時代とともに変化し、多様化する愛のカタチやパートナーとの関係性…。自分と向き合い、自分らしい愛と性を求める女性たちの作品をご紹介。
Index
性愛の関係性が対等に。感情移入もしやすい
ひと昔前の映画やドラマに登場する性描写は、男性主導という構図が多かったが、最近ではその傾向に変化が見られるそう。
「どちらが優位ということではなく、対等な関係に基づき性行為が描かれるようになっている印象です。それは、例えば監督など決定権のある立場に女性が就く割合が増えてきていることや、性的なシーンで俳優が心身ともに負担なく撮影ができるようにサポートするインティマシー・コーディネーターの導入が影響していると思います」(映画文筆家・児玉美月さん)
ある種、男性目線の画一的な願望ではなく、多様な視点が加わったことで、性愛の描かれ方はよりリアルに、女性も感情移入できるものになっているという。
「セックスレスなどポジティブではない性のテーマが描かれていると、“自分だけではない”と、むしろ癒しに感じることも。悩みと向き合う女性たちからは、自分らしく生きるヒントが感じられます」(ライター・田幸和歌子さん)
また、最近は、ポリアモリー、つまり合意のうえでの複数恋愛がドラマの題材として目立つように。
「1対1の関係での行き詰まりを複数の相手で軽減する。作品をとおして、自分の中の新たな性愛の可能性に気づくこともあるのではないでしょうか」(田幸さん)
お話を伺った方々
Profile
児玉美月
映画文筆家。映画パンフレット、文芸誌など、さまざまな媒体で執筆。共著に『彼女たちのまなざし 日本映画の女性作家』(フィルムアート社)、分担執筆に『韓国女性映画 わたしたちの物語』(河出書房新社)など。
田幸和歌子
ライター。出版社勤務などを経てフリーランスのライターに。雑誌やWebメディアで作品レビューなどエンタメ関連の記事を執筆するほか、俳優のインタビューも多数行う。テレビ信州『ゆうがたGet!』に不定期出演。
1、女性視点で新たに性愛や恋愛を捉え直し、性を通して自分と向き合う
男性の手ほどきではなく、自分自身で快楽を探求
1974年に大ヒットした映画『エマニエル夫人』が、2025年に新たな解釈を得て再びスクリーンに登場。「1974年版の監督は男性で、2025年版は女性です。前者のエマニエルはウブな女性というイメージでしたが、後者では成熟した人物像に。自分自身と対話しながら性を探求する姿がとても現代的です」(児玉さん)


『エマニュエル』
DVD¥4,400 発売・販売元:ギャガ Ⓒ2024 CHANTELOUVE - RECTANGLE PRODUCTIONS - GOODFELLAS - PATHÉ FILM
性的同意は冷めるという言説を覆すセクシーさに引き込まれる
女性CEOのロミーが、インターンのサミュエルとの不倫に溺れる物語。女性監督作。「興味深いのはアブノーマルなプレイに対して、サミュエルが一つ一つロミーに同意を得るところ。性的同意をセクシーに描いているところがこの映画の大きな魅力です」(児玉さん)


『ベイビーガール』
DVD¥4,400 9月3日発売。発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング Ⓒ2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
2、現実に根差した描写で知ることができる性の世界で生きる女性たちのリアル
単純な夢物語でないからこそ、現実との繋がりを感じさせる
ストリップダンサーのアノーラが御曹司に見初められ、“契約彼女”として7日間過ごすことに。「ひと昔前なら、格差恋愛が成就してハッピーエンドとなりますが、本作はそう単純ではない。夢物語でないからこそ共感できる」(児玉さん)


『ANORA アノーラ』
Blu‐ray+DVDセット¥5,390 8月27日発売。発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング ※記事公開時の情報です。Ⓒ2025 Universal Studios. All Rights Reserved.
セックスワーカーの素顔を描き、固定観念を覆す
女性作家が取材のために高級娼館に潜入。その体験をもとにした小説の映画化。「この映画では性行為そのものというより、セックスワーカーたちの交流に重きが置かれている。仕事とプライベートのセックスを描き分けるなど、“セックスが好きで仕事にしている”という偏見を打ち砕く作品です」(児玉さん)


『ラ・メゾン 小説家と娼婦』
配給:シンカ 各種プラットフォームで配信中。ⒸRADAR FILMS - REZO PRODUCTIONS - UMEDIA - CARL HIRSCHMANN - STELLA MARIS PICTURES
3、性、セックスにまつわる悩みを通して考える、自分らしい生き方
体の関係は大事。でも、本当に求めていたのは…
政治家の夫・大志と、俳優の妻・ゆい。冷え切った関係の二人は、大志の選挙後に離婚をすることに。「ゆいの気持ちを決定づけたのは、運命的に出会った恭二の存在。でも、彼はEDで…。大志とはセックスレスも不仲の一因でしたが、必要だったのは体の関係ではなく、心の繋がりなのだと気づくきっかけに」(田幸さん)。


Netflixシリーズ独占配信中。
妻や母でも欲望はある。本心を抑えず解放へ
ビリーはよき妻、よき母として幸せに暮らしているように見えるが、実は夫との性生活に不満があり…。「元恋人と再会することで、蓋をしていた気持ちが噴出。彼との濃厚なセックスを思い出して日記に綴りますが、それを夫に見られてしまう。『自分を抑圧することは不健康』という言葉が彼女の背中を押します」(田幸さん)。


Netflixシリーズ独占配信中。
4、心理的なリアリズムまで追求した新しい愛のカタチに触れる
経済や心理的な負担を分散。セックスも3人でオープンに
美愛は結婚したい気持ちが強いが、彼氏の新平は後ろ向き。「3人だったら結婚してもいいかも」という新平の提案により、美愛の元カレ・拓三を巻き込んで3人での暮らしが始まる。「1対1の関係から生じる負担を分散させたいという新平の考え方が今どき。男女、男性同士と3人平等にセックスするところも斬新です」(田幸さん)。


Netflixで全話配信中。Ⓒ「三人夫婦」製作委員会
女性には3人の恋人が…。ポリアモリーとどう向き合う?
“複数恋愛”を正面から描いたドラマ。高校生の娘がいるシングルマザー・伊麻と、3人の恋人の物語。「伊麻は3人と合意のうえで関係を持っているので、浮気ではなくポリアモリー。なかには嫉妬する男性も。近年注目されるようになったポリアモリーがどうしたら成立するのか、考えさせられます」(田幸さん)。

Huluほか配信サービスで配信中。Ⓒ一木けい/幻冬舎/ytv
anan 2458号(2025年8月6日発売)より
MAGAZINE マガジン

No.2458掲載
愛とSEX
2025年08月06日発売
平成景気のさなかの 1989 年。「女性ファッション誌」として、当時の女性の目線での SEX を特集。そのセンセーショナルな内容は、表紙を飾った金子國義さんのファッショナブルなイラストレーションと共に圧倒的支持を得ました。メンタル、フィジカル、メディカル、さまざまな視点から、愛と SEX をテーマに、時代の気分や社会状況なども反映させて特集してきました。現在も年間 50 冊以上の特集を刊行するanan の中で、一年を通じて最大部数を誇る名物企画。毎年、表紙とグラビアにご登場いただく方は、社会現象ともいうべき話題に。愛のある幸せな「SEX」を、年に 1 度、特集し続けています。