芸人としてバラエティで体を張ったり、ハムのCMで歌い踊ったり。でも実は、いとうあさこさんは劇団所属の俳優なんです。今月、舞台であの“アイドル”と共演するらしい?!

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    私は最初からずっと、“喜劇”がやりたくて、それを目指してきました

    トークでもロケ番組でも、独特のおもしろさを放っている芸人のいとうあさこさん。今月、1年ぶりに俳優として所属している劇団の演劇の舞台に立つとのこと。芝居への思いや、今の年齢で改めて思うことなどを伺いました。

    ―― いとうあさこさん=お笑い芸人という印象が強いのですが、劇団に所属されていたんですね。

    いとう その情報、届いてないかぁ(笑)。公演のたびに告知をしているのですが、番組で告知をしていただいたとしても、見ている人は限られますし、さらに私がSNSに熱心ではないので、あまり届かないんですかね。

    ―― ご自身にとって演劇とはどんな存在なのですか?

    いとう もともと私は〈喜劇〉をやりたい気持ちが原点なんです。小さい頃は、いかりや長介さんや伊東四朗さんが好きで。

    ―― お笑い出身の俳優さんですね。

    いとう はい。お二人の、喜劇も悲劇も素晴らしいという振れ幅は、お笑いの頂点を極めた人ならではなのかな、と思っていて。そんなところから私も喜劇をやりたい、と。あと、お笑い出身ではないですが、昔フジテレビでやっていたドラマ『やっぱり猫が好き』を見てから室井滋さんも大好きです。

    ―― なるほど。スタート地点から、いとうさんにとってはお笑いとお芝居は一致していたんですね。

    いとう そうですね。それで20代の頃、お芝居を習いたいと思い、どこか学校に入ろうと思ったんですが、働きながら夜間に通うわけで、お金もない。なるべくいろいろ習えるところがいいということで、歌も踊りも演技も学べる専門学校のミュージカル科に入りました。卒業後、オーディションに受かって出ることになったミュージカル『アルプスの少女ハイジ』で、ロッテンマイヤー先生を演じることになったときに、演出家の方から、「いとうはもう全部アドリブでいいから、毎日違うやり方でハイジをいじめて」という課題を与えられまして(笑)。

    ―― 最初からアドリブ!

    いとう そこで生まれて初めて“ネタ帳”を持ち、あれこれ書いて、それをぶつけるという経験をしたんですが、「ウケるって気持ちがいい」こと、自分が「滑ったら明日はもっとこうしてやろう」と考えていることに気が付いたんです。また改めて、「私は喜劇が好きだったじゃん!」と確信して。当時ちょうどテレビ番組の『ボキャブラ天国』などお笑いブームだったのもあって、専門学校の友人と共にお笑いの世界に足を踏み入れたのが第一歩です。

    「コメディがやりたい!」その思いで劇団に参加

    ―― 所属する劇団「山田ジャパン」は、いとうさんが38歳のときに立ち上がったと聞いています。

    いとう 山田ジャパンの主宰の山田能龍(よしたつ)は、切磋琢磨していた時代の芸人仲間だったんです。当時はよく同じお笑いライブに出たり、山田のバイト先のカラオケボックスに夜中に押しかけて、「安くしてよ」とか言って歌わせてもらったり(笑)。でも、彼が芸人をやめてからはしばらく会っていなかったんですが、人づてに「山田がコメディの劇団を始めるらしいけど、女優が足りないらしい」と聞いて、「私がやりたい! って言っているって伝えて!!」と友達にお願いをし、その後、山田が私のお笑いライブを観に来てくれた帰りに、居酒屋で“合格”の握手をして立ち上げから参加しました。

    ―― 当時のいとうさんは、まだテレビには出ていない頃でした?

