
本作の公開を前に来日を果たした、ファン・ジョンミンさん(右)とリュ・スンワン監督(左)
名作韓国映画『ベテラン』の待望の続編である『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』。名優たちの迫力満点の演技のぶつかり合い、格闘技やパルクールの要素も盛り込み前作以上に激しさを増したアクション、現代の大衆心理を描きながら正義とは何かを問いかける物語…見どころがたくさん盛り込まれた本作の公開を前に、主演のファン・ジョンミンさんと、新人刑事を演じるチョン・ヘインさん、監督のリュ・スンワンさんが来日し、日本のファンの前で舞台挨拶を行った。以前より仕事を共にし強い絆を築いてきたファン・ジョンミンさんとリュ・スンワン監督に、ふたりの関係性やお互いの印象についてお話をうかがいました。
――おふたりが一緒に仕事をされたのは2010年の映画『生き残るための3つの取引』が最初かと思います。その頃は、お互いどのような関係性でしたか?
リュ・スンワン 実際にお仕事をしたのは確かに『生き残るための 3 つの取引』だったんですけれども、その前から、もちろん面識はあったんですね。個人的にいつか私のカメラの前に立ってもらいたい人だと思っていました。
その願いが『生き残るための 3 つの取引』で叶ったわけですね。ただ、初めてお会いする時には慎重な気持ちになっていました。監督というのは、俳優を相手にする時にはやはり繊細な気持ちでアプローチをしなければいけないという思いを持っていたからです。なぜかと言うとやはり俳優というのは監督が頭の中で考えていることを具体化してくれる存在だからなんですね。
実際に撮影で一緒にお仕事を始めてからは、俳優ファン・ジョンミンさん、人間ファン・ジョンミンさんの姿を目の当たりにして、単に仕事をしているというよりも強い感情を持ちました。そして、固い絆を感じました。同士のような感覚を持ったんですね。
だから、ファン・ジョンミンさんを知るにつけ、仕事を抜きにしても人生の峠を一緒に越えていけるのではないかと思うくらいの気持ちになりましたし、本当にいいご縁に恵まれたと思いました。
――ファン・ジョンミンさんはそれをお聞きになって、いかがですか?
ファン・ジョンミン もう結婚したらいいような関係ですよね(笑)。でも、やはり私の考えも監督とほぼ同じなんです。仕事をしている中で、自分と気の合う人、そしていい友達になれる人に出会うというのはなかなか難しいことで、実はあまりないことなんです。同じ仕事をしていても、そういう出会いをすることって珍しいことなんです。好きな仕事をしながら、その中で友だちになれるということは幸せなことです。
私と監督とは、仰る通りで『生き残るための 3 つの取引』の撮影をすることによってご縁が生まれたんですけど、それ以降は、監督が映画を撮ろうと誘ってくれたら、もう台本を見ないでも引き受けようという気持ちがあります。何か事情があって撮影に参加できないことはあるかもしれませんが、でも声をかけられたら、台本を見ないでも一緒にやりたいと思っています。それに、私が映画に出続けている限り、俳優をしている限りは、おそらくずっと一緒に作品を撮ることになると思います。

