
2021年にNHKで放送され、その不思議さ全開な世界観に視聴者が釘付けになったドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』。オダギリジョーさんが脚本・演出・編集、そして犬役を務めたこの作品が、2022年のテレビ版シーズン2を経て、満を持してスクリーンに登場。今回ももちろん脚本・監督・編集・出演を務めるオダギリさんと、テレビドラマから引き続き出演する麻生久美子さんに、作品への思いを語っていただきました。長年の友人で「幼ななじみのような存在」(オダギリさん)というお二人曰く、どうやらますます、カオスっぷりが深まっている模様です。
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お互いの最初の印象は、揃って“話しやすくておもしろい人”

狭間県警鑑識課警察犬係のハンドラー・青葉一平(池松壮亮)の相棒は、伝説の警察犬・ルドルフの子どもであるオリバー(オダギリジョー)。他の人が見ると優秀な警察犬なのに、なぜか一平の目には、オリバーは口が悪くやる気がない、女好きで慢性鼻炎の着ぐるみのおじさんに見えてしまう…。そんな1人と一匹(2人?)が、次々に発生する不可解な事件に挑んでいく、というのが、テレビドラマシリーズのメインストーリー。
今回の映画『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』では、青葉一平とオリバーのもとに隣の如月県のカリスマハンドラー・羽衣弥生(深津絵里)がやってきて、スーパーボランティアのコニシさん(佐藤浩市)が行方不明になったので、一平とオリバーに捜査協力を求める、というところから物語はスタート。麻生さんが演じるのは一平の上司である漆原冴子。隙あらば前髪を切るため、極端に前髪が短い女性です。

© 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会
── お二人といえば、ドラマ『時効警察』での共演の印象が強く、とても仲が良いイメージがありますが、お互いの第一印象を教えてもらえますか?
オダギリ 第一印象…、最初っていつになるんだろうね。
麻生 大河ドラマの『新選組!』(2004年)? でもあれはお互いただ見かけただけだから、正確な意味であれは最初ではないか。ちゃんと話したのは、三谷幸喜さんの映画『有頂天ホテル』(2006年)の、スタジオ移動の車の中?
オダギリ ああ、なんとなく覚えてる。その前から映画にこだわって活動されているイメージがあったし、しかもその選び方から仕事への美学が見えていたから、素敵な俳優さんだな、と思ってました。だから「あ、麻生さんだ…!!」って感じでしたよ、僕は。
麻生 あら、嬉しい。でも私も同じようなことを思っていましたよ、「こだわりをしっかり持ってる方だ」って。
オダギリ でもだからこそ、人を寄せ付けないタイプの人なのかな、とも思ってたんですよ。なんていうのかな、神秘的というか…(笑)。
麻生 何?! やめて(笑)。確かにあの頃はそういうイメージで売っていきたいと思っていた時期だった(苦笑)。あのときは、挨拶程度でしたよね。なんか、あんまり顔をしっかり見ちゃいけないような気がしていたんですよ。

オダギリ 確かに、見た目がね(笑)。ものすごい生え際が上がっている役だったから(笑)。特殊メイクでね。
麻生 そうそう。だから、じっくり顔を見てお話するのも失礼かしら…と、変な気の遣い方をしたのを覚えてます。じっくりお話をしたのは、ドラマ『時効警察』(2006年)で、そこで「すっごい話しやすい人…!!」って思ったんですよ。
オダギリ 僕もそのとき、話しやすくて楽しい人だな、と思いましたね。なかなか自分の周りにはいなかった面白さを感じました。
麻生 ドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』のアイデアを聞いたのも、確か『時効警察はじめました』(2019)の撮影の合間だったよね? 撮影の合間に、美味しいお寿司を食べに行ったときに…。
オダギリ そうそう。お寿司を食べながら「こうやって毎日地方の美味しいものを食べながら、楽しく撮影できるドラマをやりたいね」とか言ってるところから、「実は今、考えてる作品があるんだよね、犬なんだけど、着ぐるみで…」みたいな話を軽くしたよね。そのときはまだアイデア段階だったんですけど、「もしやることになったら、麻生さんも出てね」って。
── 麻生さんの反応は…?
麻生 おもしろそうって。で、「私も犬がいい」って言いました(笑)。
麻生さんの自撮りメールで、役の設定が定まった