    いとう まだまだ(笑)。私は周りの大人たちにずーっと「売れない」と言われてきたので、「どうやったら売れるだろう?」じゃなくて「バイトどうしよう」ばっかり考えていました。というのも昔、深夜の牛丼屋さんでバイトしていたのですが、当時制服がキュロットで。冬に膝出して搬入時、肉などを冷蔵庫に入れるのが寒くて。「40過ぎてもできるかな?」って。ちなみに今、制服は長ズボンらしいです(笑)。

    ―― ピン芸人としてやっていたいとうさんにとって劇団という“居場所”ができたのは嬉しかった?

    いとう 嬉しかったですね。当時の山田ジャパンは全員が「笑わせてやるぞ…!!」という謎の気迫に満ちていて、言い方が難しいですが、ちょっとおかしい奴らの集団だったんです(笑)。舞台が終わるたびに毎晩居酒屋に飲みに行き、ワイワイやって。がむしゃらで本当に楽しい時代でした。下北沢の「楽園」という本多劇場グループの小劇場からスタートしたので、横にある本多劇場を見ながら、「いつか出られるかな」「そうなったらいいね」なんて話を本当によくしていました。

    ―― 青春ですね。

    いとう ですね。あの頃はそんなわけで「売れない」と言われていて。つまり、今の“テレビ人生”よりも先に山田ジャパンは始まっているんです。こういう私の変化の横には、ずっと山田ジャパンがいる。だからこそ本当に大切なんです。大人になってからできた親友・大久保佳代子さんと同じくらい大切、かな(笑)。

    ―― 今回の公演の資料に、「山田能龍が書く言葉が好き」というコメントを寄せていました。山田さんの本や言葉の魅力とは?

    いとう まずコメディとしておもしろいというのが大きいですが、人間の苦しさ、喜び、悲しさ、怒り、それから生き死にみたいなことが含まれる言葉が連なって、台詞になっている。私自身、ここ10年くらい生死について考えるタイミングがいろいろあって。その台詞たちがすごく響くんですよね。それが優しく響くこともあれば、ドカンとお腹に突き刺さることもある。そんな山田の言葉を、お客様に大切に、しっかり届けたいと毎公演、そう思っています。

    “演劇界の宝”との再共演がとても楽しみ

    ―― ということで今回の『ドラマプランニング』。どんなお話に?

    いとう 舞台はドラマの制作現場です。いろんな専門スタッフとキャストが集まって一つの作品を作るわけですが、そこでいろいろとトラブルが起こり…。

    ―― いとうさんの役柄は?

    いとう 私は、主演俳優の名物マネージャーで、「この脚本と共演者であれば、主演は降ろさせます」と言っちゃう人(笑)。現実の私の仕事では、俳優のマネージャーさんってほとんど接することがないんですが、どこの業界にもいそうな年長者の役です。一見すると極悪人かもしれないけれど、それぞれの役割と正義があって、彼女というモンスターが生まれた背景や事情みたいなことが、役作りに乗っかってくるのかなと思っています。

    ―― そんなマネージャーに右往左往させられるのが、原嘉孝さん演じる若手ドラマプロデューサー。

    いとう そうなんですよ。原くん、去年3月に山田ジャパンに出てくれて、そのときの打ち上げで「またやろう」となっての今作なんですが…。

    ―― 原さんはここまでの間に、いろんなことが起きましたね。

    いとう ほんとですよ。私普通に『timelesz project』見てたら、原くんが突然出てきたんです、「遅れてすいません、原嘉孝です」って(笑)。寺西(拓人)さんもそうですが、演劇界の宝二人が「アイドル界に!?」みたいな驚きはあったんですが、4次審査で「Purple Rain」を歌い踊る彼は、“私が知らない原嘉孝”だったんです。こんなに色っぽいんだ、こんなふうに動ける人だったんだ…って。

    ―― それまでの原さんはいとうさんにとってどんな存在でしたか?

