捉えにくい芸術表現を歴史につないでいく仕事
ゆっきゅん(以下、ゆ):2015年、私は東京都現代美術館に来たんです。その時の展示が「山口小夜子 未来を着る人」。そして2020年の「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」も観に来ました。あとで知ったんですけど、共に藪前さんが学芸員として担当されているんですよね。作品はもちろん構成が素晴らしくて、展覧会自体が作品なんだなと思いました。
藪前知子(以下、藪):光栄なんですけど、私、キュレーターは基本的には観客の目の代表だと思っているんです。鑑賞者に私の目を通して、そこにある物語を見てもらいたいなと。私の存在は、極力気づいてほしくなくって。
ゆ:もちろん、観ている時は没入していました! 終わったあとに藪前さんのことを知ったんです。展示のストーリーの伏線回収がすごすぎて、藪前さんの存在を感じざるを得ないという…。
藪:あれは私も山口小夜子さんや石岡瑛子さんに、ああいう流れの展示になるべく操られたといいますか…。
ゆ:出た、憑依型!
藪:でも自分に与えられた役割が何なのかを考えながら仕事はしているつもりです。
ゆ:それは芸術家と一緒ですよ。
藪:芸術って領域が広いですよね。生活とかファッションとか音楽とかから生まれてくる表現もあって。そういうものは形もなかったりするし、美術館では本来捉えにくいものなんです。だけど、そういうものを歴史につなぐことは重要だと思っていて。
ゆ:私、山口小夜子さんのことも石岡瑛子さんのこともちゃんと知らなくて、展示で初めてこういう方だったんだと理解したんです。だから、100万人に言われていると思いますが、本当に素晴らしい仕事をされていると思いますし、尊敬しています。
藪:ありがとうございます。
ゆ:「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」も藪前さんの企画ですよね。スターたちの作品ばかりですごすぎました!
藪:ゆっきゅんはいつからアートに興味を持ち始めたんですか?
ゆ:絵を描くのは好きでした。中高時代から図書館で『美術手帖』を読んでいて、草間彌生さんの自伝『無限の網』を小6で読んでました。
藪:早熟ですね!
ゆ:そんなことはなくて! でも芸術に触れて自分が自由になったり、思考の枠組みが外れたり、自分の地盤が揺らぐ、みたいなことってあるじゃないですか。だから美術って大好きなんです。
PROFILE プロフィール
藪前知子(やぶまえ・ともこ)
東京都現代美術館学芸員。担当した主な展示は2015年「山口小夜子 未来を着る人」、’20~’21年「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」(共に東京都現代美術館)など。現代美術やカルチャーについて執筆も行う。
PROFILE プロフィール
ゆっきゅん
1995年、岡山県生まれ。2021年からセルフプロデュースで「DIVA Project」をスタート。セカンドフルアルバム『生まれ変わらないあなたを』が発売中。インスタ、Xは@guility_kyun