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ゲームの精神を引き継ぎつつ、独立したストーリーに
『ボーダーランズ』は、米国のGearbox Software社が開発し2009年に発売された、世界でシリーズ累計8,700本以上の販売数を誇るベストセラービデオゲーム。辺境の惑星・パンドラを舞台に、ハンターとして、モンスターの討伐や盗賊団退治などの仕事をこなしていくシューティングRPGだ。SFと世紀末世界がミックスされたハイテンションでポップなビジュアルと、クセの強いキャラクターや個性的な武器の数々などで、世界中の人々を虜にしてきた。今回の実写化では、シリーズ1作目をベースに、賞金稼ぎたちのパンドラでの冒険を描く。
――『ボーダーランズ』の製作発表後数年経ってから監督に決定されました。ゲーム作品を原作とした映画の監督は初だと思いますが、引き受けることになった経緯を教えてください。
その頃私は、何か今までの作品とは違うこと、挑戦的なこと、大規模に取り組めるプロジェクトを探していたところでした。一方、今作のプロデューサーたちは監督を探していて、私の映画『ルイスと不思議の時計』や『デス・ウィッシュ』をとても気に入ってくれていました。彼らと会って創作面で意気投合し、プレゼンテーションを行った結果、この仕事を獲得することができたんです。
――『ボーダーランズ』のゲームはご存じでしたか?
ゲームのことは知っていましたが、自分は熱心なゲーマーとは言えなくて。でも、SF映画が大好きなので、スケールが大きくてワクワクする、完全にぶっ飛んだものを作りたかったんです。『バーバレラ』と『フィフス・エレメント』を混ぜたような視覚的でワイルドな作品、そして『マッドマックス』と『Toby Dammit』(1968年のフェデリコ・フェリーニ監督作)が出合ったようなものを。もちろん、今ではゲームのことをしっかり理解していますよ。
――監督はエクストリームなホラー作品で知られていますが、本作の演出は、これまでのホラーやスリラーの演出の延長上にあるのでしょうか?
私は一時期、過激なホラー作品から一旦距離を置いて、『デス・ウィッシュ』や『ルイスと不思議の時計』、サメの乱獲産業についてのドキュメンタリー作品『Fin』など、自分の創造性をまた違った側面で発揮できるような作品に取り組んでいました。でも、今作のような、視覚効果をたくさん盛り込んだ映画に挑戦する準備はいつでも万全だったと思います。『サンクスギビング』でホラーの世界に戻ったときは、正直なところ、ホラーが恋しかったんだと感じてしまいました。『ボーダーランズ』は『サンクスギビング』の後に公開されましたが、実際にはその前に制作していたんです。
――「ゲームの映像化」という作品作りにおいて、特に意識されたことはありますか?
映画を作る際には、ストーリーとエンターテイメント性に集中することが重要だと思います。ゲームのファンからすると忠実に再現してほしい部分はあると思いますが、映画にしたときに必ずしもそこが全てが上手くいくわけではありません。限界があるし、できることとできないこともありますから、その中で楽しい映画を作ることに集中する必要がありました。
――ゲームとは違った設定やストーリーもいろいろと取り入れられています。脚本の完成には長い年月を要したと聞いていますが、1本の映画として成立していて、ゲームファンもそうでない人も存分に楽しむことができる作品になっていると思いました。
ゲームの精神を引き継ぎつつも、独立したストーリーにしたかったんです。これはゲームのストーリーをそのまま再現する作品ではなく、あくまで、“アダプテーション=新しい形で作り直されたもの”です。世界観や銃、乗り物などは、なるべくゲームと同じにしたいと思いましたが、キャラクターに関しては、ゲームの見た目と全く同じ人をキャスティングすることは難しいんです。完璧な人が見つかっても、その人たちをキャスティングできないこともあるので。でも、最終的にはかつてないほど素晴らしいキャストが集まりました。ゲームをプレイしたことがない人たちにも楽しんでもらえる映画を作りたいとずっと思っていて、それが叶いました。
ケイト・ブランシェットに、ブラドフ社製の火炎放射器を持たせたかった
――魅力的なキャラクターが数多く登場しますが、特にお気に入りのキャラクターはいますか?
ロボットのクラップトラップが大好きで、彼の声には、ジャック・ブラックがすぐ頭に浮かびました。また、タイニー・ティナ(爆弾作りの達人である13歳の少女)は、私がすごく共感できるキャラクターです。彼女には、私と同じような反逆精神を感じるんです。サイコ(防毒マスク姿のゲームのザコ敵)たちも大好きなので、彼らが住む世界を映像で生き生きと表現したいと思いました。
――ジャック・ブラックさんのクラップトラップ役の演技を初めて聴いたときの感想はいかがでしたか?
彼が完璧だということは分かっていました。脚本を読んでいるとき、ジャックの声が頭の中で鳴り響いていましたから。彼はとても面白く素晴らしい俳優。人柄も素敵で、彼が大好きです。『ルイスと不思議の時計』に引き続いて二度も仕事ができて、私は本当にラッキーだと思っています。
――主人公・リリスを演じたケイト・ブランシェットさんも『ルイスと不思議の時計』から引き続いてのキャスティングです。ケイトさんは日本でも大人気ですが、彼女の起用理由と撮影時のエピソードを教えてください。
ケイトが大好きなんです! 『ルイスと不思議の時計』で一緒に仕事をしたときは、本当に素晴らしい経験でした。なので、この脚本を読んだとき、真っ先に彼女のことが思い浮かびました。ほとんどの監督は、“指揮棒のような小道具を持つ”ドラマチックな役で彼女を起用したがりますが、私は、彼女にブラドフ社製の銃と火炎放射器を持たせたかったんです。彼女にできないことなんてありませんからね!