    いとう 優秀な役者であり、元気なタンクトップお兄さん(笑)。それが急に、顎のラインを見せてきたり、センターで踊っていたり、最後は片脚で座ったりして、「なんだこの人!!」って。もちろん良い意味ですよ(笑)。ただ単に、私がこのポテンシャルを知らなかっただけで、この原嘉孝のものすごい才能たちに感動して、めちゃくちゃ応援しておりました。timeleszになって本当によかった。

    ―― そんな、新しい引き出しが開いた原さんとの共演ですね。

    いとう ね、楽しみしかないです。あの人、台詞を覚えるのもめちゃくちゃ早いんですよ。シュ、モミモミ、パーンみたいに覚えてくる。

    ―― わかるようなわからないような…(笑)。では、いとうさんは?

    いとう ペタペタ、ズルズル、待って待って…って感じです。

    ―― そう言われると、確かに原さんはなんか早そうです。

    いとう ちなみにペタペタは、台詞を書いた付箋を自分の体に貼っていくイメージで、ズルズルはそれが剥がれて落ちていき、待って待ってで付箋を追いかけるって感じですね(笑)。

    ―― なんだかイメージできました(笑)。そういえば先日、親友の大久保さんにインタビューさせていただいた際、「40~50歳になったら楽しくなると言われていたけど、正直そんなことはない」とおっしゃっていたのが印象的だったんですが、いとうさんとしては、そのあたりどうですか?

    いとう 右に同じです、楽しいなんて無理、だって疲れてるんだもん(笑)。もちろんすごく幸せですよ、いろんな仕事もして親友もいて、劇団で舞台にも立てる。40歳過ぎて忙しくなるなんてこんなありがたいことないですから。でも、ずーっと疲れてる(笑)。私、山口智子さんも大好きなんですが、「60歳になって、今が一番楽しいし元気」みたいなことをおっしゃっていて。すぐに大久保さんちに行って「これホント? 嘘だよね? 我々、疲れてるよね?」なんて確認しちゃいましたよ。あと草笛光子さんも、年を重ねられてなおキラキラしているので憧れますけれど、私たちに限っては、そういう“元気”とか“キラキラ”はまだお見かけしていない(笑)。でも50代もあと5年あるので、そこで見えてきたらいいなぁ。

    Profile

    いとうあさこ

    1970年6月10日生まれ、東京都出身。2003年よりピン芸人として活動開始。劇団「山田ジャパン」のほか、俳優としてテレビドラマ、映画などにも出演。レギュラー番組に『世界の果てまでイッテQ!』『ヒルナンデス!』『上田と女が吠える夜』(すべて日テレ系)、『トークィーンズ』(フジテレビ系)など。

    Information

    所属する劇団・山田ジャパンの舞台『ドラマプランニング』に出演。初のチーフ作品を担当することになった若手プロデューサーだが、想定外のトラブルが多発。主演俳優の名物マネージャーから降板を告げられ…。脚本・演出は山田能龍。共演に原嘉孝、松田大輔(東京ダイナマイト)、永山たかし他。9/26~10/5、本多劇場で上演。山田ジャパン info@yamadajapan.com

    写真・内田紘倫(The VOICE) インタビュー、文・河野友紀

    anan 2463号(2025年9月17日発売)より
    Check!

    No.2463掲載

    熱狂のカタチ 2025

    2025年09月17日発売

    みんなの気持ちを揺り動かし、大きな熱狂を呼んでいる人、作品、モノにフォーカス。葛飾北斎の人生を描いた映画『おーい、応為』に出演する長澤まさみさんと永瀬正敏さん、歌舞伎界の新鋭・市川團子さん、T-POPのニューウェーブ・JASP.ER、話題の恋愛リアリティ・ショー『今日、好きになりました。』のキャスト、「kawaii」を生み出し続けるアソビシステムのクリエイターなど、いま盛り上がりを見せる各界の豪華な面々へのインタビューから、バズを生み出している秘密に迫ります。

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    「あの人の言葉だったらみんな聞いてくれる」という感じの信望がある人の存在が重要な日です。子供のケンカを上手に収める先生、何かあったときに優しく相談に乗ってくれる人など。たとえ厳しいことを告げるにしても、公正な判断に基づくものなら誰も文句は言わないでしょう。また、その土台として傾聴のスキルが不可欠です。

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