
小説『めぐる糸 明治浪漫霊異譚』の作者、永井紗耶子さんにインタビュー。
『日本霊異記』を別の時代で書き換えてみたら…と
銀座には洋風建築が並び、人力車や馬車に交じって自動車も走るような明治39年の帝都が、永井紗耶子さんの『めぐる糸 明治浪漫霊異譚(めいじろまんりょういたん)』の舞台だ。霊が視(み)える帝大の苦学生・斎木啓吾(さいき・けいご)と、霊は視えないくせに心霊研究に夢中な華族の子息・連翹寺正周(れんぎょうじ・まさちか)がコンビを組み、奇っ怪な事件を解決していく連作集になっている。永井さんはこうした霊異譚を実はデビュー前から構想していて、約20年越しの結実なのだとか。
「私は大学院で奈良〜平安時代に書かれた『日本霊異記(にほんりょういき)』という日本の最古の、仏教の教えに基づいた説話集の研究をやっていたんです。そこには、死者の霊が恩に報いた、反対に、罪人が罰を受けた、といった因果応報を説く実話怪談みたいなものもあって。これを別の時代で書き換えてみたら…と考えていきました」
第一話の「ロマン髑髏(どくろ)」は、啓吾が自覚のないままに髑髏を下宿に持ち帰ってしまったことから始まるお話、第二話の「祈り猫」は、前足を合わせて“祈っている猫”についての噂を、啓吾が子どもたちから教わることに端を発する。啓吾は連翹寺家の屋敷の敷地内にある寮に住んでいることもあり、否応なく正周との縁が深くなっていくのだが、一種のツンデレバディの活躍が読みどころ。また、活き活きとした当時の世相が伝わる描写も魅力だ。
「明治末期は、江戸の情緒は残りながら急激に近代化が進んだころです。社会がどんどん先進的になる中で歪みが生まれ、置いていかれてしまうような心細さを表現する一つの術として、幽霊の存在や怪異現象がスコンとはまるのかなと。実際、夏目漱石や泉鏡花など明治の文豪たちが怪談を書く流行がありました。啓吾はアルバイト先の新聞社で、不可思議な出来事を雑記として連載する設定にしていますが、そもそも新聞も当時はタブロイド紙みたいなエンタメ的性質も備えていて、地方紙などには妖怪話がニュースとして掲載されていた記録があります」
だが、何より胸を打つのは、大切な人への思いや未練、果たせなかった願いを昇華させたいという死者の思いを酌む人間たちの情の深さだ。
人情物でありながら、第二話で焼け死んだと思われていた禿(かむろ)をめぐる大きな伏線が、サスペンスとして残されて本書は終わる。今冬刊行予定の第2弾が待ち遠しい。
Profile
永井紗耶子
ながい・さやこ 1977年、神奈川県出身。作家。2010年『絡繰り心中』で小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。’23年、『木挽町のあだ討ち』で、山本周五郎賞と直木賞をダブル受賞の快挙。
information
『めぐる糸 明治浪漫霊異譚』
啓吾や正周のキャラクターの参考にしたのは、漱石が描く繊細なエリート学生や高等遊民たちだそう。イケメンに脳内変換して読みたくなる。双葉社 1980円
anan 2504号(2026年7月15日発売)より
































