
フジテレビの“木10”枠で現在放送されているドラマ『愛の、がっこう。』。毎週、リアタイを欠かせなくなるほど作品の虜になっているという、文筆家でドラマオタクの小林久乃がその魅力を解説。
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春ドラマでヒットとなった『波うららかに、めおと日和』に引き続き、今クールもフジテレビの“木10”枠が盛り上がっている。現在放送されているのは木村文乃さん主演、ラウールさん(Snow Man)出演による『愛の、がっこう。』だ。
同作は教師とホストの禁断の愛を描くドラマで、最初に資料を読んだ際に「あ、これはヒットするだろう」と予測ができた。実際に放送が始まると、SNSやTVerでの反響は大きく、放送回を追うごとに視聴者の熱が帯びている様が伝わってくる。“木10”で一体何が起きているのか。
向き合うのは2人だけ。周囲は皆、嘘の壁を持つ

©フジテレビ
放送前に『愛の、がっこう。』の資料に目を通した際、「ああ、これは人気が出るだろうなあ」とおおよその予測がついた。純然としたラブストーリーではなく、周囲から反対を受ける禁断の愛。昨今、地上波では何かと細かな表現規制が多く、なかなか踏み出しにくくなっている題材にフジテレビが踏み切っている。
改めて、あらすじをピックアップしよう。
“小川愛実(木村文乃)は大手企業の役員を父に持つ、実家住まいの高校教師。35歳となり父の勧めで婚約したばかりの矢先、生徒の起こした不祥事からホストのカヲル(ラウール)と出会う。互いに自分とは生きる世界が違う人間だと気づきながらも、惹かれあっていく愛実とカヲルだった”
経済的に恵まれた環境に育ち、恋愛でつまづいた経験はあるけれど、愛実はきちんとしたお嬢さんだ。結婚するのかどうかは別として、婚約者も銀行員という肩書きは、申し分がない。一方、カヲルは恋愛に奔放な母親に育てられ、まともな教育も受けられず、文字が書けない。そんな彼が家族のために稼ごうと選んだ職業がホスト。ライバルの背中を追いかけている。何もかも違う2人だけど、何もかも違うからこそ、惹かれる。これはよく分かる。作品において古くからテッパンとされる“お嬢様とワル”の恋や、ロミオとジュリエットのような身分違いの恋は、見ているだけでこちらがドキドキする。
加えて、2人以外の人物たちが虚言で塗り固められている様子も非常に気になる。愛実の母は家庭内で尊大な父に本音が言えず、いつもストレスを溜めている。婚約者も実は愛実を愛しているわけでもなく、欲しいのは自分の身分に合った良質な妻と血筋。他に体の関係を持っている女性の姿も。カヲルの母は、夫に嘘を強要されて「弟が病気だ」と息子に金をせびる。カヲルが勤務するホストクラブの社長もまた、常に周囲へ睥睨するように目を光らせている。
信じ合うのは、2人だけ。それ以外の人間は恋路を邪魔するように背を向けて、本音を隠している。
何もかも失ってでも止められない、この気持ち

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『愛の、がっこう。』の設定を聞いたときに真っ先に浮かんだのは『魔女の条件』(TBS系・1999年)だった。同じ記憶がよみがえってきた視聴者もSNS上で見かけた。
松嶋菜々子さん主演、滝沢秀明さん出演による、女性教師と男性生徒の恋愛を描いたドラマだ。愛実と同じように恵まれた環境にいた広瀬未知(松嶋)が、仕事も家庭も婚約者も捨てて、黒澤光(滝沢)と共に愛の逃避行を繰り返す。同テーマで『中学聖日記』(TBS系・2018年)が数年前に放送されているけれど、今から26年前、女性教師の年齢が上という配役はかなりの衝撃的だった記憶がある。
愛実が年を重ねながら、35年間で作り上げてきた自分。そこには家族、仕事、友人など多くの関係性やコミュニティが存在する。それらを何もかも失ってでも、カヲルこと本名・鷹森大雅を選ぼうとする。心配があるとすれば、愛実は20代で恋愛に失敗をして自らがストーカー化し、挙句の果てに自殺未遂を起こしていること。自分をゆがませて誰かを愛してしまう癖が今回も現れなければいいなと、ついハラハラしながら見守ってしまう。
また、受け止めるカヲルも非難を浴びて、これからの苦労がかさむと分かっているのに自分を止められない。そんな2人の様子が見どころだ。
目を引く、ラウールさんの演技

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普通のラブスーリーではなく、誰かを好きになって、自分を壊していく『愛の、がっこう。』。見ていてどうしても目を引かれてしまうのは、カヲル役のラウールさんだ。勉強不足で申し訳ないが彼の演技についてほぼ知識がなく、映画『ハニーレモンソーダ』で主演をしていた記憶がある程度。彼がアイドルやパリコレに出るトップクラスのモデルの顔を持っているのは知っていたけれど、演技はほぼ初見だった。
どうなるのかと第1話から気にしていたけれど、結果、圧倒されていた。何もかも満たされずに生きてきた寂しさと、愛実が無条件で自分と向き合ってくれる嬉しさ間で揺れる心の機微を表現していたし、難しいと言われるホスト役も絵になっている。今までさんざんドラマでホスト役を見てきたけれど、チャラすぎてもイタく、格好つけすぎてもダサくなってしまう。ただ、“カヲル=ラウール”は、その塩梅をうまく見せていた。
木村文乃さんが『めざましmedia』のインタビューで「才能だけじゃなくて、ちゃんと努力もしている方なんだと思いました」と話していた理由がよく分かった。本作が終わって、次の俳優としてのラウールさんの仕事がとても楽しみだ。
止まらない夏の暑さとともに、ドラマも終盤に向けて熱くなっていく。ラストはハッピーエンドになるのか、それとも──。
(木曜劇場『愛の、がっこう。』は、毎週木曜夜10時からフジテレビ系にて放送中。
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小林久乃
こばやし・ひさの 文筆家、編集者。出版社勤務後、独立。最新刊は超絶ドラマオタクの知識を活かした『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)。現在はエッセイ、コラムの執筆、ラジオトーク、各メディアの構成と編集が主な仕事。https://hisano-kobayashi.themedia.jp