今や当たり前のように誰もが利用している動画配信サービス。地上波で放送された番組を楽しめるだけでなく、近年は話題のオリジナル作品も続々と登場し、進化が止まらない。そんな日本の動画配信エンタメのアツさのワケを読み解きます。

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    今後、私たちが出合う未来のエンタメとは?

    「有料動画配信サービスの日本国内の利用者数は、今年1月の時点で約3890万人といわれています。コロナ禍以降ライフスタイルは変化していますし、どこでも視聴できる利便性から、今後も利用者が拡大することは間違いありません」とは、エンタメ関連のコラムを多く執筆するライターの小林久乃さん。配信エンタメが急速に盛り上がっている理由の一つとして、地上波連続ドラマの放送本数が劇的に増えていることを挙げる。

    「数えてみると1クール40本以上の連続ドラマが制作されています。これまで、放送終了後はドラマ映像のDVD&ブルーレイ販売くらいしか、利益を得られなかった。でも今は動画配信サービスという大きな買い手があります。この流れに乗るようにテレビ各局も、深夜ドラマを中心に放送本数を増やしています」

    無料配信のTVerだけではなく、課金をして面白い作品を探しながら視聴するスタイルが、いつの間にかスタンダードになった。

    「今、視聴者側は大量の娯楽の選択肢に囲まれています。映像だけではなく、ラジオやポッドキャスト、音楽、書籍などありとあらゆるデジタルコンテンツが周囲にあって、目も耳もかなり肥えていますよね(笑)。そこに動画配信サービスが地上波では見られない大胆な演出や、豪華なキャスティングで作品を打ち出してきたら、迷わず見ます。月額料金も各社、だいぶ安くなっていますし、解約も簡単。推し活と同じ感覚だと思いますが、最近はユーザーも感動にお金を支払うことをいとわなくなっているはず」

    提供企業側もユーザー満足度を高めるためサービス向上を画策中。

    「今後、国外の動画視聴プラットフォームが続々と国内へ参入してくると予想されています。既存の映像、音楽、雑誌配信などに加え、インフラに近いサービスが提供されることになるかもしれません。例えばAIを活用して、サブスクリプションをカスタマイズ。プランももっと選択肢が豊富になる…など、私たちの生活をより充実させてくれるシステムになりそう」

    【アツさの理由 その1】日本ドラマの面白さが世界に見つかった?

    『孤独のグルメ』 松重豊主演。会社員の井之頭五郎がうまそうなメニューを求めて、一人で飲食店を巡る。

    俳優が演技を世界で認められるステージとは、今や、世界三大映画祭だけにとどまらない。

    「スピード性を重視するなら、動画配信サービスの作品に出演して世界中のユーザーの目に触れるほうが影響力は高いはず。例えば『サンクチュアリ ‐聖域‐』は公開早々、日本はもちろん配信元の世界ランキングでトップ10入り。ホラー作品『ガンニバル』のシーズン2は公開から9日間で100万時間以上、世界でストリーミングされています。企画、制作から公開、ユーザーの評価に至るまでが圧倒的に映画より早い。反応が早く得られれば追加プロモーションなどの働きかけが合理的にできますよね」

    放送終了後に動画配信される地上波放送の作品も、国を超えて着実に人気を呼んでいる。

    「韓国では『孤独のグルメ』が好評、中国では『団地のふたり』が支持を得ているそうです。これまで知られていなかった日本独特の空気感、文化が作品に投影され受け入れられているのは誇らしいです。あえて世界を狙わなくても、そのままの日本の感性を活かすほうが、国外のユーザーには斬新に映るのかも」

    【アツさの理由 その2】平成のレジェンドドラマを今、感じる。

    『ビューティフルライフ~ふたりでいた日々~』 木村拓哉と常盤貴子のW主演。美容師の男性と車椅子の図書館司書の女性が出会い、恋愛関係に。

    「’90年代後半から’00年代初頭のトレンディドラマが今、ブームです。きっかけは、繰り返しになりますが生活が激変したコロナ禍。あの時、再放送していた平成ドラマに若者たちが吸い込まれて、’21年ごろから“平成レトロ”ブームも起きました。動画配信サービスの作品検索欄に、“平成”の文字や、過去作のタイトルが多く入力されるようになったと、何社ものサービス提供企業から聞いたことがあります」

    TVerや各プラットフォームでの過去のドラマ配信も、ブームを後押ししているとか。小林さんオススメの平成ドラマは?

