
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「クマ被害」です。
山や農地の管理と駆除を誰が担うか。課題は山積み
全国各地でクマの被害が報告されています。環境省によると、2023年度のクマによる人身被害は198件、219人の被害者が出ており、過去最多となりました。今年4~8月の間にクマに襲われてケガをした人は長野県13人、岩手県13人のほか、秋田県、福島県などで計69人。北海道、岩手県、秋田県、長野県で計5人が亡くなっています。学校に出没するケースや、東京近郊でも目撃情報が出ています。
山でどんぐりやブナの実などが十分に採れなくなったため、食べものを求めて行動範囲が広がり、クマが人里に出没するようになりました。これには、気候変動と山の手入れがなされていないという2つの理由があります。もともとは、クマが棲息する奥山と人里ははっきりと分かれており、間に農耕地がありました。ところが、その農地も耕作放棄地となって荒れ果てて、野生動物が山から降りるとすぐに住宅地に行き着いてしまうようになってしまったんですね。
これを解決するには山を本格的に再生させて、クマが山で食料を得られる状況にすること、荒れた農地を改善することが対策として求められています。
クマの駆除は猟友会などの専門家と自治体が連携して対応します。ただ、高齢化によりハンター不足が問題になっています。7年前に北海道砂川市で市の要請を受け、警察官も同行した中でヒグマを駆除したハンターが、住宅の方向に発砲したとして、昨年の二審で札幌高裁は猟銃所持許可の取り消しを認め、問題になりました。また、近年のクマ被害の増加を受けて鳥獣保護管理法が改正され、9月からはクマが市街地に出没した場合、緊急時に警察官の指示がなくても市町村の判断で猟銃で駆除できるようになりました。それらを受けて北海道猟友会は、市町村の要請を受けても、安全が確保できないとハンターが判断した時には拒否してもよいと各支部に通知しています。
海外では、野生動物の駆除は軍の野生動物対策の専門職員が対応していることも。ところが日本は猟友会という民間の人たちに頼っています。重い責任を民間人に担わせるにはリスクが大きすぎるという問題があるんですね。

五月女ケイ子解読員から一言
知床に行ったときに、ヒグマの問題についてお話を聞きました。本来野生であれば人に会ったら逃げるけど、餌をもらって人に慣れると逃げなくなってしまう。餌をあげるのは優しさと思っていたのですが、お互いの距離を保つのが共生の道なのですね。
解説員
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堀 潤
ほり・じゅん ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『堀潤 Live Junction』(TOKYO MX月~金曜18:00~19:00)が放送中。新刊『災害とデマ』(集英社)が発売中。
解読員
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五月女ケイ子
そおとめ・けいこ イラストレーター。楽しいグッズが買える、五月女百貨店が好評。細川徹との共著、ゆるくておバカな昔ばなし『桃太郎、エステへ行く』(東京ニュース通信社)が発売中。
anan 2463号(2025年9月17日発売)より