
映画『走れ、絶望に追いつかれない速さで』『四月の永い夢』に続き“喪失と再生”をテーマにした、中川龍太郎監督による三部作の最終章となる今作。福地桃子さんは、主人公の未知を演じている。
この先も観返すたびに、自分にどんな新たな気持ちが湧いてくるのかを知りたくなるし、楽しみでもあります
「今回はシナハン(シナリオハンティング)にも同行させていただいて、脚本ができあがる過程を拝見していたのですが、物語がどんどん削ぎ落とされ、それぞれの登場人物の複雑な感情が浮き彫りになっていくのを感じました。河瀨直美さんが演じた未知の母親の可那子は、直美さんと同じ奈良県出身であるとか、未知においても私とは全然違う人なのに、どこか自分の要素が入っているような感覚もあって。一つ一つの出会いを大切にした監督ならではのオリジナル作品で、主人公を演じることの意味を深く考えさせられました。未知は相手の思っていることを敏感に受け取りながら、時にはかわすこともできる人。気持ちを溜めやすくとても繊細でもあるのですが、それを自分では把握していないような複雑さを持つ人だと思います」
物語では、お互いを許せずに軋轢を重ね、長年距離を置いて過ごしてきた母と娘を描く。可那子の余命宣告をきっかけに再会し、運命に翻弄されながら生と死に向き合っていく二人。昨年の東京国際映画祭では、福地さんと河瀨さんが揃って最優秀女優賞を受賞した話題作でもあり、逃れようのない母娘の結びつきの中に、複雑な愛情や残酷さをはらむお芝居には息を呑む。
「直美さんは、1シーンごとに起こる偶然や奇跡を見逃さないように、常にアンテナを張っている方。厳しさの中に温かさを持っていらっしゃるからこそ生まれた表現はたくさんあって、そこに直美さんの生き方を見たような気がします。未知と可那子が長年会っていなかった期間は物語には描かれていないのですが、それを表現するために直美さんとは事前の顔合わせもせず、現場でもお芝居以外では距離を取っていました。それがあったから、私が未知になってイメージした時の、母親像や母娘の関係性を確信に繋げられたのだと思います。直美さんが終始、厳しい母親を徹底してくださったおかげで生まれた空気感は、他にもあります。未知が久しぶりに実家に帰って母親と洗い物をするシーンは、その一つ。空間にも懐かしい匂いや、質感から思い出される感情が散らばっている気がして、印象的でした」
演じるにとどまらず、現場では貴重な経験を得たそう。
「中川さんはその場所や人、空気から力をもらって登場人物たちの関わりを描くことを大切にする方だという印象があります。また、監督や演者だけではなく、現場に関わる技術スタッフを含め、みんながその時の気持ちに従い、その日のコンディションによって発生するものを刻み込んでいくという作業も多くありました。例えば、脚本には書かれてないけれど、その続きの感情を追ってみたいという気持ちになった時に生まれたものが、すごく大事なシーンになったり。チーム全員が、スケジュールや決められた段取りにとらわれず、柔軟な気持ちで取り組んでいたからこそ、生まれたのだと思います」
撮影中、初号試写を観た時、そして時間を経て観返す時と、感覚や想いは、どんどん変化していくという。
「これも初めての経験でしたが、この先も観返すたびに、自分にどんな新たな気持ちが湧いてくるのかを知りたくなるし、楽しみでもあります。現場では違和感のあるセリフを柔軟に変えていったりもしたのですが、今になって、その言葉でよかったのか…と考えさせられることもあって。それは日々、自分が更新されている証しでもありますが、一方で未知と可那子の物語がまだ続いている感覚なのかもしれません」
Profile
福地桃子
ふくち・ももこ 1997年10月26日生まれ、東京都出身。主演作はドラマ『ラジオスター』、映画『あの娘は知らない』、『The Night Before 飛べない天使』(青木柚とのW主演) 、『そこにきみはいて』ほか。
information

『恒星の向こう側』
母の余命を知った未知は、残りの時を共に過ごそうとするも長年の軋轢に直面。夫婦関係にも不安がある中、体には新たな命が宿っていて…。監督・脚本・編集/中川龍太郎 出演/福地桃子、河瀨直美、寛一郎ほか 10月30日よりTOHOシネマズ シャンテほか公開。
anan 2516号(2026年10月21日発売)より






























