
漫画『ノラのいのち』作者の胃下舌ミィさんにインタビュー。
自分のマンガでは見たことのない描写になった気がします
自身が妊娠中に本作の構想を思いついたという、胃下舌ミィさん。
「妊娠は本当に不思議な体験でした。その間に二度、知人の死も経験したのですが、ひとりはパートナーの祖父でした。亡くなった人と私に血縁はないけれど、お腹にいる自分の一部のような存在には、血のつながりがあることに命の根源を意識したりして。“母”という属性が自分の意思とは関係なく存在感を増して、身体面だけでなく、社会的な側面の変化も強烈に感じる現象でした」
そんな驚きや戸惑いが噴出するかのごとく、物語は冒頭からフルスロットルで展開する。金なし家なしの25歳フリーター、ノラこと平 ひらの 野楽らくはワンナイトしたカンタという相手の子どもを妊娠してしまう。“話が違う”と殴り込んだカンタの家では、まさに彼の葬儀が行われていた。
「妊娠がテーマでもあるので、身体表現に重きを置いた表現にしたくて、ノラは非言語的というか頭で考えるより衝動で生きているような人物にしようと思いました。責任能力がないなら産むべきではないっていうバッシングを目にすることがありますが、自分が妊娠したときもそう思われているんじゃないかと不安になったんです。どんな立場の人でも産みたい気持ちを肯定してあげたい思いがあって、ノラを社会から逸脱しているキャラクターにしてみました」
親になったり、真っ当な職に就いたりという大人としての責任を負わず、一生自由に生きていきたいと思っているノラは、出産する気などさらさらない。しかしカンタの恋人だと名乗る、ゲイの大学生アキラと出会って、少々事情が変わってくる。

Ⓒ胃下舌ミィ/マガジンハウス
「アキラは実はノラより主人公性が高いです。私は恥ずかしさもあって、これまでの作品で恋愛感情をほぼ描いてこなかったのですが、アキラがカンタを愛おしいと感じる気持ちは本当に素敵だなと思って。自分のマンガでは見たことのない描写になった気がします」
型にハマりたくないノラの奔放さが伝わってくる伸びやかな絵柄に関しても、大きな発見があったよう。
「醸したいムードに合わせて作品ごとに絵柄も変えてきたのですが、今までで一番、描く楽しさを感じています。今回のような熱くて泥くさいタッチのほうが、自分の線の良さが発揮されやすいのかもしれません」
待ったなしで、お腹のなかでどんどん育つ命。母親という役割から最も遠い場所にいるはずのノラは、めくるめく変化にどう立ち向かうのか。
「自分のなかの問いに対して、ひとつひとつ決着をつけていく作業なので、私自身も現時点までしかわからなくて(笑)。だけど希望を提示したい気持ちはあるので、転がりながら突き進んでいきたいと思います」
Profile
胃下舌ミィ
いかした・みぃ マンガ家。「モーニングゼロ」2019年6月期奨励賞受賞。主な作品に『僕の心がチューと鳴く』、読み切り「みっちゃんの皮膚」。
information
『ノラのいのち』
25歳のフリーター・ノラがワンナイトした相手・カンタ(のちに死亡) の子どもを妊娠。さらにカンタの恋人らしいゲイの大学生・アキラが現れて…。
マガジンハウス 880円
anan 2516号(2026年10月21日発売)より
































