島本理生『一撃のお姫さま』

島本理生さんの『一撃のお姫さま』には、うまく言葉にできないモヤモヤを抱えた現代女性たちの内奥に迫っていく5編が収録されている。


軽やかでユーモラスな筆致の5編。著者の新しい魅力が光る逸品が揃う

「いまの時代を捉える具体的なテーマを探しているうちに、歌舞伎町のホストクラブや新興宗教をめぐる問題、東日本大震災から10年以上経った社会がどう向き合っているかなどが浮かんで…。それらは自分の中にもともとあったものなのですが、取材などを経て上書きされたり、新しいものが付け加えられたりして、私自身も意識が更新されました。結果的に、これから小説にする予定のテーマやモチーフをすべて詰め込んだような一冊になりました」

特に印象深かった一編が「God breath you」。40歳の大学教員・依里(えり)と宗教施設で育ったという15歳年下の青年・時生(ときお)との、つかみきれない関係性が描かれる。

「いままでの私だったら別れさせていたような関係も、『お互いがいいなら、すぐに答えを出さなくてもいいのではないか』というように、自分の価値観も変わってきた。あと、自分もそれなりの年齢になったせいか、恋愛のキラキラしたところよりも、ちょっとイヤなところを書くのが楽しくなってきました(笑)」

特に、依里と関わる男性教授・早坂や冨田の人物像は秀逸。「いるいる」と確信してしまうような、圧倒的なリアリティがある。

表題作は、アニメ主題歌の仕事が舞い込んできたアーティスト・睡(すい)が原作漫画の世界観を垣間見るため、ホストクラブに足を踏み入れる話。

「通ってる女の子たちの、正論では納得させられない想いを知りたくて、実際に取材にも行ってみたんです。話せば普通に人間味を感じるホストも多かった。一方で、高額と競争が絡むことで、マルチビジネスや新興宗教にも通じる集団の圧力が生じる危険性は感じました」

現代的なトピックがてんこ盛り。

「自分の中でそれほど意図せずとも、それらが自然とつながっていきました。若いころはショックを受けすぎて咄嗟に抵抗できなかったり誰にも話せなかったような体験も、年齢を重ねたいまなら言える。人が抱えたままのイヤな瞬間を手放すところまで含めて書きたかったんです。負の感情も、言語化できると手放せたりする。読者に代わって、言葉にできていたらいいなと思います」

Profile

島本理生

しまもと・りお 1983年、東京都生まれ。2001年、群像新人文学賞優秀作「シルエット」で作家デビュー。2015年、『Red』で島清恋愛文学賞を、2018年、『ファーストラヴ』で直木賞を受賞。著書多数。

Information

『一撃のお姫さま』

読み手によってもっとも刺さる作品は違うかも。島本さんらしい細やかな心理描写は健在だが、これまでにないユーモアも感じさせる。文藝春秋 1870円

写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2456号(2025年7月23日発売)より

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会社あるいは地域や社会全体のために働くというテーマがある日です。そして、そうした働きを通じて自分自身も得るものがあることを示しています。たいてい、人は「苦労した以上は報われたい」と願いますから、頑張った分が還元されるとやはり嬉しくなるものです。働いた後は親しい人たちとゆっくりねぎらい合いましょう。

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