小島秀夫のan‐an‐an、とっても大好き○○○○●」:第20回目『髪の長いはなし』

小島秀夫の右脳が大好きなこと=○○○○●を日常から切り取り、それを左脳で深掘りする、未来への考察&応援エッセイ「ゲームクリエイター小島秀夫のan‐an‐an、とっても大好き○○○○●」。第20回目のテーマは「髪の長いはなし」です。


子供の頃、床屋が苦手だった。“床屋”も“散髪屋”も死語だろうから、“理髪店”と呼ぶのが正しいか。昭和の時代、男たちは当たり前のように、理髪店へと通った。当時は、「髪をカットする」という言い回しはなく、誰もが「散髪」という言葉を使った。学校でも風紀検査がある度に、「散髪してきなさい」と言われた。つまり理髪店では伸びた髪を切る、刈り上げる、という概念しかなかったのだ。伸びた爪を切るのと同じだ(今ではネイルサロンもあるが)。近隣の理髪店は、学校規定を熟知しているので、みんな同じ髪型になって店から出てくる。子供の頃の“散髪”は、あくまでも“風紀”であり、“おしゃれ”ではなかった。だから退屈な散髪の時間は苦手だったのだ。

小学生のある日、スティーブ・マックイーンが主演したカルト映画『マックイーンの絶対の危機(ピンチ)』の続編にあたる『人喰いアメーバの恐怖2』を観た。そこでの、あるシーンに驚いた。巨大化したアメーバが、街を襲い、ボウリング場、映画館と、次々と人々を飲み込んでいくという見せ場だ。その惨劇の場のひとつとして、“Barber Shop”もコラージュされていた。店主と客の背後、シャンプー台の排水口から人喰いアメーバが溢れ出して来る。観客は、それを見ている。知らぬは“Barber Shop”にいる店主とお客のみ。髪を洗う準備が整い、椅子を倒して、客を仰向けのままシャンプー台に誘う。客は上を向いたままカメラ目線で叫びながら、見事にアメーバに喰われる。その稚拙なSFXに驚いたわけではない。僕が知っている理髪店では、どこの店も、髪はうつ伏せのまま“前倒し”に洗っていたからだ。後に知ったことだが、うつ伏せシャンプーは、業界用語では“スタンドシャンプー”と言われ、日本の理髪店でしか行われていない。アメリカの“Barber Shop”や日本の美容院では、仰向けに入れる“バックシャンプー”や“サイドシャンプー”が馴染みらしいのだ。なんでも江戸時代の武士が腹を人前に晒す(切腹を連想させる)のを嫌がったという説が有力だそうだ。

僕の実家の道路を挟んだ向かいの家は、“パーマ屋”だった。うちのオカンもそこに通っていた。ただ僕の場合、学校の風紀規定がある。高校卒業までは仕方なく、近所の理髪店に通った。大学生になった頃には、家の向かいにあった小さな“パーマ屋”は、大成功を収め、バス通り沿いの利便性の高い、大きな敷地へと移転、おしゃれな“美容院”として再スタートしていた。僕は長年の夢であった“人喰いアメーバ”を体験すべく、この美容院に通った。僕は髪の毛が多い。しかも、剛毛だった。だから、髪を極端に切ると、うまく収まらない。そこで部分パーマを勧められた。耳の上の両サイド部分。ここが浮き上がらないようにと。今、当時の写真を見ると、タツノコプロのヒーローの様な髪型にしか見えない。また、おばちゃん独自の趣味で勝手に“玉置浩二カット”にさせられていた時期もあった。

ゲーム業界に入ってからは、ファッションどころではなくなった。髪を切る時間も勿体無い。それと大きな問題があった。先輩を差し置いて、新入社員の身分で企画、監督をする。スタッフは、同期以外は皆、年上だ。舐められてはいけない。そこでコナミの当時の若い人事部長から聞いた話にヒントを得て、オールバックで通した。亡くなった親父がずっとオールバックだったのも影響している。

