配信全盛期だからこそアルバムを通しで聴く体験を
ゆっきゅん(以下、ゆ):朝井さん、私の2ndアルバムにコメントありがとうございました。
朝井リョウ(以下、朝):今CDが出せるってすごいことですよね。最高アルバム爆誕めでたい!
ゆ:幸いにも私、CDの出し方をフルで知ってるんです。インディペンデントアーティストなので。
朝:歌詞カードを見ながらアルバムを通しで聴いて、そういえばこの体験自体がすごく減っちゃったなって思いました。
ゆ:アルバムを作る人も減ってますね。配信で都度シングルを出せば済むし、今は聴く人もお気に入りの曲だけを聴くので。でも、私にとってはアルバムを通しで聴く体験って大きなものだったので、ちゃんと作りました。
朝:椎名林檎のアルバム曲、タイトル表記が左右対称?! とか。
ゆ:曲間短っ! みたいな。
朝:そういうのが楽しかった。私、男性の声域で歌える歌が光永亮太の「Always」で止まっているんです。男性の楽曲で口ずさめる曲が極端に少ない中で、ゆっきゅんのアルバムを聴いて、久しぶりに歌いたくなる曲が増えました。
ゆ:カラオケに入れられるように今がんばってます!
朝:あと、瞬間瞬間の、“これ分かる!”みたいな煌めきを表現する楽しさを随分失っていたことにも気づかされて、自分の創作にも影響が出る予感! 小説家を14年続けていると、「渾身の長編をお願いします」という依頼が多いんですよね。拳を突き上げたり、旗を振ったりするようなサイズ感の。そういうものを書く機会が増えてきて、気づいたら短編集を5年くらい出していないなって。でも、ゆっきゅんのアルバムを聴いていたら、流れ星みたいな共感がたくさんあって、短編集とか掌編集を書きたくなりました。
ゆ:嬉しすぎます。でも1stアルバムは叫ぶ感じでないと存在を世間に認めてもらえないので、マニフェスト的というか、私も拳を突き上げていたと思います。
朝:マニフェストだからこそ届く場所もあると思うんですけど、逆に避けられちゃうこともある。今作は生活の中にある共感が多くて、罠みたいにスーッと入ってくる感じがしました。
ゆ:罠??
朝:感動するつもりがない人のところに忍び寄ってくる感じ。
ゆ:だったらいいなぁ。小説もそうだと思うんですけど、好きな曲って、フルコーラスあっても好きな歌詞1行あれば好きな曲なんですよね。1行でも誰かに刺さってくれたらいいなって思います。
PROFILE プロフィール
朝井リョウ
あさい・りょう 1989年、岐阜県生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。’13年、『何者』で直木賞を受賞。柴田錬三郎賞を受賞した『正欲』以来3年半ぶりの新作長編『生殖記』(小学館)が好評発売中。
PROFILE プロフィール
ゆっきゅん
1995年、岡山県生まれ。2021年からセルフプロデュースで「DIVA Project」をスタート。セカンドフルアルバム『生まれ変わらないあなたを』が発売中。インスタ、Xは@guility_kyun
INFORMATION インフォメーション
朝井リョウさん、3年半ぶりの新作長編が発売中!
朝井さんが「自分の中にあるルールを全て撤廃して書きました」という『生殖記』が大好評発売中! 特設サイトでは冒頭部分を試し読みすることができます。