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── 麻生さんが演じる漆原冴子というキャラクターは、隙あらば職場のトイレで前髪を切るというクセがある女性です。この役の設定には、麻生さんがオダギリさんに送ったメールが深く関わっていると聞いたのですが…。
麻生 個人的に漆原は前髪が短いイメージかな、と思って、撮影に入る1か月くらい前に前髪を切って、その写真をオダギリさんにメールしたんです。「漆原のイメージにこの髪型いいかな、と思って、前髪を切ってみたんですが、どうですか?」って。私としては、「いいね、漆原っぽいね!」的なリアクションが返ってくることを期待してたんですが、なんか全然私の意図が通じてなくて、「え…、なんでそんな写真送ってくるの?」みたいな塩対応だったんですよ。
オダギリ …いや、確か「ねえねえ、前髪切ったんだけど、どう?笑」って自撮りの写真が送られてきたんですよ。「役のイメージで」とかは書かれてなかったから、なかなかな事件だな…と思って(笑)。
麻生 ちょっと、私が変な人みたいな言い方しないでよ(笑)。私は、監督に、役作りの一環としての提案をしたわけよ。短すぎるならあと1か月で伸ばせるし、イメージ通りならこれをキープするし、どうしましょう?っていう気持ちだったのに。

オダギリ でもそのとき、改めて「やっぱり麻生さんっておもしろいな」って思って、いっその事、漆原の役を、“どんどんどんどん前髪を切っていく女”っていう設定に変えたんです。たぶん、脚本の第一稿にはその要素はなかったけど、麻生さんのその“へんてこな行い”のおかげで役が広がったんです(笑)。
麻生 へんてことか言わないで(笑)。
オダギリ でも今思えば、『時効警察』のときから、待ち時間に話しているときのリアクションや発言がどれもおもしろくて、途中から、休憩時間に笑っていた事を芝居にアドリブで入れ込むようになっていったんです。そうしたやり取りが、結果として『霧山と三日月』のキャラクターや関係性を膨らませたし、作品にとってもプラスに進んでいきました。あの頃からすでに、麻生さんのおもしろさを僕が作品の中に盛り込んでいくという形は始まっていたんです。おそらく僕は、日本で一番麻生さんの良さを活かすキャラや芝居を作れる人間だと自負してます(笑)。

── では反対に、麻生さんにとってオダギリさんはどんな存在ですか?
麻生 私、オダギリさんが監督をやった『帰ってきた時効警察』(2007)の第8話が大好きで、あのときのお芝居で、ものすごく自分を解放できた感じがあったんです。
オダギリ 僕からすると、その前からすでに解放されてたと思うけどね(笑)。
麻生 そうかもしれないけれど(笑)。あの8話でさらに振り切れた感覚があって、「ここまでやらせてくれるんだ!」と思って、すごく楽しかったんです。それまであんなお芝居をしたことがなかったし、あの解き放たれる感覚は今でもよく覚えてて。私はあまり自分の作品を見るのは好きじゃないんですけれど、あの8話は何度も見たし、見るたびにおもしろいって思ってます。だから今回お声がけいただいたときも、またオダギリさんの監督作でお芝居ができるんだって思うと嬉しかった、というのが正直な気持ちです。漆原という役も大好きだし。まあちょっとカロリーが高いので大変な役ではあるんですが(笑)、だからこそやりがいがあるし。
映画だからこそ、観終わったあとのカオスを追求

── 最初はテレビドラマで始まったこの作品が、今回は映画として作られたわけですが、監督としてそのあたりはいかがですか?
オダギリ 正直なことを言うと、最初は微妙な気持ちでした。
麻生 またそういうことを言って…。
オダギリ というのは、『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』は、「テレビで面白いものを作ろう」と企画した作品だったんです。そもそもテレビと映画は全く違う競技なので、同じベクトルでは考えられないものなんですよ。TVシリーズとは全く違う、映画ならではの『オリバーな犬』とは何なのか?。もっと根元的に『映画とは何なのか?』という事まで掘り下げることになりました。単なるテレビシリーズの延長ではダメだったんです。

