左から、永瀬正敏さん、長澤まさみさん

江戸を舞台にした大河ドラマや歌舞伎役者の生き様を描いた映画の大ヒットなど、江戸芸術に注目した作品が話題となっている2025年。江戸絵画を語る上で欠かせない人物の一人である葛飾北斎。その娘・応為と北斎を映画『おーい、応為』で演じた長澤まさみさんと永瀬正敏さんにお話を伺いました。


江戸芸術から見る、命をかけて、表現するということ

―― 長澤さんは娘のお栄(応為)、永瀬さんは父の北斎を演じました。父娘の絵への情熱はどこから湧き上がってきたと思われますか。

長澤 二人の間には師弟関係が確実に存在していて、“北斎のように描きたい”という尊敬の念が、お栄を突き動かしていたのではないでしょうか。父親が天才絵師であることにプレッシャーを感じる以前に、共に暮らし、そばで働けるだけで幸せだったと思います。

永瀬 北斎とお栄はそれぞれ突き詰めようとしていた何かが、ちゃんと個性として絵に表れていますよね。北斎は、いくつになっても好きだからこそもっと上手になりたい、なれるはずだという一心だったと思います。絵にだけは非常にストイックだけど、他のことは何もできない(笑)。

―― 北斎の作品は実際にご覧に?

長澤 収集なさっている方のご厚意で、漫画や肉筆画などを見せていただきました。

永瀬 「お手に取ってください」と言っていただいてもなかなか。

長澤 貴重なものですからね。「お先にどうぞ」「いやいや」みたいなやり取りが30分くらいありました。

永瀬 僕はすでに絵を描く練習を始めていたので、実物を前にしてこんなにも細かく綺麗に顔や着物の柄を描けるものなのかと感心することしきりでした。

長澤 『北斎漫画』を見ると、絵自体が小さいのに髪の毛もまつ毛も、ペンで描いたかのように均一で細い。それを筆で描けることに驚き、奥行きを感じることができて、今回演じる上で役立ちました。この前、新たに見つかった応為の絵も見せていただいたんですよ。

永瀬 そうなんだ、羨ましいな。

長澤 応為が北斎の絵にキセルの火種を落として最後の最後でダメにしてしまうシーンがありますけど、江戸時代は火事が多く、一生懸命に描いても一瞬で燃えて消えてしまう。そんな日常の中で二人は描き続けたんですよね。

―― ちなみにお二人は、絵心はあるほうですか。

長澤 子どもの頃から描くのは好きです。上京したら上手な人がたくさんいて一度描くのが怖くなってしまったんですけど、今でも描いています。

永瀬 僕は絵心がまったくなく…。筆で直線をすっと引くだけでも本当に難しくて、そればかり繰り返していました。長澤さんは練習の段階から驚くほどお上手で。

長澤 いえいえ。筆一本で線の強弱や濃淡をつける手法が独特で、難しいけれど面白かったです。

永瀬 ものすごい技ですよね。

―― 互いのすごさは?

長澤 永瀬さんはオープンマインドで、映画への愛をみんなに伝えてくださるんです。私が仕事を始めた頃に感じた、映画の現場にいる喜びや幸せ、刺激を受けてやる気に満ちていく感覚といったものを、ずっと鮮度を保って持っていらっしゃる。“純粋”という言葉でも足りないくらいの愛と想いが行動に宿り、役を作り実在感を生み出すのだと、永瀬さんの居住まいから教わりました。

永瀬 いいことばかり言ってもらい、涙が出そうです。長澤さんはもう“華”ですよね。メイクなど綺麗に見せるためのすべてをとっぱらったところにある真の華。僕は写真を撮るんですけど、役を忘れて撮りたくなる美しさを各シーンで感じました。おそらく長澤さんは10年後は10年後、20年後は20年後が一番美しい。どんどん華を増していく確信があるので、毎年共演したいです。

―― 北斎の門弟の善次郎を演じた髙橋海人さんが加わると、現場の空気は変わりましたか。

永瀬 変わりましたね。髙橋くんは可愛らしくて、長澤さんとは前に先生と生徒役だったんだっけ?