――『ボーダーランズ』は世界設定やキャラクターのビジュアルなど個性の強いゲームですが、ロス監督が感じる『ボーダーランズ』作品を貫く美学とはどのようなものでしょうか?
この作品は、落ち込んだディストピアの世界ではなく、色彩豊かでポップ、楽しくてユーモラスなディストピアの世界を描いています。電信柱に冷蔵庫が載っていたりするのが面白くないですか? それが何のためなのか分からず、ただ置いてあるというのが面白い。荒廃した惑星ですが、みんながそこにあるものを上手く使いこなしている、ただし本来意図されていた使い方ではない、ということが表現されていると思います。
――監督ならではのビジュアル面でこだわったポイントはどんなところでしょうか? また、特に気に入っているセットやプロップ、衣装がありましたら、教えてください。
鮮やかでカラフルなものにしたかったんです。先ほども挙げましたが、『フィフス・エレメント』、『バーバレラ』、『ニューヨーク1997』、『Toby Dammit』のような要素を混ぜ合わせたかった。主要なキャラクターたちのコスチュームは忠実に再現しつつ、エキストラなどをパンドラの世界に合わせてデザインするのも楽しい作業でした。劇中に登場する特殊部隊のクリムゾン・ランスの見た目や、車両の仕上がりが特に気に入っています。
いまは、ヤバいホラーのアイデアに取り組んでいるところ
――今後映像化してみたいと思うゲーム作品はありますか?
今後は、自分で書いたオリジナル作品に集中するつもりです。リメイクやゲーム原作作品の制作を経て、『サンクスギビング』のように自分のオリジナル作品に取り組んだときが、最もクリエイティブ面で満足できたという実感があったので。これからは、その方向で進んでいくつもりです。
――『サンクスギビング』も最高の作品だったので、今後のロス監督のホラー作品への期待もやはり高まってしまいますが、何か準備中の作品で教えていただけるものはありますか?
『サンクスギビング』を作るのは本当に楽しくて、その続編の脚本も書いています。それと同時に、取り組もうと思っているヤバいホラーのアイデアもいくつかあって、その執筆も行っているので、これからそれを一気に仕上げていく予定です。これらのアイデアはまだ誰にも話していませんが、本当に狂った内容で、今はそこにエネルギーを注ぐべきだと思っています。
――ananは「すべての“私”の今好きなこと」を取り上げている雑誌なのですが、ロス監督が今好きなこと、最近特にハマっているものを教えてください。
最近観たものだと、『The Substance』、『テリファー 聖夜の悪夢』、そして『イカゲーム』のシーズン2が大好きでした。『イカゲーム』のクリエイターから、番組が一番影響を受けた作品が『ホステル』シリーズだと聞いて、私たちが世界を同じように見ていることがわかりました。『ホステル』が一番影響を受けたのは、アジア映画、特に韓国の『復讐者に憐れみを』や日本の『オーディション』だと彼らに伝えました。お互いへの影響が回り巡っているのを感じることができたのが嬉しいです。
それと、私はVRが大好きで、GoPro 360を使ってVR映像をたくさん撮影しています。『ボーダーランズ』の撮影にも持って行ったので、もし皆さんがヘッドセットを持っていたら、ここで制作過程を見ることができますよ(リンクは記事下に)。
そして何より、新しい会社「The Horror Section」を立ち上げることができて、今とても興奮しています。ファンが投資できるプラットフォーム「Republic」を使って資金を集めているんです。今年2月からは、ファンは映画だけでなく、私が作り出すキャラクターにも所有権を持つことができるんですよ。そして、1年後には所有権をトークン化し、ブロックチェーンの二次市場で株式を取引できるようにする予定です。これからは、ホラー映画を作ったら、ファンはそれを観るだけでなく、その成功から直接利益を得られるようになるんです。1月下旬にとある発表があるので、ぜひ、私のインスタグラム(@realeliroth)で情報をチェックしてみてください。
PROFILE プロフィール
イーライ・ロス
1972年4月18日生まれ、アメリカ・ボストン出身。2001年に『キャビン・フィーバー』で長編映画監督デビュー。続く『ホステル』が大きな話題となり、『グリーン・インフェルノ』『サンクスギビング』などでホラーファンを中心に厚い信頼を得る。『イングロリアス・バスターズ』など俳優としての活動も。プレゼンターとしてホラー映画の歴史を紹介するTVシリーズ「ヒストリー・オブ・ホラー」(U-NEXTで配信中)も必見。
INFORMATION インフォメーション
『ボーダーランズ』
謎めいた過去をもつ悪名高い賞金稼ぎのリリス(ケイト・ブランシェット)は、銀河系で最も混沌とした惑星にして自らの故郷・パンドラに戻ってくる。彼女の使命は、アトラス(エドガー・ラミレス)の行方不明の娘を見つけること。傭兵のローランド(ケヴィン・ハート)、放浪の解体者タイニー・ティナ(アリアナ・グリーンブラット)、ティナの守護者クリーグ(フロリアン・ムンテアヌ)、風変わりな科学博士タニス(ジェイミ ー・リー・カーティス)、そして、賢い(?)ロボットのクラックトップ(ジャック・ブラック)と同盟を結成。即席の寄せ集めヒーロ ー・チームは娘の捜索、そして惑星パンドラに秘められた謎を明らかにすべく、危険な冒険へと旅立つ。 2025 年 1 月 24 日(金)Prime Videoにて独占配信。