
戦後、抽象彫刻家・造形作家として活躍した作家、多田美波。没後初となる大規模回顧展が東京都現代美術館で開催される。
素材、光、空間との関係を軸に、多田美波の世界に迫る
戦後、抽象彫刻家・造形作家として活躍した作家、多田美波。生涯で、およそ200点の彫刻作品と、500点に及ぶ建築関連作品を手掛け、美術館だけでなく公園、駅、市庁舎、ホテル、劇場など、都市のさまざまな場所に作品を残してきた。ステンレスやガラス、アクリルなどの高度経済成長期に普及した工業素材を用いて、光の反射や透過、屈折、揺らぎといった有機的な要素を取り入れた手法が、多田作品の大きな特徴。周囲の環境や見る人の動きに応じて移ろう表情が魅力だ。
本展は、そんな多田の軌跡をたどる、没後初の大規模回顧展。絵画から各時代の彫刻、作家本人が「光造形」と呼んだシャンデリアを含む照明作品まで、およそ70点に加え、建築造形のパーツ、写真、スケッチなどのアーカイブ資料を紹介する。
会場では、半円球のアクリルにアルミニウムメッキを施し、鏡面のように仕上げた《周波数37306505》や、「帝国ホテル 東京」に設置された光壁《黎明》のガラスパーツなど、代表作が目を引く。光と空間、素材を探求した多田の試みを細部まで鑑賞することができる。また、レリーフや緞帳(どんちょう)など、美術・建築・デザインを横断した多田の70年にもわたる活動にも焦点を当てる。
なかでも注目は、現存しない作品を再制作・再構成した展示だ。かつて銀座の松屋サロンに設置されていたボールチェーンを使ったシャンデリア。今はなきこの名作を本展のために原寸大で復元。また現在も目にすることができる「リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクション」の光造形《瑞雲》の一部を、今回は特別に制作当時のクリスタルガラス・パーツ約3000個を用いて再構成する。時代を象徴した圧巻の照明演出を目の当たりにできる、貴重な機会となる。

《座標》2009 ステンレス 多田美波 研究所蔵 撮影:末正真礼生

光造形 1968 ガラス、金属 皇居・新宮殿、東京 撮影:野堀成美
無機質な工業素材も、光や周囲の環境との結びつきで、空間そのものをガラリと変容させる力を持っている。そんな新たな発見ができる本展。光の造形が都市の景観や人々の生活にどのように寄り添ってきたかを知れば、光を単なる効果ではなく造形の中心に据えた、多田の制作意図も、なるほど理解できそうだ。
Profile

多田美波
ただ・みなみ 1924年、台湾・高雄生まれ。'44年に女子美術専門学校(現・女子美術大学)西洋画 科を卒業。主な受賞歴に第8回日本国際美術展優秀賞、第1回ヘンリー・ムーア大賞、第6回吉田五十八賞、勲四等宝冠章などがある。
多田美波研究所での制作風景 1978 撮影:成瀬友康 (株)世界文化社提供
information
多田美波──光、凛と ゆれる
東京都現代美術館 企画展示室 B2 東京都江東区三好4-1-1(木場公園内) 8月29日(土)~12月6日(日)10:00~18:00(11月の金曜は~20:00。入館は閉館の30分前まで) 月曜(9/21、10/12、 11/23は開館)、9/24、10/13、 11/24休 一般1600円ほか TEL. 03-5245-4111(代表)
anan 2509号(2026年8月26日発売)より


































