心というブラックボックスと向き合うことで見えてくること。
「何かしら前作の続きのようなものを描きたいと思っていました。といっても準備はまたほぼ一からだったので、果てしなかったです」
ここでいう準備とは参考文献などを読み込むのはもちろんのこと、実際に心の病を抱える人や医療従事者を探して、取材をすること。センシティブな問題だけに、取材に協力してもらえる人を見つけ出すだけでも、気の遠くなるような作業なのだ。
「医療従事者にしても当事者にしても、その人ならではの実感を聞き出したいんです。私自身が“早くこれを伝えねば!”という気持ちになることが、この物語を描くうえでは大事だと思っているので」
1巻で登場するのは、たとえばこんな症状を抱える人たち。虫が家に入ってくる幻覚に悩まされる人、毎日のようにリストカットをする人、「死ね」という声が聞こえる人…。
「症状自体は突飛に思えても、話を聞いてみると悩んでいる感情などは自分と同じだったりして、共感できるところが必ずあるんです。心の病気は当事者の人生そのものともいえるので、まずは等身大のその人を感じて、どういう理由で症状が出てしまっているのか、背景もなるべくきちんと描いていきたいです」
新人ナースの夜野さんは先輩看護師とともに、虫が見える人に対しては虫駆除業者を装って訪問介護をし、リストカットの常習者とは安全な切り方を一緒になって考える。体の病気やケガに比べて、心の病気はケアの方法も患者の状態や医療従事者の考え方などで柔軟に変わる。患者と努めて一定の距離を置こうとする看護師もいれば、一緒にとことん悩む人もいて、治療の正解を導き出すことの難しさを感じさせる。
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「話の終わり方はいつも悩みます。お医者さんに何をもって病気が治ったと思うのか聞いたところ、その人自身が楽になったと思えるかどうかだと言われました。ハッピーエンドばかりではないですが、少しでも変化が表れるところが物語としては一区切りなのかなと思っています」
生きづらさを感じていても、いなくても。心について知ろうとすることで見える景色はきっとある。
みずたに・みどり 2014年『あたふた研修医やってます。』でデビュー。最新作は『大切な人が死ぬとき~私の後悔を緩和ケアナースに相談してみた~』。
水谷 緑『こころのナース夜野さん』1 心の病気について知りたいと思う新人看護師が、統合失調症やうつ病などの患者と向き合い、成長していく日々を描く。丹念な取材をもとにしたフィクション。小学館 591円 ©水谷緑/『こころのナース夜野さん』/小学館
※『anan』2020年4月15日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)