『MGS』(注)が売れてからの2000年代からは、また美容院に通い出した。もうオールバックで虚勢を張る必要もなくなった。代官山にある知り合いのヘアサロンにお世話になった。この頃は、インタビューや対談も増え、撮影にヘアメイクを入れる事も増えた。そこで知り合ったのが、ヘアメイクの奈良原友美さん。カットが上手いので、プライベートでも彼女にカットしてもらうようになった。子供たちも含め、もう20年以上もお世話になっている。コロナ以降は、撮影がある時に、ついでに現場でカットしてもらうことが多い。

僕は、これまで髪の毛を染めていない。髪のケアもしていない。ところが、2020年に体調を壊した。その間に髪の毛がかなり抜け落ちた。浴槽の排水口が詰まりそうなこともあった。理由はわからないが、髪の質はかなり細くなり、量も減っている。

9月、anan誌での久しぶりのグラビア撮影があった。いつも撮影現場で、もうひとりお世話になっているのが、ヘアメイクの青木理恵さんだ。彼女には、髪の毛にボリュームがある様に見えるイメチェンをお願いした。この誌面に掲載されている自己紹介写真がそれだ。理髪店から美容院、オールバック、ヘアサロン、ヘアメイクを経て、これが、今の僕。歳と共に髪の事情も髪型も変わるが、シャンプー時には、いくつになっても“人喰いアメーバ”を思い出す。

注:『MGS』 小島秀夫監督が手掛けたメタルギアシリーズの3作目『メタルギアソリッド』。

今月のCulture Favorite

アニメーション映画『Flow』(来年3月14日公開)のギンツ・ジルバロディス監督が、東京国際映画祭のゲストで来日した際に対談をした時のもの。

フランスのアーティストWoodkidさんと。彼による、杉並児童合唱団の収録時のもの。

『DS2』の収録でコジプロを訪れた忽那汐里さんとのツーショット。

1/1

PlayStation® Presents『DEATH STRANDING 2』Special Stage!!


先日行われた、東京ゲームショウ2024でのイベント映像のアーカイブが公開中です。

『od』

「The Game Awards 2023」にて発表した、最新作『OD』の公式ティザートレーラーが、KOJIMA PRODUCTIONSの公式YouTubeチャンネルで公開中。
https://youtu.be/j1pnFI1r8N0

『physint(working title)』

先日、完全新作オリジナルIP『PHYSINT(Working Title)』の制作を発表。
https://youtu.be/WjPc9QI3hjY

Profile

小島秀夫(こじま・ひでお)

1963年生まれ、東京都出身。ゲームクリエイター、コジマプロダクション代表。’87年、初めて手掛けた『メタルギア』でステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開き、ゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。世界中で年間最優秀ゲーム賞をはじめ、多くのゲーム賞を受賞。2020年、これまでのビデオゲームや映像メディアへの貢献を讃えられ、BAFTAフェローシップ賞を受賞。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンターテインメントへも、創作領域を広げている。

★次回は、2428号(2024年12月25日発売)です。

anan 2424号(2024年11月27日発売)より
Loading...

Share

  • twitter
  • threads
  • facebook
  • line
エンタメ

Recommend

こちらの記事もおすすめ

Today's Update
【web限定】長谷川あかりが語る 20年来の親友・FRUITS ZIPPER鎮西寿々歌との『たべるししゃべるし』共演で見えたふたりの“素”
【web限定】長谷川あかりが語る 20年来の親友・FRUITS ZIPPER鎮西寿々歌との『たべるししゃべるし』共演で見えたふたりの“素”
Entertainment
Today's Update
自分らしい性愛について学ぶ、最新エンタメガイド
自分らしい性愛について学ぶ、最新エンタメガイド
Entertainment
Today's Update
心に傷を負ったファムファタール、 ほとばしる感情の行き着く先は…。漫画『今際の際のファムファタール』
心に傷を負ったファムファタール、 ほとばしる感情の行き着く先は…。漫画『今際の際のファムファタール』
Entertainment
CUTIE STREET・梅田みゆ、ぼる塾・きりやはるか「私たちがカプセルトイに沼る理由」
CUTIE STREET・梅田みゆ、ぼる塾・きりやはるか「私たちがカプセルトイに沼る理由」
Entertainment

Movie

ムービー

Regulars

連載