注目の歌人による初エッセイ集。笑えて泣けて刺さる言葉の宝箱。
「最初の歌集がいままでの人生30年詰め合わせみたいな人生録的なものだったのですが、やっぱり31文字しかない短歌に入りきらないものがたくさんあって。たとえば、私の中では辻褄が合っているのに、周りに引かれたりして、自分が宇宙人のように感じる違和感がずっとあったんです。そんな昔の自分みたいな周波数が合わない人に、地球での生き方を伝えられる本にしようというのが最初の構想でした」
本書は、各エッセイの「タイトル」が頭ではなく終わりにつくちょっと変わった構成になっている。そのタイトルがご本人の短歌だというのが粋だし、短歌が並ぶ目次は壮観。
「エッセイの内容に合った歌を当てました。既出作を再録したのも書き下ろしたのも、どちらもあります」
書かれているのは極めて個人的な体験なのに、読み手にも何かを喚起させてしまうのがすごい。たとえば、〈恋愛がわからない〉という普遍的な疑問は、やがて小学2年生のときに大の仲良しだったもとかちゃんとの夏休みの思い出に飛ぶ。そこからこんな解答を生み出すのだ。
「もとかちゃんとの友情のように、こうやって一緒にいる人を選んでいいんだ、一緒にいたいと思う関係性の名称が、友達でも恋人でも家族でもいいんだ、というのは大人になって気づきましたね」
上坂さん自身も自負しているが、彼女の人生は〈真実至上主義〉に貫かれている。生き方もそうだし、何かを書くときもそうだ。
「これはなんか身につけたというよりも、生まれつきとしか言えないのですけれど、私は事実ではなくて“真実”にしか興味がないんですよね。私が真実と呼ぶのは、人間の根っこにある欲望や違和感、生きづらさといったもので、つまり生きていていちばん面白いと思っているのが真実なんです。だから、面白い文章を書きたかったら、他の何よりも真実を書くんだろうなと思い込んでいて。ところが、あとがきにも書きましたが、歌人の穂村弘さんから『みんなは短歌やエッセイに、思ってもいないことを書いたりするんですよ。あなたは本当に思っていることしか書かないけれど』というような指摘をされて、心底驚いたんです。生きてきた中でうすうす、みんなは真実至上主義ではないことはわかっていたけれど、創作においても私の方がイレギュラーなんだと」
短歌、エッセイ、ポッドキャスト、ラジオ、演劇と、上坂さんの活躍のフィールドは広い。注目していきたい、次世代カルチャーアイコンだ。
PROFILE プロフィール
上坂あゆ美
うえさか・あゆみ 1991年、静岡県生まれ。歌人、エッセイスト、ラジオパーソナリティなど多くの顔を持つ。2022年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)でデビュー。
INFORMATION インフォメーション
『地球と書いて〈ほし〉って読むな』
しっくりくる居場所がなかなか見つけられなかった子ども時代から20代をふり返る、圧巻のセルフ解体新書。本表紙に描き下ろしの4コマ漫画。文藝春秋 1980円