意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「変わりゆくアメリカ」です。


他国を支援する余力を失った大国の今。

トランプ政権は高関税政策を打ち出しました。今やアメリカ国内だけで完全生産されているものは少ないので、高い関税をかければ、普段購入している洋服や日用品も値上がりし、アメリカ国民の暮らしを苦しめるのではないかという懸念もありました。実際、米国市民はどう思っているのか、5月にニューヨークに行き、取材しました。

ニューヨークは民主党支持者の多いリベラルな街です。ところが、今回、街中でもトランプ政権を支持する声が多く聞かれました。高関税政策について尋ねると、「道を走っているのはほとんど日本車。私たちは(外国産のものを)買わされすぎている。あなたたちの国を支えているのはアメリカ国民だ」と話していました。「アメリカは世界の経済を支え続けて、割を食ってきた」という感覚なんですね。経済格差が進み、インフレと物価高に苦しんでいる。そういう市民が今のトランプ政権を支えているのだと思いました。

日本では、トランプ大統領について、「思いつきのような非常識な外交交渉で、世界を混乱に陥れている」という報道が目立ちますが、現地では、「アメリカの歪んだ経済情勢をフェアな状態に正そうと交渉する強いリーダー」という見られ方をしていました。

アメリカの景気の悪さを象徴しているのが、ホームレスの急増です。住宅都市開発省の調査では、2024年に過去最多の77万1480人、前年よりも18%増えています。また、対外関係では、アメリカと中国は最大の貿易相手国同士ですが、対中貿易赤字は昨年2954億ドルに上り、本当に厳しい状況なんですね。

トランプ大統領は「アメリカの優秀な知能が留学生によって盗み取られており、大学側も外国人を優遇している」と、ハーバード大学の外国人留学生へのビザの発給停止を発表しました(6/6、国務省が給付再開を指示)。

もはや「自由の象徴」のアメリカではなくなったのだと思います。人権や環境について声高に言えば、解雇される事態にも。一つの権威主義国家が生まれたということを実感しました。今こそ民主国家としての日本の存在は重要になってきていると思います。

堀 潤

Profile

ほり・じゅん ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『堀潤 Live Junction』(TOKYO MX月~金曜18:00~19:00)が放送中。新刊『災害とデマ』(集英社)が発売中。

写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

anan 2452号(2025年6月25日発売)より

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今日は二十四節気では小暑であり七夕です。ただ、この時期は梅雨の最中ですから、この行事は本来の旧暦で行うほうが天気に恵まれやすくてよいだろうと思います。さて、今日の暦も昨日に引き続き先進性や文化性のある日ですが、新しいものを垣間見る程度にするのが吉と出ています。深入りすると現状を疎かにしてしまうからです。

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