「1年間で300本とか博覧強記的に映画を観る人に僕レベルの鑑賞数ではとても敵わない。映画をたくさん観ている人のみなぎる自信に一矢報いるとしたら、僕なりのスタンスで書けることは何だ? と思って」
かくして長嶋有さんが目指したのは、映画の魅力と密に結びついている名詞(俳優や女優、監督たちの名前、製作費の金額など)をなるべく出さずに評価する試み。それが初めての映画評集『観なかった映画』としてまとまった。
「たとえば、映画雑誌の連載では、役者の名前をなるべく出さないで書いていました。『好きな俳優が出ているから観たい』というのが大きな動機になるくらい、固有名詞は映画の楽しみに加担しているとも思うんです。だからこそ、名詞をたくさん並べればそれらしく語れてしまう。そんな映画のしくみを一回やめて、名詞なしで語ったらどうなるだろうという実験のような感覚ですね。書く上で、自分に枷をはめるのがすごく楽しかったです」
実際に名詞を剥いでみると、“名詞によって生まれる、映画のすごすぎ感で語ること”への反駁にはなったかもしれない、と長嶋さん。
「『ダイ・ハード』に出てたアクション俳優と書くより、ブルース・ウィリスでいいじゃん、と名詞の強さを思い知りもしたんですが(笑)」
他にも、「2012-2016の映画備忘録」と題された、70ページにも及ぶ長嶋さんの映画鑑賞メモは圧巻。作品公開年度順に、3段組みでたっぷり紹介されており、おまけの枠を越えた豪華さだ。
「映画って、多少古くてもレンタルや配信サービスで気軽に観られるから、評も古びかたがゆるやか。厳選したン十作品にしてもいいんだろうけど、僕自身も『この作品のこと、他の人はどう思ったんだ?』と気になってググったりするので、ジャンルレスで数を詰め込んだ方が楽しんでもらえそうだと思ったんです」
長嶋有名義の著作になっているが、ブルボン小林名義で書かれた映画評も収録されていて、盛りだくさん。自著が映画化されたときのエピソードや、お母さまと映画を観たときの思い出を私小説風に書いたものなど、書き下ろしもボリューム十分。作家ならではの映画との関わりが垣間見えて、読んで損なしだ。
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