「小説に出てくる50代って落ち着いているように見えますが、実際は依然として合コンに行ったりクラブに行ったり、離婚する人も再婚する人もいて、言葉遣いも若者みたいで。まだまだ浮ついている50代を小説に書きたいと思いました」
と語る江國香織さんの新作長編『なかなか暮れない夏の夕暮れ』は、資産家で本ばかり読んで過ごす50歳の独身男性・稔を中心とした物語。
「自分も始終本を読んでいるんですが、家で読んでいても出かけているように感じるし、同じ本を読んでいる人とは同じ場所に出かけている気分になるのが面白い。そういうことも書いてみたかったんです」
稔の姉や元恋人や、友人の男性や女性、知り合いの女性同士のカップルらの日常が描かれる本作。
「男の人って子どもの頃は運動ができないとモテないと言われていたけれど、大人になると個性を見てもらえるようになる。それで、スポーツはできない、本ばかり読んで夜遊びもせずモテずにきた50歳の男性を主人公にしました。その年だともう結婚も意識しなくなって異性とも気楽につきあえるようになる。それで稔の周囲にいろんな女の人が出てくることになりました(笑)。なかなか枯れない人たちの、ひと夏の話です」
家庭を持たない稔が自由に見える一方、恋人や家族がいる人が不自由そうにも感じられたり。
「自由と孤独はセット。稔はそれを受け入れているから強いし、自分の生活を楽しんでいる。何かを得たら何かを失うし、どの生き方を選んでも、一長一短ですよね。だからどの時点かで選ぶしかないけれど、選んでも元に戻ることもあれば、戻らざるを得ないこともある。だからもっと自由に考えていればいいのかなと思う。結局は、くうねるところすむところや美味しいものがあればいい、っていう気もするんです」
まだまだ不器用で滑稽で、だからこそ愛らしい大人たちが楽しそう。また、稔らの読む本の内容がたっぷり挿入されるのも印象的だ。
「現実と架空の世界の境界が曖昧になって、本の内容のほうが現実にしか思えなくなる感覚を、この本を読む人にも味わってほしかったので」
その物語を読む稔の生活の物語を読む自分の生活も、まるで物語であるような…そんな体験が待っている。
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