
杉井 光『羊殺しの巫女たち』
「スティーヴン・キングの『IT』という小説が大好きなんです。いつかそのオマージュ的な作品を書きたいと思っていました」。『羊殺しの巫女たち』は、杉井光さんのそんな思いが結実した、心揺さぶられるホラー&ミステリーだ。
村の因習をわたしたちが終わらせる。少女たちの宿願は、何を暴くのか
山間にある早蕨部(さわらべ)村には、未年にだけ行う特別な祭りがある。12歳になる年女が巫女を務めるという決まりで、1991年の未年に巫女となり神事に関わった少女たちは、伊知華(いちか)、健瑠(たける)、梢恵(こずえ)、美咲、夏帆(かほ)、そして語り手の〈わたし〉――祥子(しょうこ)だ。2003年、24歳になった〈わたし〉や彼女たちは、次の祭りの日に集まろうと誓い合った通り、12年ぶりに村で再会する。だが、前の未年と同じように村で惨殺死体が見つかり、村の人たちはまたも〈始まった〉と囁き合う…。
「またぐ2つの年代をいつにするかはちょっと悩みました。少女たちが巫女になるのを1991年に設定すれば、自分も中学生の同世代だから世相や流行を書きやすいかなと思ったんですけれど、書いてみたらその頃のことはほとんど覚えていなくて、結局いちいち調べるしかなかったです(笑)。村の閉塞感に関して言えば、そういう類いのホラー作品、特に小野不由美先生の『屍鬼』で描かれた雰囲気が参考になりました」
大人になった現在と、子どもだった過去。2つの時空がより合わされ、思いがけない真相へとなだれ込む。
「彼女たちが現代パートで殺人事件について調べていくと疑問が湧いて、『あれはあの出来事と関係があるのではないか』と曖昧だった過去を思い出すというふうに、時系列が交互になっています。その継ぎ目で関心や緊張感が途切れないようにシームレスに読ませるのがいちばん苦労した点かもしれません。少女の儚げな美しさをテーマにしたかったので、村の隠された謎と相対するのも因習に挑むのも少女だけ。巫女が出る学年には、男の子のクラスメイトはいないんです。村の有力者たる男たちを、少女たちの引き立て役にするというのも意図した構図です」
この仕掛けを思いついたときに、一気に話の外枠が固まったとか。
「真相を知ってから頭に戻って読み返すと全然違う小説に見えるというのを一度やってみたかったんですよね。二度読みして隅々まで楽しんでもらえたらうれしいです」
Profile

杉井 光
すぎい・ひかる 1978年、東京都生まれ。2006年、電撃文庫『火目の巫女』でデビュー。2023年刊行の『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮文庫)は、累計53万部に迫るベストセラー。
Information
『羊殺しの巫女たち』
細やかに張り巡らされた伏線に、してやられた感を味わうこと必至。真相にたどり着いたときに、読者はきっと孤独の痛みを思うはず。KADOKAWA 1980円
anan 2464号(2025年9月24日発売)より