『バーフバリ』の物語の鍵は実は女性たちが握っています。
この一年、日本列島はインド映画『バーフバリ』人気に沸いた。インドの神話をもとに壮大なスケールで製作された『バーフバリ』は、主人公・バーフバリの親子2代にわたる英雄譚。王妃シヴァガミによってマヒシュマティ国の王になることを運命づけられたマヘンドラ・バーフバリが、父アマレンドラ・バーフバリから王座を奪ったバラーラデーヴァと対峙し、王国を奪還するという物語だ。
この作品が日本公開から1年もの間、上映され続けているわけは、ラージャマウリ監督の奇想天外なアイデア満載のシーンや、本気度の高い演技もさることながら、応援上映という日本独自のスタイルがハマったことも大きい。ラージャマウリ監督やクマーラ・ヴァルマ役のスッバラージュさんが来日したこともファンの熱狂を後押し。そしてついに2018年12月、バラーラデーヴァ役のラーナー・ダッグバーティさんが来日。『バーフバリ』が持つ魅力と、自身が演じたバラーラデーヴァについてお話を伺いました。
――『バーフバリ 王の凱旋』が日本で公開されてから早くも1年が経とうとしています。日本での人気は実感していますか?
ラーナー:遠く離れた異国で自分たちの映画が1年も上映されるだなんて、まさに夢のような話ですよね。インドでも日本で『バーフバリ』がヒットしているらしいという話は伝わっていて、特に映画関係者たちにとっては興味深い事例として受け止められています。今後も日本の映画ファンに届くような作品を作りたいと思いを新たにした出来事でした。インドでは公開からすでに2年が経つのですが、日本でこんなにも愛されるとは想像もしていませんでした。日本での人気の理由はわかりませんが、今までがんばったご褒美として受け止めています(笑)。インドのストーリーテラーとして、これからもよりよい作品を届けたいです。
――『バーフバリ』は王になる運命を持つバーフバリと、彼の父から王座を奪ったバラーラデーヴァの対立を軸に、さまざまな人間ドラマが繰り広げられていきますが、『バーフバリ』の最大の魅力は何だと思いますか?
ラーナー:一番の魅力は力強いストーリー性だと思います。『バーフバリ』はインド神話の「マハーバーラタ」や「ラーマーヤナ」が下敷きになっています。『スター・ウォーズ』にもルーク・スカイウォーカーとダース・ベイダーの対立構造が見られますが、これと同じ構造があります。主役の強さが引き立つのは強い悪役がいるからこそですし、悪役に人間味があるほど、対立が浮き彫りになっていきますよね。とはいえ、この映画で描かれているのは二人の対立だけではありません。実はこの物語の鍵を握っているのは、女性の登場人物たちです。物語が動くきっかけはすべて女性の指示によるものなんですよ。たとえばシヴァガミは次の王にバーフバリを指名しますし、デーヴァセーナも自分の夫となる人を自分で決めます。そのことによって物語が展開していくというのも、この作品のひとつの特徴ではないかと思います。さらに映画の前編にあたる『バーフバリ 伝説誕生』のラストで、バーフバリに忠誠を誓っていたはずのカッタッパがなぜあのような行為に至ったかというのもひとつの大きな謎です。どの人物にも物語がある、強いストーリー性が一番の魅力だと思います。
――ラーナーさんが演じていて一番好きだったシーンは何ですか?
ラーナー:演じていて一番興奮したのはバーフバリをめった刺しにするシーンです(笑)。この一連の流れはバラーラデーヴァをバラーラデーヴァたらしめているものが何なのか、もっともわかりやすく表現している場面なんですよ。それまで彼が抱えてきたフラストレーションを、バーフバリをめった刺しにするという行為で吐き出しているんですよね。ここに彼のすべてが集約されていて、バラーラデーヴァという男がよくわかるシーンになっていると思います。
――あれほど楽しそうな殺戮シーンもそうそうないですよね(笑)。バラーラデーヴァの狂気といえば、バーフバリの生母デーヴァセーナを長年監禁していたのも歪んだ愛の一種ではないかと感じました。
ラーナー:バラーラデーヴァがデーヴァセーナに向けていた感情は、愛以上の何かだと思いますよ。バラーラデーヴァは怒りに任せてデーヴァセーナを25年もの間、自分のもとで監禁するという罰を与えているわけですから。彼にとってデーヴァセーナを殺すことなんて簡単なこと。でも、殺しちゃったらそれで終わりですから。
――恐ろしい人ですよね。
ラーナー:ストレートな人間なんだと思います。欲しいものは絶対に手に入れるし、計算高くいろんなことを虎視眈々と狙っています。自分は正統な王位継承者であるという強い想いがあるので、王座を手に入れるということに関してはブレない。順番でいえば彼が王位を引き継ぐはずだったのに、実の母であるシヴァガミの裁量でバーフバリが王になることが決まってしまう。彼もまた、いろんなものを抱えざるを得なかったんですね。彼を理解してくれる人が誰もいないというのも、彼の性格に大きな影を落としているのでしょう。私自身は彼のように暴力的な性格ではありませんが、やりたいことは必ずやり遂げますし、そのために計算高く考える人間でもあるので、彼とは似たタイプだと思います。
――もし自分で選べたとしたら、バーフバリとバラーラデーヴァのどちらを選んでいましたか?
