ますます盛り上がるアトラスを探る!
『真・女神転生』や『ペルソナ』といった大ヒットシリーズを生み出し、唯一無二の世界観や個性的なゲームシステムで多くのファンを魅了し続けているゲームメーカーのアトラス。今年、自社ブランド発売から35周年。「アトラスフェス」が開催されるなど、大いに盛り上がっています!
長年、プレイヤーを驚かせ、夢中にさせ続けるゲームの秘密はどこにあるのか。また、一目でアトラスのゲームだとわかる理由を探るため、『ペルソナ』3、4、5など多数の作品でディレクターを務めた橋野桂さん、キャラクターデザイナーの副島成記さんの対談を実施。
What’s アトラス
1986年に誕生した、家庭用ゲームの企画開発を行うコンシューマーゲームメーカー。『真・女神転生』『ペルソナ』に代表されるさまざまな名作シリーズが国内外から大きな支持を集めており、派生作品が数多くリリースされていることも特徴の一つ。新作は常に話題に。『真・女神転生』に登場したジャックフロストが、マスコット的存在。
『真・女神転生』シリーズ
悪魔を召喚して戦う、超傑作シリーズ。
悪魔が跋扈する荒廃した現代社会を舞台にしたRPGシリーズ。主人公は悪魔とコミュニケーションをとって“仲魔”にし、召喚することができるなど、独特のシステムで多くの人を魅了。勧善懲悪的ではない、さまざまな価値観の悪魔や登場人物たちとの出会いが、視野を広げてくれることも。1992年のリリース以降、多くの個性的な作品を生み出し、さらに『ペルソナ』『デビルサマナー』といった人気シリーズが誕生するきっかけにもなった。
『ペルソナ』シリーズ
もう一人の自分=ペルソナが覚醒! 高校生の青春とオカルト要素が交錯。
舞台は現代日本の街。主人公が、学校生活や友情、恋愛などの身近な出来事を体験しながら、不可思議な噂や都市伝説などの事件に立ち向かう。最大の特徴は、登場人物が“自分の中に眠るもう一人の自分が伝来の神や悪魔の姿となって出現したもの”=「ペルソナ」に目覚めること。日々のミッションや困難に立ち向かいながら成長していく物語が描かれる、ジュブナイルRPGシリーズ。『真・女神転生』シリーズの作品から派生して誕生した。
『メタファー:リファンタジオ』
選挙に巻き込まれた主人公! ひと味違うファンタジーRPG。
10月11日に発売されたばかりの完全新作RPG。国王暗殺後に突如始まった選挙に出馬し、新しい王の候補者となった少年の運命を描く。現代が舞台であることが多かったアトラスのRPGとしては珍しく、ファンタジー世界ものとなっている。『ペルソナ』3、4、5を手がけたクリエイターたちが手がけることも話題に。
橋野桂と副島成記が語る、アトラス作品の美学。
『真・女神転生』シリーズに携わり、『ペルソナ』シリーズなどでタッグを組むディレクターの橋野桂さんとデザイナーの副島成記さん。アトラス作品に通底するエッセンスやこだわりを聞きました!
左から副島成記さん、橋野 桂さん。
――まず、アトラスに入社するまでの経緯を教えてください。
橋野 桂さん(以下、橋野):子どもの頃からゲームが好きで。そろそろ就職しないと、と思って求人雑誌を見たら、アトラスは「あ」行だから割と初めに出てきたんです(笑)。当時のゲーム業界は今以上に可能性に満ちていて、ゲームで何ができるかを探り、色々なジャンルが生まれていた時期でした。ゲームセンターで遊んでいたゲームが家でもできるようになってきたタイミングでもあり、夢が詰まった業界に見えましたね。
――アトラスのゲームも入社前からプレイしていたとか。
橋野:『真・女神転生』に衝撃を受けました。作り手が用意したシナリオを、先を予想しながらプレイしていくRPGが多い中、“どんな選択をしてもあなたの責任だよ”と言われているような“試される感覚”がありました。逆に言うと、“押しつけられる正解”がなく、それはゲームならではだなと。こんなセンスでゲームを作っている会社に入りたいなと思いました。
副島成記さん(以下、副島):僕はもともと、クラスに一人はいる“お絵かき少年”みたいな人間で。ゲームというメディアがぐっと伸び、格闘ゲームが流行った時があったのですが、その頃からキャラクターの設定や絵のディテールがどんどん複雑なものに。それで、キャラクターを描くならゲーム業界かな、と思ったのがきっかけです。でも、アトラスを選んだ理由みたいなものはないです(笑)。
――入社していかがでしたか?
