冬野梅子(以下、冬):この頃、ドキュメンタリー番組をよく見るんです。クリエイティブ系の人がみんなドキュメンタリーを見ていることに気づいて、ショックを受けて。物語を作る人が物語を見ていないんだ? って。
ゆっきゅん(以下、ゆ):わかる。みんなドキュメンタリー見てるのなに? って思ってます。
冬:でも今はネームを描いている時にテレビをつけてると、深夜にやってるドキュメンタリーに見入っちゃうんですよね。慰霊碑を守る市民の闘いとか、障がいがある方が一人暮らしをする話とか。
ゆ:市井の人々を追った、骨太のジャーナリズムのやつですね。
冬:見てると考えが広がるんですよ。よく聞く「この海を守りたい」っていう台詞の、ちゃんと本物が見えてくる気がする。
ゆ:フィクションでたくさん見てきた大本というか、「本人」がそこにいるってことですね。
冬:原本みたいな。この人の言う「海を守りたい」は私で言うなんだろうと考えたりすると、ネームが描きやすくて。だからちゃんとみんなドキュメンタリーを見てるのかなって思いました。
ゆ:それ面白い話ですね! 冬野さんは友だちを漫画のキャラクターとして出したりしますか?
冬:友だちそのものは出てこないけど、普通にいる人を描きたいから洋服、コーディネートとかは参考にします。だから友だちはぎょっとするかも(笑)。作品を優先する冷徹さというか、本当に自分はひどい人だなと思います。
ゆ:作品が自分より上位にあるから、従事するしかないやつだ。
冬:納得いかないものを残せないんです。「芸術の名のもとに」なんでもしていいとは思わないし、そこには批判的な気持ちはちゃんとあるんですけどね…。
ゆ:私も友だちとの体験を歌にしたことがあります。以前、友だちの結婚式に行ったときの景色や人を思い出しながら「シャトルバス」という曲を作って。友だちは好きだし結婚に憧れる女性も好きなんだけど、いろんな気持ちになってしまうことも、見逃したくなくて。
冬:ゆっきゅんさんにとっては描かざるを得なかったことですよね。ちゃんと実体験が生きてる。
ゆ:私は普通に自分の人生が原本なんですよ。友だちとの会話とか。
冬:そうですよね。一番はそれ。
ゆ:私の場合、友だちとのLINEで自分がパッと返した言葉とかを歌詞にしたりします。頭の回転が速い時に出た言葉が、案外パンチラインだったりするんですよ。
ふゆの・うめこ 2019年「マッチングアプリで会った人だろ!」で「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。近作に『まじめな会社員』『スルーロマンス』など。現在Webメディア「よみタイ」でエッセイ「東北っぽいね」を連載中。
ゆっきゅん 1995年、岡山県生まれ。2021年からセルフプロデュースで「DIVA Project」をスタート。9月11日にセカンドフルアルバム『生まれ変わらないあなたを』をリリース。インスタ、Xは@guilty_kyun
※『anan』2024年9月11日号より。写真・幸喜ひかり 文・綿貫大介
(by anan編集部)
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