── TVシリーズでは45分だった作品が、ぐっと長くなり、内容も良い意味でかなり違うものに仕上がっていた印象です。そして、カオス度が増していました。
オダギリ テレビというものはそもそも“ながら見”されるもので、多くの刺激に囲まれた環境で見ていますよね。少しでも分かりにくかったり、ひねりが入ると、携帯を手に取られたり、チャンネルをすぐ変えられてしまいます。でも劇場は、閉鎖された空間で、大きなスクリーンで作品世界に集中できるように作られた、特別な場所なので、観客の感性をもっと信じるべきなんです。丁寧すぎるのは時に退屈で、むしろ、ちょっと置いていかれる、くらいのほうが、映画は楽しいはずだと僕は思っています。今回も、そういった映画ならではの遊び方や、見終わった後の読後感、みたいなことは、かなり大事に作りました。せっかく劇場で観ていただくんだから、特別な体験になってほしいので。
麻生 なるほど。今その話を聞いて、「私、置いていかれていたんだ」と思いました(笑)。
オダギリ え、麻生さんが?
麻生 うん。でもだからこそ観終わったあとが楽しかったんだと思う。追いつきたくて、頭の中がぐるぐるしちゃった。良い意味で。
オダギリ 良い意味でね。ああ良かった(笑)。
麻生 もちろん台本を全部読んでいるし、内容も分かった上で演じているんだけれども、分かってるようで分かってないことも多かったらしく、「あれ、こことここは繫がってる…?」「こっちとこっちは別の話…?」みたいに、頭の中を“はてな”が飛び回っていて。でもそれがすごくおもしろかったんですよ。終わった後まで、こんなに映画や役のことを考え続けられるって、なかなかないですよ。

── 監督になにかメールされましたか?
麻生 はい。「おもしろかった」って。
オダギリ 短いな(爆笑)。
麻生 もうちょっと具体的なことも書きましたよ! でも改めて、オダギリさんの頭の中ってこうなっているのか…っていうのを感じましたね。私はどちらかというと単純な人間だと思うんですけれど、世界がこんなふうに見えている人がいるのかと思ったら、それもおもしろくて。やっぱりいろんな人間がいるんだな、とも思いました(笑)。
オダギリ監督の無理難題に果敢に挑み、応える麻生さんは、現場の守り神

── オダギリさんは、今回麻生さんとご一緒されたことで、なにか新たな発見はありましたか?
オダギリ 監督の時ってめちゃくちゃやることが多くて、常にバタバタなんですよ。役者として一緒にいるときよりも、全然話もできないし、一緒にいる時間がほとんどないんですよ。
麻生 そうそう。しゃべっていると、「監督〜!」って呼ばれちゃうから。
オダギリ でもそれでも自分にとっては、古くからの親友がいてくれる安心感というのか、麻生さんがいる日はすごく気が楽でした。あと、もちろん台本があるからやることは決まっているんだけれども、麻生さんが演じると台本よりもっとおもしろくなりそうで、「今日は何をしてくれるかな」という楽しみもありました。
麻生 え、本当? それは嬉しい。

── 麻生さんはオダギリさんにとって、現場の守り神みたいですね。
オダギリ 本当にそうなんですよ。
麻生 でもオダギリさん、私に厳しいからね〜(笑)。
オダギリ いやいや、それは麻生さんの能力の高さを知ってるからだけどね。芝居って実は細かくて繊細な作業なんですけど、麻生さんは何をお願いしてもちゃんと応えてくれるんです。他の俳優さんからしたら、「あんな難しいことやらせるのか…」ってハラハラする人も居ると思うけど、結果的にみんな、麻生さんの凄さに驚いていると思うよ。
麻生 こっちはアップアップですけどね。
オダギリ 「あんな細かい演出に対して、あ、オッケーだった。またオッケーだった。麻生さんすごいな!」って。
麻生 「あ、ちょっと危ないかも。あれ、70点って言われてる」(笑)。
オダギリ いや、それは敢えて「今のは70点だったね(笑)」って言うことで、周りの俳優が「え? あのレベルで70点なの?」って、緊張感を持ってくれるからだよ(笑)。コメディって和気あいあいと楽しくやってると思われますが、現場は緊張感すごいよね? 自分の芝居がズレたせいで笑えないシーンになるのは避けたいもんね。集中と緊張が必要な現場ですよ。

