「台詞をスラスラ言うのだけが演劇の面白さじゃないと思う」
「蜷川さんという人は、演劇のなかで、人がどの立場に立っているかという“場”を重視していた方だと思います。僕はこれまで家庭の中のいびつな世界を描いてきましたが、蜷川さんに託す戯曲に関しては、あえて社会的な問題を意識して書いてきました。そこでなら、お互いが繋がれるような気がしていたんです」
その蜷川さんと話していた次回作のモチーフが福島だったという。
「いま避難指示解除地域では、家の中にイノシシが入り込んでいるっていう状況があるんですよね。福島が抱える一番の問題は放射能だと思うのですが、放射能を直接的に描くのではなく、イノシシの問題に置き換えて物語にできたらと思ってます」
福島を舞台に、住民と、東京から恋人を捜しに来た女、事故を起こした会社側の人間…さまざまな立場から震災後の様子が描かれていく。
「今回は、被害者を中心とした話ではありません。被害者側から書けば、どうしたって善悪の話になりますが、それは演劇の役目じゃない。あくまで演劇として、被害者、加害者双方を等価に書くことで、渦中で軋轢を感じている人たちの間に起きているドラマを表したいんです」
取材前、稽古を見学させてもらった。言葉の一文字一文字に含まれた微妙なニュアンスが対話に緊張感をもたらしていく岩松戯曲は、台詞を覚えるのもままならないゴールドのメンバーにとってかなり手ごわい。それでも何度も根気強く丁寧に演出をつける姿が強く印象に残った。
「確かに台詞を覚え切れないことにジレンマは感じますが、スラスラ言えれば面白いかといったら、そうじゃないですよね。いろんな要素が絡み合って、ある空気が醸し出される。それが演劇だと思っています」
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