“Wユウキ”が登場! 司令塔ふたりに聞く、「世界で一勝」への思い。
バスケットボール男子日本代表候補の中でもキーマンといえる富樫勇樹選手(右)と河村勇輝選手(左)。共に“コート上の監督”ともいわれるポジションのポイントガードを担う二人を直撃!
――現在のチームの様子を教えてください。
富樫勇樹選手(以下、富樫):ワールドカップに向けてモチベーション高く、いい雰囲気が作れていると思います。
河村勇輝選手(以下、河村):トムさん(トム・ホーバスHC/ヘッドコーチ)も明言しているように、男子日本代表の目標は、アジアで1位になることです。メンバー全員が、その目標に向けて練習に取り組めているという一体感を感じます。
――同じポジションの二人ですが、それぞれチームにどのように貢献したいですか?
富樫:ポイントガードはチームをまとめて、ゲームの中でコントロールすることが必要とされるポジションです。トムさんが男子日本代表のHCに就任してからは、キャプテンをやらせていただいているので、いずれにしてもチームを引っ張る立場にあるのかなと思います。ただ、世界の強豪を相手に勝てていないのは、僕も含めてみんな同じ。その意味で上からというより、一緒に戦えるチームを作っていけたらと思っています。
河村:チームをまとめる役割でいえば、勇樹さんをはじめベテラン選手の存在が心強い。そんな中で僕はメンバーの中でも若手のほうなので、積極的に声出しをするなどして、チームを勢いづけていきたいです。
――富樫選手は河村選手の、河村選手は富樫選手の強みはどんなところだと思いますか?
富樫:河村選手はBリーグの中では得点力やアシスト力といったオフェンス力に注目されがちですが、僕からしたらディフェンス力こそが彼の魅力。サイズの小ささをむしろアドバンテージに変えている。代表クラスになるほどこういう選手と対戦したことがないと思うので、すごく嫌がられるんじゃないかな。
河村:富樫選手は、ゲームの流れを読んで、大事なところできっちりスコアしたり、ゲームをコントロールしたりするところが本当にすごい。そのメリハリは、経験値によるところもあれば、もともと持ち合わせているものもあると思います。経験値の部分はワールドカップを通して、富樫選手のプレーを間近で見ることで、少しでも多く学びたいです。
――ところでお二人は同じ“ユウキ”という名前ですが、どう呼び合っているんですか?
富樫:僕は河村選手のことを、下の名前ではあまり呼ばないかな。苗字で呼ぶかも。
河村:僕は、“勇樹さん”です。
――じゃあ、代表で“ユウキ”という呼び名は富樫選手ということに?
富樫:でも二人とも“ユウキ”って呼ぶ人もいるよね? だいたいどっちのことを言っているのかわかるので、混乱はしないけど…。
河村:トムさんが僕のことを“ユウキ”と呼ぶ時と、“河村”と呼ぶ時があるので、たまに「え?」ってなるくらいです(笑)。
世界を相手にどこまで戦えるか。その挑戦を楽しみたい。――富樫勇樹選手
代表でキャプテンを務める富樫勇樹選手。ポイントガードのトップランナーとして活躍し続け、東京2020オリンピックなど、国際試合の経験も豊富に持つ。
「代表の強化合宿は6月から始まりましたが、僕は今のメンバーの中ではトムさんのもとで長くやっているほうなので、特に大変なことはなく、練習に適応できました。でも、なかには新しく代表入りしたメンバーや、久しぶりに招集されたメンバーも。何かわからないことがあった時には、僕が手伝ってあげられたらという気持ちで接しています」
本人曰く、もともとは“まとめ役”といったタイプではなかったそう。しかし、今大会では、キャリアも年齢も重ねた自身が、チームを引っ張っていこうという思いが言葉の端々から感じられる。
「1次ラウンドで日本が戦わなければいけないグループEは、“死の組”と呼ばれるほど、強豪のチームばかり。ただ、プレッシャーというよりは、楽しみのほうが大きいです。男子日本代表はまだまだ世界で結果を残せているわけではないので、失うものは何もない。これまで培ってきたことをしっかり出して、どこまでいけるか、挑戦したいです」
