2024年に「建築界のノーベル賞」といわれるプリツカー賞を受賞するなど、世界的に評価される建築家・山本理顕(りけん)。1945年、北京に生まれた彼は第二次世界大戦終戦後に横浜に移り住む。17歳の時に見た奈良の興福寺五重塔に魅了され、建築の道を志したという。学生時代の山本は、建築家・原広司に師事し、世界各地の集落を研究した。実際に現地に足を運び、地元の人々の中に身を置いて研究したことをきっかけに、公と私の空間をつなぐ「閾(しきい)」に着目。建築家になってからも新たな閾のあり方を設計の中で実践するようになる。山本建築の特徴は、空間における公私の境界である閾を活用し、地域社会とのつながりを生む空間を創造してきた点だ。こうした発想から生まれた建築は、建物に住む人々ばかりでなく、周辺のコミュニティをも豊かにする。
プリツカー賞建築家の偉業を過去最大のスケールで紹介
本展では、実際には建設されなかった設計案も含め約60点の模型によって山本の設計思想を立体的に紹介。会場となる横須賀美術館は山本が初めて手掛けた美術館建築。周囲の景観に溶け込むようなガラスの外観や、館内外の風景を切り取るたくさんの丸い窓には、自然や他者の活動に意識を向けさせようとする山本の建築意図が表れている。特にメイン会場となる地下の展示ギャラリーでは、空間を広く見せる山本建築最大の見どころを存分に堪能できる。
「本展では、さまざまな施主の生活スタイルに応じたユニークな個人住宅から、近隣住民の助け合いを促す集合住宅、大学などの公共建築まで、山本氏の幅広い業績に触れることができます。実際に訪れなくても、模型を通じてたくさんの作品を実感できる貴重な機会です」(横須賀美術館学芸員・沓沢耕介さん)
常に開放的な建築をデザインしてきた山本。住む人を箱の中に区切らず、互いに顔の見える地域社会へと誘う独自の設計は、自分に新しい居場所があることに気づかせてくれるかもしれない。

横須賀美術館(2007)
三方を山に囲まれ目前に海が迫るガラス箱のような美術館。地上2階建てだが地下が深く空間は広い。

名古屋造形大学(2020) Ⓒ山本理顕設計工場
約100m四方の大屋根を支える4本柱は図書館、体育館、食堂など街としての機能を持つ。

The Circle at Zurich Airport(2020) ⒸFlughafen Zürich AG
空港に隣接した複合施設。外観はモダンなビルだが内から見ると建物の集合体という違う見え方に。

ⒸTom Welsh for The Hyatt Foundation Pritzker Architecture Prize
Information

山本理顕展 コミュニティーと建築
横須賀美術館 神奈川県横須賀市鴨居4‐1 開催中~11月3日(月)10時~18時 9/1・10/6休 一般2000円ほか 横須賀市コールセンター TEL. 046-822-4000(8時~18時、土・日・祝日8時~16時)
anan2458号(2025年8月6日発売)より