    「木村拓哉さん主演作品は『ビューティフルライフ』をはじめ『ロングバケーション』など、全て名作! 30年近く経っても古く感じられないのは、主役の妙です。anan読者世代には、山口智子さん主演の『29歳のクリスマス』もぜひ。男性の手を借りず自分の手で立ちあがろうとする背中に、思わず涙がこぼれます。逆に婚活を考えるなら、松嶋菜々子さん主演の『やまとなでしこ』。結婚のために全力を尽くすヒロインの姿勢に感服します」

    【アツさの理由 その3】演技、映像は国境を超えて私たちを刺激する!

    『Eye Love You』 二階堂ふみ主演。チョコレート会社を経営する若き女性社長が、韓国人留学生と恋に落ちていく。主題歌「幾億光年」は日本レコード大賞で優秀作品賞に。

    「韓国エンタメが世界トップレベルであることは知られていますが、実は人口が約5200万人と国内市場が狭いのです。だから彼らは、常にユーザーを増やせるパートナーを探している。そこで白羽の矢が立ったのが、日本です。経済規模も安定した国ですし、動画配信エンタメが広く普及し、日本人俳優のキャリアが見直されたのではないでしょうか。山下智久さん主演の『SEE HEAR LOVE ~見えなくても聞こえなくても愛してる~』では日韓共作が実現。『Eye Love You』に出演したチェ・ジョンヒョプさんのように日本の地上波ドラマに韓国人俳優が出演するパターンもポピュラーになりました」

    もちろん韓国だけではなく、アジア全体からも注目されている日本の力。近日、Snow Manの向井康二さん主演の『Dating Game~口説いてもいいですか、ボス!?~』が、タイ放送と同時にLeminoプレミアムでも配信される。

    「これまでの日本になかった、韓国をはじめとする国外のメディアの発想や、制作技術。これらとのコラボレーションがますます広がることで、見たことのない物語を見られそうです」

    【アツさの理由 その4】マルチな関わり方で深まる、作品の魅力。

    『全裸監督』 山田孝之主演。『全裸監督 村西とおる伝』を原作としたフィクション作品。主演俳優による当時の解像度や再現性が異例の人気を博し、シーズン2も制作された。

    俳優と作品の関わり方が昨今、多様化している。

    「7月配信の佐藤健さん主演『グラスハート』、そして主演の岡田准一さんがアクションプランナーも務めた11月配信『イクサガミ』はそれぞれ、佐藤さん・岡田さんがプロデューサーも兼任しています。配信ドラマの火付け役と言っても過言ではない『全裸監督』も、主演の山田孝之さんが初期の段階からどう物語を作っていくのかを制作陣と話し合って進めていたそうです」

    なぜ彼らはハリウッド俳優のように、作品中に、自分の役割を増やしていくのだろうか。

    「一般社会でもリモートワークや副業など、働き方を選ぶようになりました。同じく、働き方の多様化が俳優界にも浸透しているのでは。テレビ局や制作チーム側も彼らの企画や希望を受け入れる体制が整い始めているので、動きやすいはずです。今後、所属事務所から独立してクリエイティビティを追求する芸能人も増えるでしょう」

    お話を伺った方・小林久乃さん

    Profile

    出版社勤務後、独立。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディアの構成と編集などを手がける。著書に『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)など。ラジオ番組でのエンタメトークも人気。

    イラスト・micca 取材、文・上沼千明

    anan2454号(2025年7月9日発売)より
    Check!

    No.2454掲載

    ボーダレスカルチャー 2025

    2025年07月09日発売

    アニメ、映画…世界で沸いているカルチャーをボーダレスに楽しめるようになった昨今。あまたある情報の中からいま注目すべきエンタメをピックアップします。海外からの反響も大きい日本発の配信ドラマ、日本で楽しむ韓国ミュージカル、国際化著しい大阪のお笑い、女性作家中心に人気を集める東アジアの文学界など、知っておきたい最新エンタメ事情&話題の人々に迫ります。さらに開催中の大阪・関西万博で世界中のカルチャーを体感できるエリアをレポート。

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    流れに従うこと、または立場が上の人に調子を合わせることが吉を招くという日です。逆に言えば、気ままに動くのはよくないということ。しかし誰かに付き従うことがストレスになる場合、つい反逆的になりやすいときでもあります。その結果、状況のせいにしたり、勢いで相手を悪く言いかねないので悪乗りしないことが肝心です。

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