ラーナー:オファーをいただいた段階でバラーラデーヴァ役というのは決まっていましたし、何より彼を演じた今となっては、この役は誰にも渡したくないですね(笑)。二人の違いはカーラケーヤとの戦いでわかりやすく描かれています。バラーラデーヴァは王になる条件を満たすために族長を倒し、バーフバリは民を守るために戦った。これはバラーラデーヴァの資質によるもので、彼が持って生まれた業ごう(カルマ)なんです。バラーラデーヴァという男は、幾重にも層を持つ深みのある人物なので、演じがいがありましたね。
――『バーフバリ』に出演したことで得たものは何ですか?
ラーナー:まず、これほど壮大なスケールの映画に参加できるということ自体が驚きでした。当初は撮影は2年の予定でしたが、最終的には5年に延びました。でも、そんなに長くは感じませんでした。この5年は素晴らしい旅をしたような気持ちなんです。当時はどんな作品ができあがるのか、誰にもわかりませんでしたが、そんな中でひたすら映画製作に没頭できたこの5年は今、振り返ってみてもとても貴重な時間だったと思います。誰も到達したことのない次元の作品に携わることができて、とてもやりがいを感じました。
――俳優という職業にやりがいを感じるのはどんな時ですか?
ラーナー:俳優とはルックス的なものを超えたことを要求される職業だと思っています。役が持つ複雑な内面をどのように体現するかは、俳優としての力量にかかっています。かつ、そうした内面を表現するためには、外見を変えていく必要もあるんです。私が今まで出演してきた作品を見たらわかっていただけると思うんですが、どの人物も見た目がかなり違うんですよ。自分でも数か月ごとに違う人物になっている、朝起きたら昨日までとは違う自分になっているというのがこの仕事の魅力だと思いますし、やりがいを感じますね。
――現在はバラーラデーヴァを演じていた時から30kg減量されたそうですけど、これも次の作品のためだと伺いました。
ラーナー:‘90年代初頭に活躍した政治家を演じるために減量していたのですが、その撮影は終わりました。何せ実在する人物なので、その人に似せる必要があったんです。そして今はジャングルに25年住んでいた男の役を演じているので、髭をたくわえています。仕事だと減量も楽しいですよ。逆に言うと、それ以外には特にやることがないというか(笑)。私にとって自分ではない誰かを演じるということは、自分を再構築して新しい世界を提供することであり、それが私にとっては俳優を続けるモチベーションになっています。
――最後に、『バーフバリ』がきっかけでインド映画を観はじめたという方にインド映画でぜひ観てほしい作品を教えてください。
ラーナー:インドは世界でもっとも映画製作本数の多い国なので、その中からオススメ映画を選ぶというのはとても難しいのですが…。ラージャマウリ監督作品の『マッキー』という映画をおすすめします。クラシック作品ではマニ・ラトナム監督の『ナヤカン/顔役』。これは世界の映画100選にセレクトされるような作品です。
――ご自身の出演作の中から選ぶとしたら?
ラーナー:私のデビュー作『Leader』をおすすめします。それから『インパクト・クラッシュ』という潜水艦映画は日本でもDVDが発売されています。先日、コミコンでこのDVDを持っているファンの方がいて、嬉しかったですね。
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映画本編では語られなかったバーフバリとバラーの幼少期の貴重なエピソードがアニメで登場。シーズン3まで発売中。『バーフバリ 失われた伝説 DVD-SET』シーズン1~3/各13話収録・各話約24分 各¥6,000 発売・販売元:ツイン ※画像はシーズン1
CS映画専門チャンネル「ムービープラス」でラーナーさん関連番組を2019年1月から3か月連続で特集! 1月は東京コミコンのステージや舞台裏の他、日本文化体験の様子を収録した「密着!『バーフバリ』国王ラーナーさん in 東京」、2月は出演作『ルドラマデーヴィ 宿命の女王』を。また、春には『バンガロール・デイズ』(原題)を日本初放送します。
「密着!『バーフバリ』国王ラーナーさん in 東京」より。書道を体験するラーナーさん!
ラーナー・ダッグバーティ 1984年12月14日生まれ、インドのタミル・ナードゥ州チェンナイ出身。2010年にテルグ語映画『Leader』で主演を務めデビュー。俳優だけでなく、映画のプロデューサーやVFXコーディネーター、カメラマンとしても活躍。‘18年12月に「東京コミコン2018」に招聘され、日本のファンを魅了した。
※『anan』2019年1月2・9日号より。写真・小笠原真紀 インタビュー、文・尹 秀姫
(by anan編集部)
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