橋野:当時はRPGを20人前後で作っていたのかな。だから、入った瞬間、即戦力になることを期待されていて。もちろん無理なので、かなりハードでした。チャンスが巡ってくるのを勉強しながら待つみたいな期間はなく、「これやって」と言われたものを、がむしゃらに勉強して何とかする感じです。
副島:当時、みんな若かったですよね。平均年齢26歳とか。
橋野:そうそう。一緒に作っているチームの先輩たちも忙しいから、わからないことがあっても聞けなくて。納期が違う、他のゲームを作っている他部署の先輩を夜な夜な訪ねて、色々聞いていました。段ボールや椅子の上で寝たりもして。でも、楽しかったですね。
副島:バタバタした感じの、いかにも昔のゲーム会社という感じでしたね。ちなみに、僕が入社して最初に作ったのが「プリント倶楽部」で。ゲームを作ろうと思って入ったら写真を撮る機械という(笑)。あんなにヒットするとは思わなかったですね。
――勝手なイメージですが、アトラスさんにはユニークな方が多そうです。
橋野:プランナーで入ったこともあり、周りには変わり者しかいなかったですね。驚いたのは、会社の入り口の鉄の扉に、ものすごい数のお札がびっしりと貼られていたこと。でも、当然ですが全く封印されてなくて。破られてんじゃん…って(笑)。
副島:不思議な建物でしたね。
橋野:あと、タバコを吸う人に対抗してお香をたいている人がいて、両方の煙が充満していたり。しかも、それが日常。一度、「お香をやめてください」とチラッと言ったら、「みんな、タバコが好きで吸っている。僕はお香が好きでたいている。同じ煙で何が違うんだ」と(笑)。そういう世界でした。
副島:変わり者ばかりです(笑)。
橋野:でも、アトラスに限ったことではなく、昔のゲーム業界に入ろうと思うのは変わり者だけだったような気はします。
――博学な人も多そうです。
橋野:もちろん、詳しい人もいました。でも、基本的にはゲームに必要な要素や知識を調べたり、勉強するという感じでしたね。だから知識に偏りがあり、いわゆる博識の人が取り揃える本とはラインナップも違います。
――ちなみに、印象に残っている先輩の言葉はありますか?
橋野:あんまり覚えてない…。
副島:あんまり教わってない…。でも、自分の先輩は結構優しかったのですが、優しいということは期待されていないことでもあるんですよね。たとえばリテイクをされる時。ある一定まで繰り返すと、“これ以上は無理か。無理やり描かせてもクオリティが落ちるな”と思われて、できる範囲のところで止めておいてあげようという変な優しさが見え隠れする。それって、すごく悔しいじゃないですか。だから、諦められないように頑張ろうと思ってやっていました。
橋野:一緒にごはんを食べたりと仲は良かったけど、組織ばった感じはなく。一人一人が得意なものを持ち寄り、最終的に融合するとゲームになる…みたいな感覚が今よりもはるかに強かったです。それぞれのパートに責任を持ち、お互いをリスペクトしたり、けなしたり(笑)。一つの作品を作りながらも、一人一人に強いこだわりがあるというか。会社のスローガンはないけど、“こだわったモノを作らなきゃいけない”というムードがあり、それに一番影響されたんじゃないかな。現場は売り上げなども気にしていなかった気がします。みんながオリジナリティの高い、本当に好きなものを作れば、結果に繋がるんだと。
――アトラスの美学とは、どんなものだと思いますか?
副島:絵に関しては、先輩であるキャラクターデザイナーの方がいまして。キャラクターも含め、随分変わったもの、他にないものを描く人ですが、そのように“代替のない良さ”を手にしてほしいという思いが一つあると思います。以前、誰かが「“この作品を選ぶ自分がカッコいい”と思えるタイトルを作るんだ」と話していて。そういうスピリットみたいなものは、自分が担当する作品でも感じてもらえるようにしたいです。
――キャラクターを作る時、どのような資料を参考にしますか。
副島:一般の方が望むもの、カッコいいと感じるものが必要なので、一番はファッション誌です。みなさんが憧れるものが載っているので、キャラクターを作る意味では正解があるのかと。
――橋野さんはいかがですか?
