松丸亮吾「先入観に囚われない思考ができるかどうか」 “ひらめき脳”の育て方

エンタメ
2022.09.24
監修する数多くの書籍や、テレビ番組などさまざまなメディアで活躍する、“謎解きクリエイター”松丸亮吾さん。「考えることの楽しさを伝えたい」という松丸さんが大切にしている、新しいアイデアを生む“ひらめき”とは。

中学・高校は御三家のひとつ麻布で、東大に現役合格。いわゆるエリートコースを歩み、謎解きブームを巻き起こした松丸亮吾さん。「AI時代にいちばん価値あること」として挙げる“ひらめき力”を高める方法を伺いました。

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――素晴らしい学歴ですが、小さいころから勉強は得意でしたか?

小学2年生まではラクに100点が取れてたんですけど、小3になった途端、一気に授業内容が難しくなって崖から突き落とされました(笑)。90点、80点と点数が下がるにつれて勉強が嫌いになって、ゲームばかりしてましたね。そんな僕を見兼ねた親が決めたのが、ゲームをしたいなら1日3時間勉強するというルールでした。勉強の過程には3段階あると思っていて。勉強するとちょっとずつできるようになって、できるようになると楽しくなり、楽しいともっとするようになる。このいい循環が生まれると成績は伸びるけど、大体の人は自発的にはできないんですよね。勉強しないからできない、できないから楽しくない、楽しくないからやらない。この悪循環から抜けるために親がルールを作ってくれたことはありがたかったです。ゲームがしたい一心で、頑張れましたから(笑)。中学に入ったころは、数学で満点を取ったりめっちゃいい成績でした。でも、高校に入ってから反抗期で塾も行かず、どんどん成績が落ちて高2の冬の段階で、300人中298番みたいな。それでも東大を受験すると決めたのは、高3に上がる直前に亡くなった母が日記に、僕が東大に入るところを見たかったと書いていたからです。これはもう頑張らなきゃと思って、そこからは1日12時間勉強しました。

――いわゆる神童ではなかったんですね。

世の中には1日3時間の勉強で東大に受かったという人もいますけど、僕は泥くさく勉強してきた自負があるので、「東大に行く人は地頭がいいから」みたいなことを言われると、違うんだけどなって…。「自分には才能がない」「ここが限界だ」と言うのは簡単だけど、それって逃げるための言い訳になってしまう。自分にどんな才能がどのくらい備わっているか、確認する方法なんてないし、限界を決めて挑戦しないことは自分の才能を潰すこと。だから、「才能」と「限界」は、僕の中では禁句です。

――成績が振るわない状態での東大受験も大きな挑戦だったと思うのですが、1日12時間勉強を続けられた理由は何ですか?

小学生のころと一緒で、ゲームやアニメでした。アニメの最新話を見るために、朝から12時間やり切って、夜、気持ちよく見る!

――やるべきことを先に終わらせてから好きなことを楽しむという、優先順位を守れるのがすごいです。

優先順位は大人になった今でも気をつけています。ルールって一回破ると、あとは崩れていくだけなんですよ。仕事が残っているのにゲームをやりたい気持ちがどうしても抑えられなくなったら、決めた時間まで絶対に開けられないタイムロッキングコンテナにゲーム機を入れちゃいます。アニメも、ジムのランニングマシンで走っている時に2話だけと決めていて。走るのは好きじゃなかったんですけど、2話分の40分間、アニメが見たいがために走ってます(笑)。どうしても続きが見たいなら3話分の1時間、とにかく走る! ルールからは外れるけど、ダイエットになるからいいかなって(笑)。

――ランニングなどカラダを動かすことは、仕事のパフォーマンスアップにもいいと聞きます。

それは体感としてありますね。思考が冴えるための方法っていろいろありますけど、自分の持っている能力を最大限高めるには、自信を持たないと何をやってもダメだと思うんです。ずっとベッドでゴロゴロしていると「自分ってダメ人間だな…」って落ち込んじゃいますけど、ランニングをすると「走り切った僕、エラい!」って自信が持てるんですよね。なので、走った後の問題作りは調子がよくて、はかどります。

――頭のいい人を松丸さんが定義するなら?

