい人の歯並び見ちゃうんですよ。なんか好きなモチーフです、歯。
―― 先日行われた日本武道館公演に合わせてリリースされた新曲2曲についてもお話を聞かせていただけますか。
あの 1曲目の「KILL LOVE」は、それこそ僕の好きな水色ともつながっている曲。「ピンクはあの子のものだから余った色を纏うの」って歌詞があるんですけど、昔の僕はそういう消極的な思いで水色を選んだ時期もあったけど今は大好きな色だし、みんなも自分の好きな色を選んでほしい。もう一つのテーマは“愛”。ファンと僕、音楽と僕。それは切っても切れないつながりで面倒だけど愛おしい。そんな愛を書きました。
―― もう一曲の「ミッドナイト全部大丈夫」は聴いていて励まされる、強さと愛のある曲です。
あの 「大丈夫」って自分に言い聞かせるけど、いつもぎりぎりで、自分しか信じられない。そんな僕自身をもとにして作った曲です。きっと僕のファンの方々もそうなんです。だからみんなの曲のつもりでもあります。実際ライブでお客さんが「大丈夫!」って叫べるコーラス部分も作りました。…でも世の中って大丈夫じゃないんですよ、全然。だからせめてこの曲を歌う時は口にしてもらえたら。
―― すごくやさしい心が詰まっている曲なんですね。
あの みんなを縛ってる「こうじゃなきゃ」みたいな呪いやおかしてしまった過ちを僕は赦すし、みんなも自分を赦そうよって思いを込めたつもり…と言いながら、僕は自分をなかなか赦せなかった。だからこれは自分への言い聞かせも入ってるかもしれないですね(笑)。
寂しさも毒もポップに消化するのが僕の音楽
―― 5年を振り返って何が一番に思い出されますか。
あの とにかく1分1秒余すことなく頑張った、それだけです。実際、その前にも芸能活動はしていたんですけど一回やめちゃって、もう一回デビューして5年ってことなんですが、2回目のデビューが決まってからは辛いことが多かった。曲作りに打ち込む時間も孤独だし…。最初は自分のために作っていたけど、周りからの期待とか圧とかを感じるようになってからは、いい結果を出せなくなることもあって、そのたびに自分を責めて心身ともに追い詰められたこともありました。でも、音楽から逃げることだけはしなかったから今がある。だからこの5年間には少しの後悔もないです。
―― 周りからの圧を感じることもあったとのこと。あのさんの曲は一人で生み出すものなのですか。
あの 自分が作詞・作曲の場合は一人です。そこからアレンジやMVとか展開していくなかではみなさんに力をお借りするけど、曲のテーマとかは誰にも相談することはないです。これからも一人で抱える部分は多いだろうけど、やってこられたのはファンの人が聴いて、受け止めてくれたから。かといってファンにやさしいわけでもなく、嫌われる覚悟で意見も言うんですけど(笑)。
―― そういう自分に正直なスタンスはどこからきていますか。
あの うーん…正直以外の生き方がわかんない。昔から「いやだな」と思いながらやったり、自分の美意識から外れることをしてしまった時はすごく辛い気持ちになる。そのしんどさを若いうちに知っているから、正直に生きること以外はもう難しいです。でもそれって、周りに嫌われる確率は間違いなく上がるんですよね(笑)。
―― その芯の強さが楽曲やファッションにも表現されていますが、そういう自分を貫く思いの原点はどこにあるのでしょうか。
あの 幼い頃の体験からきてると思います。学校とか家庭環境とかで寂しい場面が多かったけど、その時は学校がどうだとか家庭が問題とか、そんなことすら発想になかった。もう生きてる世界がちっちゃすぎて。でも子供の僕にとってはその世界がすべてだったから、誰にも頼れないまま独りぼっちになって。それで「自分を居場所にしよう」って決めたんです。ずっとそうやって生きてきたら「ま、自分がいるからいいや」って思えるようになった。でもそれもほんとここ最近の話です。