――『ソウルの春』を観てから『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』を観ると、ファン・ジョンミンさんの姿が体つきから違って見えました。どのようにしてこのような役作りをされたのでしょうか?
ファン・ジョンミン 体つきじゃなくて、髪型が違ってたんじゃないの?(笑)。作品を作っている時には、必ず事前にいろいろ考えます。私が演じる人物を分析してどう演じようかっていう風に悩んだり研究したりしているうちに自然と体ができてくるんですね。そんな中で、助けになるのが衣装になります。衣装を着ると、自然と体つきが決まってきたり、動きも出来上がってくるんです。
――監督は、実際に撮影でファン・ジョンミンさんの演技をご覧になって、他の方とは違うことを感じたりしますか?
リュ・スンワン ファン・ジョンミン先輩の演技を長年見てきましたが、その中で感じたのは、ファン・ジョンミンさんは、思春期の少年のような感じがするということでした。体つきはもちろん大人なんですけど、内面はずっと変化し続けているような印象があります。それは、裏を返せば不安定だからだと思うんですけど、その不安定さが観る人を良い意味で緊張させているんだと思います。
ファン・ジョンミンさんは、スターとして長い間存在してきましたし、映画の主人公としても長年やってきましたし、映画界を支えている俳優なんですけど、それでも今も現場でときどき、もがいているなという風に見える瞬間があるんですよ。
もちろんファン・ジョンミンさんにとっては、撮影現場というのは、慣れ親しんでいる空間ですし、楽な環境でもあると思うんです。それにも関わらず、こちらから見ても痛々しいと思うくらいに、もがいているように見える瞬間があるんですね。プロフェッショナルな方ですから、肩の力を抜いて気楽にやってもいいと思うんですけど、そうしてしまうと、きっと自分自身を許せなくなるんじゃないでしょうか。
つまり、簡単な道や歩きやすい道を行かないということで、そんな道を選ぶということは、持って生まれた感覚なんだと思います。傍で見守っていても、そんなところこそが、ファン・ジョンミンさんのエネルギーになっているんじゃないかと思います。不安なエネルギーとでもいいましょうか。
けれども、そういうエネルギーを持っているからこそ、観ている観客の皆さんを不安にすることもできると思うんですね。そんな風にずっと変化し続けるところが、彼の魅力のポイントだと思います。もしかしたら、本人にとっては辛いことかもしれないんですけれども、個人的にはそんな風に見ています。
ファン・ジョンミン すごく長く話しましたね(笑)。
――不安定さとかもがいてるということは、ご自身では意識していらっしゃるのでしょうか?
ファン・ジョンミン そうですね。俳優は多分皆さん似ている部分は持っているんじゃないかと思います。私たちは俳優は、常に新しい物語、新しい人物を演じているわけですよね。なので、毎回作品に出るたびにいつも初めてだという気持ちで演じることになるんです。どんな作品でも毎回、初めてのスタートだっていう風に思って現場に臨んでいるので、そんな姿を見て、監督は不安定さを見出してくれたんじゃないかと思います。
俳優にとって作品というものは自分の人生の中で、最初で最後のものだという思いがあるんですね。同じ作品は 2度とできないと思っています。そういうことを考えると、生半可な気持ちでやってはいけないと思うので、どうしても作品に接する時には怖いなっていう思いが先走ってしまうんですよね。
でもそんな「怖い」という気持ちを克服しながら自分のものにしていくという作業を常にしています。つまり自分との戦いですよね。俳優という仕事は、自分との戦いの連続なのではないかと思います。

PROFILE プロフィール
ファン・ジョンミン
1970年9月1日、韓国 慶尚南道馬山市(現・昌原市)生まれ。1990年に映画「将軍の息子」で俳優デビュー。主な映画出演作に『新しき世界』『アシュラ』『哭声/コクソン』『工作 黒金星と呼ばれた男』『ただ悪より救いたまえ』『ソウルの春』などがある。
リュ・スンワン
1973年12月15日、韓国 忠清南道牙山市生まれ。2000年にインディペンデント映画『ダイ・バッド 死ぬか、もしくは悪(ワル)になるか』で長編監督デビュー。主な監督作に、『生き残るための3つの取引』『ベルリンファイル』『ベテラン』『モガディシュ 脱出までの14日間』『密輸 1970』などがある。
INFORMATION インフォメーション

『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』
ベテラン刑事ソ・ドチョルと、凶悪犯罪捜査班の刑事たち。法では裁かれなかった悪人が連続して殺された。不条理な司法制度に憤っていた世論は、私刑を下す犯人を善と悪を裁く伝説上の生き物“ヘチ”と呼び、正義のヒーローともてはやすようになる。ドチョルに心酔する新人刑事パク・ソヌが加わり、事件は解決に近づくかのように見えたが…。
4月11日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
Ⓒ 2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED