美味しそうなパンと謎が絡む…「このミス」大賞受賞作『謎の香りはパン屋から』

土屋うさぎ『謎の香りはパン屋から』

大阪・豊中市のパン店でアルバイトをする大学生の小春が、数々の謎に遭遇していく――。第23回「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作、土屋うさぎさんの『謎の香りはパン屋から』は美味しそうなパンと謎を絡めた連作ミステリー集だ。


最新の「このミス」大賞受賞作は、パン屋さんを舞台にしたミステリー。

現在、漫画アシスタント兼漫画家でもある土屋さんが、小説を書いたきっかけは?

「私がアシスタントをしていた漫画家のおぎぬまXさんが3年前に『このミス』に応募されて、本も刊行したんです。自由にいろいろ挑戦していいんだと感銘を受け、私も書いてみることにしました。小説を書くのははじめてだったので、背伸びせず身近な題材を選ぶことにして、学生時代にアルバイトしていたパン屋さんを舞台にしました」

前向きな人物をイメージしたという主人公の小春は漫画家志望で、創作のために気になることは調べる習慣があり、優れた観察力と推理力を持つ。親友の由貴子が約束をドタキャンした理由に気づく第一章「焦げたクロワッサン」、フランスパンの製造中に同僚の秘密を見抜く第二章「夢見るフランスパン」、店のカフェスペースでケンカを始めた高校生男女の事情を察する第三章「恋するシナモンロール」…。

「自分の経験をもとにしたところも多いです。小春のバイト仲間でギャルのレナ先輩も、実際バイト先にああいう方がいたんです(笑)」

このレナ先輩が実に愉快で憎めないのでご注目を。実体験があるだけに、パン製造の過程や店の様子が細かく描かれており、各章でフィーチャーされるパンの豆知識も楽しい。

「私はバイトをするまではコメ派だったのが、だんだんパンも好きになっていったんです。その経験を意識して、パンが美味しく思えるように描写を盛っていきました」

登場人物たちは、小春以外にも、将来の夢や、何らかの望みを持っている人が多い印象。迷いながらも前に進もうとする彼らを、優しく見守っていくような連作集となっている。

「夢や何かを追いかける人たちの話、というのは全体的なテーマとして意識していました。自分自身もこれから頑張っていきたいので、感情をのせて書けるかなと思ったんです」

今後は漫画家と小説家の二刀流で頑張りたいとのこと。楽しみな新人作家の登場である。

Profile

土屋うさぎ

つちや・うさぎ 1998年生まれ。大阪生まれの東京育ち。2023年「あぁ、我らのガールズバー」で集英社・第98回赤塚賞準入選。’24年、本作で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞、小説家としてもデビュー。

Information

『謎の香りはパン屋から』

大阪・豊中市のパン屋さん〈ノスティモ〉でアルバイトをする大学1年生の小春。彼女がパンを通して、さまざまな謎に遭遇していく連作集。宝島社 1650円

写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世

anan 2433号(2025年2月5日発売)より
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