―― 一方で5年の間には、TVアニメ『チェンソーマン』のエンディング・テーマの一つ「ちゅ、多様性。」が大ヒットしました。きっと環境も大きく変化したと思いますが、どう感じていますか。
あの そこはそんな驚かなくて、僕の中では必然の結果だと思ってました。僕は僕のやり方で、自分の信念を音楽を通して社会に突きつける。それを諦めなかったから認められたと考えています。だからこのヒットは「僕がしてきたことは間違ってない」っていう証明にもなったし、支えてくれた人たちへの感謝も湧いてきた出来事でした。でも実はこのオファー、僕が一回出て「もう一生出ない!」って思ったバラエティ番組の、そのオンエアを見て打診してくれたらしくて…。「バラエティって出る意味あるの?」っていろんな人に言われてきたし、自分もいやな思いしたけど無駄じゃなかったんですね。やっぱり自分のしたことは、すべて今に繋がってると思う。
―― いま振り返ってみて「ちゅ、多様性。」という楽曲は、なぜこれほどまでに支持されたと思いますか。
あの まずあの『チェンソーマン』は1話ずつエンディング・テーマが違うんですけど、マキシマム ザ ホルモンとか僕の好きな方たちも参加されていた。だから僕も自分にしかできない音楽で挑みたいなと。特にアニメがかっこいいテイストだったので、僕もアニメの世界観に合わせたかっこよさを意識しつつ、そのなかに自分らしい毒を入れることを大事にしました。キャッチーでかわいいけど「ゲロ」とか汚い言葉を入れてるところは特に自分らしいし、今でもめちゃくちゃいい曲だなって思ってます! ポップで毒がある、それが僕のアイデンティティ。世間のイメージと真逆かもしれないけど、こだわりとか芯の強さは人一倍で…。だからこそ孤独にもなるけど、そこをポップに消化していくのが僕の音楽なので、自分がしっかり表現された曲だなと思います。
―― 自分らしく生きたいけど、くじけそうにもなる…。そんな読者にメッセージをお願いします!
あの まずは、自分のことをよく知ってほしいと思います。いやなことがあったら誰かと飲んで騒いで…みたいな消化の仕方もいいんですけど、僕はそれをできなくて、みんなが飲みに行ってる間も家で自問自答してた。そうして自分と向き合ってるうちに寂しさは消えて、「僕には僕自身がいる!」って自分の存在を居心地よく思えてきたんです。だから自分らしく生きることの難しさに悩んでいる人は、とことん自分と向き合って、僕みたいに自分の中に居場所を見つけるのもアリだと思います。
―― そして10年、20年、もっと先…。あのさんはどんなふうに歳を重ねていきたいですか。
あの 今回服を作って思ったんですけど、いくつになってもファッションを楽しんでいたいです。ゴスロリも着るおばあちゃんになりたい。「何歳になったらミニスカートは卒業」みたいな考え方、すっごい腹立つんですよね…(笑)。本来は歳を重ねるほどに自分がかわいいと思う服、元気になれるかっこうをするべき。だからおばあちゃんになった僕は、今よりずっとパワフルにファッションを楽しんで生きているはずです!
Profile

あの
2020年よりソロ音楽活動を開始。2022年、TVアニメ『チェンソーマン』エンディング・テーマに楽曲「ちゅ、多様性。」が抜擢され国民的な人気に。現在、多方面で活躍し、今秋はアパレルブランド『HELL BLAU(ヘルブラウ)』をリリース。いま好きなものは、ロボットによるボクシング動画を見ること。「かわいさとグロテスクが入り交じった感覚が好き」
Information
『HELL BLAU』
『HELL BLAU』は、公式オンラインストアで発売中。今回のテーマは“school”。ジャージ、ルーズソックスなどは、冬頃に展開予定。また12月24日には、全編書き下ろしの哲学書『哲学なんていらない哲学』(KADOKAWA)が発売。2026年3月からは、全国9都市のライブツアー「ano HALL TOUR 2026」を開催。
写真・JOJI(RETUNE Rep) インタビュー、文・大澤千穂
anan 2466号(2025年10月8日発売)より