── 麻生さんは、今回の現場で印象的だったことはありますか?
麻生 私たちの話ではないんですが、深津絵里さんが出てくれたことが、本当に嬉しかったです。本当にずっとずっと素敵な俳優さんだなって思っていたので。
オダギリ そうだよね。
麻生 オダギリさんが朝ドラで共演してくれたおかげで…。私、現場で、本当に幸せだった、すごい幸せでした(笑)。あの透明感、キレイだった…。映画の中で、私の役の漆原が、深津さん演じる羽衣さんにちょっと失礼なことをするシーンがあるんですが、演技だから“フリ”でいいのに、はずみで“本当に失礼”になってしまって!! あれは焦りました、めちゃくちゃ平謝りしました。
オダギリ 観ていただければわかりますが、あれはもはや暴力沙汰だよね(笑)。
麻生 お願いだからやめて(笑)。でも本当に本当にご一緒できて嬉しかったな。

── お二人はもちろん、深津さんなど本当にキャストも豪華。なおかつ先ほど麻生さんがおっしゃたように、「あれはどういうことだったんだ?」と良い意味で“はてな”が解明されない映画でもあります。つい続編を期待してしまうのですが…。
オダギリ いやいやいや、これ、書いていいかわからないんですが、実は制作期間が延びたりなんだりで、すでに結構な赤字を抱えているんです(苦笑)。なので動員が悪く赤字のままで終わると、僕はもう一生映画なんて撮らせてもらえないと思っています。でもそれは当たり前のことなんです。映画は莫大な制作費をかけている、ビジネス的な側面があるのも事実なので。自分のこだわりの結果、数字的に失敗するなら、責任を取る必要があると思っています。
麻生 そうだよねぇ。なので、みなさん、どうぞよろしくお願いします(笑)。
Profile

オダギリジョー
1976年2月16日生まれ、岡山県出身。監督としては、オリジナル脚本による初の長編映画『ある船頭の話』(2019年)は、第56回ベネチア国際映画祭のベニス・デイズ部門に選出され、その後国内外で賞を受賞。「東京ドラマアウォード2022」で『オリバーな犬、(Gosh!)このヤロウ』が単発ドラマ部門作品賞のグランプリを受賞。俳優として待機作に『兄を持ち運べるサイズに』(2025年11月公開予定)がある。
麻生久美子
あそう・くみこ 1978年6月17日生まれ、千葉県出身。1995年に俳優デビュー。1998年映画『カンゾー先生』で日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。以降、映画やドラマで活躍。主な出演作に、ドラマ『時効警察』『怪奇恋愛作戦』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』『MIU404』『魔物』、映画『贅沢な骨』『モテキ』『ラストマイル』など。現在映画『海辺へ行く道』が公開中。
Information
THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE
狭間県警鑑識課警察犬係のハンドラー青葉一平と相棒のオリバーのもとに、隣の如月県警のカリスマハンドラー・羽衣弥生がやってきた。要件は、如月県でスーパーボランティアのコニシさんが行方不明になったため、捜査協力を求めてきたのだった。「コニシさんが海に消えていくのを見た」という目撃情報から、彼のリヤカーが残された海辺のホテルに向かう一平とオリバーだったが…。
脚本・監督・編集・出演/オダギリジョー 主演/池松壮亮 共演に麻生久美子、本田翼、岡山天音、黒木華、鈴木慶一、嶋田久作、宇野祥平、香椎由宇、永瀬正敏、佐藤浩市、吉岡里帆、鹿賀丈史、森川葵、高嶋政宏、菊池姫奈、平井まさあき(男性ブランコ)、深津絵里 音楽/森雅樹(EGO-WRAPPIN’)9/26より全国ロードショー
© 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会
麻生さん衣装・ドレス(リミフゥ TEL. 03-5463-1500)、ジュエリー(タサキ TEL. 0120-111-446)
写真・内山めぐみ スタイリスト・西村哲也(オダギリさん) 井阪恵(dynamic/麻生さん) ヘア&メイク・砂原由弥(UMiTOS/オダギリさん) ナライユミ(麻生さん) インタビュー、文・河野友紀