“作家さんとのおしゃべりは信頼関係を生む大事なもの”
「作品単位でお仕事を引き受けています。作家さんと一緒に企画を立て、“この作品はここの編集部がよさそう”と相談して持ち込みます。入稿や校了、宣伝なども関わるところは関わる。一つの雑誌で思いついた企画をすべてやることは難しく、諦めることもあったのですが、いまはほかの媒体に提案できるので嬉しいです。作品創りでは、作家さんが描きたいことが第一ですが、得意なことも大事。描きたいからといって不得意なことをやるとうまくいかないこともあるし、逆の場合だとモチベーションが上がらなかったりもします。さらに、いままでとは違う、ちょっとしたチャレンジをすること。その3つの円が重なる部分を大前提として狙います。たとえば『1122』は、公認不倫という題材を使って夫婦を描いた作品ですが、作者である渡辺ペコさんの久々の長編作品なので、ちゃんと届けたいという気持ちが強かった。そこで、よりエンタメにふるということを意識しました。ペコさんの作品には、品と、深い心理描写があるから、スキャンダラスな題材を使っても下品にならない。そこを信頼しているからこそできたことです。“もっとベタに”“引きを強く!”と編集者が全員言うようなことを言っていました(笑)」
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作家さんは十人十色だからこそ、相手を知ることを大事にしている。
「一番好きな作業は打ち合わせです。作品について話す時間もあるけど、私の場合は8割おしゃべり(笑)。でも、これがどうも無駄じゃないという確信があるんです。昨今の社会で起こっている問題や流行りの話題、オタク話について聞きながら、相手の考えや思考、嗜好、違和感や怒りみたいな感情をどういう時に持つのか、そういう全体をひっくるめて作家さんを知ることが、信頼関係を作るうえで大事だし、作品創りに生きている気がします。作家さんの洞察力や言語センス、着眼点、そして、そこから生まれるきらめきは、私からは絶対に出ないもの。それを出しやすくするため、土地を耕し、水をあげるのが私の作業かなと」
最近は、社会とのコミットを考えるようになったという上村さん。創りたい作品の傾向にも影響が。
「個人と個人の話で収束することもできるけど、個人が依って立つ社会という視点を入れたいと思うようになりました。年をとったからだと思います(笑)。『1122』では、既存の夫婦観への息苦しさやセックスレスの悩みを取り上げていますが、そうした社会にある悩みを物語にすることで、解決とはいかないまでも、読んだ人が一回シミュレーションができますよね。悩んでいる人の糸口になるかもしれないし、悩んでいる人に目を向け、理解するきっかけになることもできると思うんです」
本が売れないいまの時代にも明るい可能性はたくさんあると言う。
「電子発の作品も当たり前に生まれ、漫画のアプリも増えています。スマホの中でこんなに読んでいる人がいる、潜在的読者はたくさんいると思うと、やっぱり物語というものが欲されているんだなと。それはすごく心強いことです。発表の仕方や形態は変わっても、物語はなくならないんじゃないかということは、確信しています」
うえむら・あきら フリーランス漫画編集者 1974年11月8日生まれ、広島県出身。太田出版に入社し、雑誌『マンガ・エロティクス・エフ』の編集長を務める。その後、2014年に独立してフリーランスの編集者となる。編集を担当した、さまざまな恋模様を繊細に描いた志村貴子さんの作品『どうにかなる日々』のアニメが、今年の初夏、期間限定で劇場公開される。
※『anan』2020年1月15日号より。写真・内山めぐみ 取材、文・重信 綾
(by anan編集部)