長澤 『ドラゴン桜』で私は先生のような立ち位置だったので、ちょっとえばれるというか(笑)。

永瀬 お姉さんと弟のような関係性がこの作品にすごく合ってた。

長澤 髙橋さんもそうですけど、その空間に一緒にいる人によって役の人物像が見えてくることが少しずつわかってきた現場でした。

―― 最後に、ご自身が熱狂するエンタメを教えてください。

長澤 私はBLACKPINKが大好きで、個性際立つ戦士のような4人から元気をもらっています。来年の東京公演が楽しみです。

永瀬 僕はドキュメンタリー。映画監督を何年もかけて追った番組を見ると僕も頑張らなきゃと刺激を受けます。世界で起きていることも深く知れますし、歴史も自然もジャンル問わずよく見ますね。

Profile

長澤まさみ

ながさわ・まさみ 1987年6月3日生まれ、静岡県出身。2004年、出演した映画『世界の中心で、愛をさけぶ』が大ヒット。以降、映画『海街diary』や『コンフィデンスマン』シリーズ、舞台『おどる夫婦』など数々の作品に主演。

永瀬正敏

ながせ・まさとし 1966年7月15日生まれ、宮崎県出身。ジム・ジャームッシュ監督作『ミステリー・トレイン』で注目を浴び、世界を舞台に活躍。俳優人生43年目を迎えた今年は、映画『国宝』を含む3作品が公開に。

Information

『おーい、応為』

国内外で高い評価を受ける江戸絵画。命をかけて、表現するということ。その人気は健在で、作品とともに絵師自身の人生にも注目が続く中、本作では葛飾北斎の娘・お栄(応為)に光を当てる。天才の父親に「美人画では敵わない」と言わしめる画才を持ちながら、謎に包まれてきた応為と北斎の日々が描かれる。世間に媚びることなく、自らの意志を貫いた彼女をしなやかに力強く演じたのは長澤まさみさん。永瀬正敏さんは、生涯を絵に捧げた北斎を全身全霊で演じ切った。10月17日全国公開。

永瀬さん・ジャケット¥363,000 ベスト¥256,300(共にYohji Yamamoto POUR HOMME) シャツ¥61,600(Y's for men) 以上ヨウジヤマモト プレスルーム TEL. 03-5463-1500

写真・伊藤彰紀(aosora) スタイリスト・大塚 満(長澤さん) 渡辺康裕(永瀬さん) ヘア・Yusuke Morioka(eight peace/長澤さん) メイク・スズキナミコ(長澤さん) ヘア&メイク・橋本孝裕(SHIMA/永瀬さん) 取材、文・小泉咲子 撮影協力・バックグラウンズ ファクトリー

anan 2463号(2025年9月17日発売)より
Check!

No.2463掲載

熱狂のカタチ 2025

2025年09月17日発売

みんなの気持ちを揺り動かし、大きな熱狂を呼んでいる人、作品、モノにフォーカス。葛飾北斎の人生を描いた映画『おーい、応為』に出演する長澤まさみさんと永瀬正敏さん、歌舞伎界の新鋭・市川團子さん、T-POPのニューウェーブ・JASP.ER、話題の恋愛リアリティ・ショー『今日、好きになりました。』のキャスト、「kawaii」を生み出し続けるアソビシステムのクリエイターなど、いま盛り上がりを見せる各界の豪華な面々へのインタビューから、バズを生み出している秘密に迫ります。

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秋分の日。暦の上では秋も後半となり、少しずつ朝晩の肌寒さが増してきます。さて、今日の暦は強いリーダーシップ(指導力・組織力)を示すものですが、あくまで力の及ぶ範囲にとどめることが肝心との注意書きも付いています。欲を出して部外のことまで口出しすると、そこで新たな問題を呼び込んでしまいます。謙虚さが大事です。

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