機転が利く人。壁や問題にぶち当たってみんな行き詰まっている時に、思いもよらなかったウルトラC的な解決策をひらめける人は、頭がいいなって思います。ひらめきで大事なのは、勉強で詰め込んだ知識量ではなく、先入観に囚われない思考ができるかどうかです。

――年齢を重ねると考えが凝り固まりがちで、先入観に囚われないことの難しさを感じます。

自分の考えは本当に正しいのか判断するクリティカルシンキング=批判的思考を意識的に持つことが大事かなって。当たり前とされている前提条件が間違っていないか、多角的視点で考えてみると、新しい可能性に気づけると思うんです。たとえば、謎解きはもともとイベントで行われていたもので、ネタバレ厳禁だから口コミで広がりにくい上に、採算を取るのも難しい。だったら、謎解き=体験型イベントという当たり前を壊せばいいと思って、僕らはテレビでも気軽に楽しめるように、1つの画像で問題と解答が完結する“1枚謎”を始めたんです。先入観に囚われなかったからこそ、謎解きの可能性を広げられました。

――謎解き問題を作る時に、大事にしていることは何でしょう?

社内で共有している“SPECC”で説明すると、Switch=思考を切り替える力、Program=情報を整理し、論理的に考える力、Energy=粘り強く考える情熱、Communicate=よりよい問題解決のために人と意見を交わすこと、Create=アイデアを組み合わせ、今までにないものを生み出す力。この5つを意識しようと、会社のみんなには伝えています。Eは精神論になってしまうんですけど、諦めず、すべての可能性を考え尽くしたといえるくらい粘ったかどうかで、問題のクオリティはかなり変わります。

――謎解きを作る上で、学生時代の勉強が役立っているところも?

矛盾のない証明が必要とされる数学的思考はすごく活きています。謎解き問題のイラストで、リンゴのつもりだったのに、人によっては洋ナシに見えてしまったら、その時点で証明破綻が起きて、その問題は成立しないわけです。問題を解く人がどういう思考のルートを辿って答えに至るのか仮定して、解答の穴をすべて潰す作業に、数学的思考が欠かせないんです。ビジネスのプレゼンでも、数学に強い人の話は矛盾がなく、説得力を持ちますよね。

――学生時代に数学が得意でなかった人が、説得力のあるプレゼンをするにはどうしたら…!?

やたらと難しい言葉を使うんだけど、何を言っているのか内容が伝わってこない人っていませんか。難しい言葉を使うことがただのマウントになってしまっているともったいないですね。難しいことを小学生でも伝わるように噛み砕いて説明するのがいちばん難しいですし、できる人はすごいなって僕は思うんですよ。そのための練習としていいお手本となるのが、アナウンサーの話し方です。幅広い年齢層にわかる言葉で、的確な順番で説明しています。テレビは受動的に楽しみとして見るだけでなく、このCMはなんでド派手な色を使っているんだろうとか、このシーンはなんでこんなにも残酷に描いているんだろうとか、作り手の意図を考えるようにしています。それが、問題や企画のひらめきのもとになることも多いです。

――ひらめきのもとは、そこかしこにあるということですね。そもそもですが、松丸さんにとって“ひらめき”とは?

自分の中にインプットしておいた情報やアイデアの中から、状況に合うものを引っ張り出してくっつけるイメージです。ひらめける人は、ひたすらいろんな方向からあらゆる組み合わせを考えてますね。AI時代に評価されるのは、まさにこういう力! 徳川将軍の名前を全部暗記しているとか、ネットで調べれば誰でもすぐにできることではなくて、この世にまだないモノを創り出すアイデアにこそ価値があると思うんです。謎解きは、自分の中に持っている引き出しを開け、問題に合わせて適切なものと結びつけることで答えを導き出すプロセスなので、自分の力でクリエイティブなアイデアを生み出すいい練習にもなりますよ。

まつまる・りょうご 1995年生まれ、千葉県出身。東京大学でサークルの代表を務めていた謎解きで、一大ブームを起こす。2019年、謎解きクリエイター集団「RIDDLER」を立ち上げる。現在、『おはスタ』『ポケモンとどこいく!?』(共にテレビ東京系)『ゼロイチ』(日本テレビ系)に出演中。

カーディガン¥75,900(ラファーヴォラ TEL:050・5218・3859) 中に着たカーディガン¥93,500 パンツ¥62,700(共にヘリル/にしのやTEL:03・6434・0983) ユーズドの靴¥3,300(アルケオロジー TEL:03・6673・5342) Tシャツ、靴下はスタイリスト私物

※『anan』2022年9月28日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・ダヨシ ヘア&メイク・天野誠吾 取材、文・小泉咲子

(by anan編集部)

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