橋野:“カッコつけてる”ものと“カッコいいもの”があると思うんですけど、前者の場合は、結局、カッコよくないんです。どこかから持ってきただけの薄っぺらいものだと、大体“カッコつけ”と言われますね。だから、デザインやストーリー、設定でも何でも、テーマをほじくって、時間をかけて哲学や神話などを調べて、少しのエッセンスでもいいから入れる。深みを出すために必要なことですし、“このゲームは他の作品より、ある事象についてものすごく考えられている気がする”など、感じ取ってくれる人がいたりもするので。先ほど、『真・女神転生』をプレイした時に、“試されている感じがした”と言いましたけど、ただの時間つぶしではなく、“ちゃんとやらないとダメな気がする”とプレイヤーさんに思ってもらうには、そこまでやらないといけないなと。ルックのカッコよさとは別に、ちゃんとやるという真面目さも、アトラスらしさでしょうか。
副島:でも、ルックのカッコよさは、その真面目さがあってこそ生まれるものだと思います。いくら外側のデザインがカッコよくても、中身が普通だと売れないのと同じ。デザイン担当の身からすると、中身に似合うものをつけようとした結果、カッコいいルックになるのです。
――片手間でプレイできない理由がよくわかりました。
橋野:商品企画会議が透けて見えるようなもの、ってありませんか。それが悪いとか間違っていると言いたいわけではなくて、意外性のない想像通りのものは、なんか面白くないと思うんです。人間味がないというか。やっぱり、人が作っているからこその心の歪みとか、大いにひねくれたもののほうが、面白いものになるんだろうなと思います。
――個性がはっきりと立っている、印象的なキャラクターも魅力的です。リアリティを感じることも多いのですが。
副島:入社時、自分が携わるようになる前の作品のキャラクターデザインを見て、他社の商品では見ないような、変わったキャラクターばかりだなと思ったんです。でも、よくよく見ると“いるな、こういう人”という部分が切り取られていて面白いんですね。全員を架空の存在にしないことは、心がけています。
橋野:シナリオ上でキャラ設定をする時は、昔いた変な人や、嫌だった教師とかをそのまま口癖を含めてネタにしたりも。現代劇でファンタジーなんだけど、“こんな人いないよ”とはならないように、どこか臨場感みたいなものが出るようにキャラクターを作っています。先輩からも、よく実写映画を薦められて観ていましたね。
――タッグを組むことも多いお二人ですが、お互いのすごいと思うところを教えてください。
副島:橋野さんは毎回違うものを求めるので、安心して仕事ができません(笑)。“大体こんな感じでしょ”というのを良しとしませんから。常にチャレンジと緊張感があり、そこがいいところだと思っています。人柄としてはナイーブ。神経質なところと大胆なところが同居しているタイプの人で、“ここを気にするんだ”と思う時もあれば、“それは気にしないんだ”ということも。独特の線引きがあるからこそ、作るものも普通の人とは違うのだろうなと思います。そう、人によく「どう思う?」って聞くんです。長く一緒にやっている人から若い人まで。キャリアのある人なら独断でやってしまうようなことも、です。
橋野:副島さんは、絵が上手いですね。“こういうのを描いておけばいいんでしょ”というようなトレースではなく、自分の中で消化したものをアウトプットできる、自分が思ったものに対して最後まで手が動き、描き上げる技術がある人です。副島さんの頭の中に情報を入れれば入れるほど面白い絵になるので、辛そうだな、と思うギリギリまで入れるようにしています(笑)。人柄としては、ジェントルマン。優しくて丁寧な方です。
――最後に、お二人がゲームで伝えたいことはなんでしょうか。
橋野:アトラスのゲームは基本的に、主人公があまりしゃべりません。ゲームの主人公はプレイヤーの分身で、それが映画や漫画と違うところ。自分が主役の物語を楽しめるところがいいんじゃないかと思います。
副島:設定や物語上の立ち位置などに基づいて絵を描くのですが、主人公からどう見えているか、主人公に対してどんなアクションをするかということを軸に、キャラクターの容姿を作っていかないといけない。メタ的な視点で作っても仕方がないという話を、よくスタッフともしています。主人公の向こう側にいるプレイヤーに対面するような気持ちでデザインをしていることが、他のメディアのキャラクターデザインとは違うのかなと。遊んでくださる方を想像しながらキャラクターを描けるのは楽しいので、やりがいのある仕事だなと思います。
そえじま・しげのり 1995年、アトラスに入社。『真・女神転生デビルサマナー』などに携わり、『ペルソナ3』『ペルソナ4』『ペルソナ5』などのキャラクターデザインを担当。
はしの・かつら 1994年、アトラスに入社。『真・女神転生III‐NOCTURNE』のディレクション、『ペルソナ3』『ペルソナ4』『ペルソナ5』のディレクション、プロデュースを担当。
※『anan』2024年10月23日号より。写真・内山めぐみ 取材、文・重信 綾
(by anan編集部)