そんな富樫選手の強みについて、バスケットボール解説者の佐々木クリスさんは、こう言及する。
「ポイントガードというと、一昔前は周りを生かす職人のようなイメージだったかと思いますが、今やNBAでは最も平均得点の高いポジションです。つまり、世界で勝つためには、ポイントガードに得点力が不可欠ということ。そんな中、富樫選手は多種多彩な得点パターンが持ち味。敵と1対1になった時の打開力もずば抜けている。また、ポイントガードの一番の評価軸になる、アシスト数の多さとミスの少なさの対比から見ても、Bリーグトップクラスの選手です」
とがし・ゆうき 1993年7月30日生まれ、新潟県出身。身長167cm。2015年より千葉ジェッツ所属。以降、7年連続で「レギュラーシーズンベストファイブ」、2018‐19シーズンにはMVPを受賞するなど、数々の栄冠に輝く。
ドイツに勝てば、どんな相手でも勝負できると思えるはず。――河村勇輝選手
2022年から日本代表入りを果たした、現在22歳の河村勇輝選手。
「ワールドカップほどの大きな国際大会は、今まで経験したことがありません。世界のレベルがどういうものかということを初めて感じる大会になるので、すごくワクワクしています。グループEはタフな相手ばかりですが、チームで共有しているのは、初戦のドイツ戦が一番大事だということ。ドイツは世界でもトップレベルのチームです。そこでしっかり勝つことができればもっと自信がつくし、どんな相手でも勝負ができるという気持ちになれると思います」
強豪国に勝つために――。日本はどんなプレースタイルで挑むのだろう。
「日本はスピード(ゴールに向けて走る速度やパス回しの早さ)あるプレーを武器としているチームです。あとゲーム中の連携など、組織力の高さでは負けられないと思っています」
今大会は、日本を含めた3か国で開催されることもあり、いつもの国際大会以上に注目されることが予想される。
「日本のみなさんに今大会ほど関心を寄せてもらえる機会は、そうないと思います。一生懸命にプレーをする泥くさくて、ひたむきな姿を、ぜひ観てほしいです」
河村選手は、代表入り後、大きく成長したといわれている。その一番の変化は「得点力が格段に上がったところにある」と佐々木さんは評する。
「もともと河村選手は、パスの技術に秀でた選手です。しかし、ホーバスHCのもとで、シュートを狙うことを強く求められた。実際、試合でもシュートを狙わないポイントガードは相手の脅威にならないと体感し、マインドセットを変えたのです。新たな強みとなった高い得点力に加えて、若さを生かしたスピードあるプレーも河村選手の魅力といえます」
かわむら・ゆうき 2001年5月2日生まれ、山口県出身。身長172cm。’22年、横浜ビー・コルセアーズとプロ契約。Bリーグ2022‐23シーズンは、MVPやアシスト王、新人王など、リーグ史上最多の6冠に。
バスケットボールワールドカップとは?
ワールドカップは4年に一度行われる世界大会。今大会はフィリピン、インドネシア、日本(沖縄)の3か国で史上初の共同開催。8月25日に開幕し、1次ラウンドではグループごとに対戦が行われる。日本を含むグループEと、グループFの試合の舞台となるのは沖縄アリーナ。
「出場できるのは世界32か国。12か国が参加するオリンピックに準じる大きな大会です。本選は来年のパリ五輪の予選も兼ね、順位決定戦を経て32位まで決定。日本は今大会で五輪出場権が得られる“アジア1位”を目標に掲げています」(佐々木さん)
佐々木クリスさん バスケットボール解説者、Bリーグ公認アナリスト。NBAについて語るYouTubeチャンネル(@ChrisSasaki2020)も人気。
※選手のデータなどは8月4日時点の情報です。
※『anan』2023年8月30日号より。写真・魵澤和之(まきうらオフィス) ©JBA 取材、文・保手濱奈美
(by anan編集部)