面白いことを書こうと思ってもそうそうできるものではないが、そもそも面白くしようと思ってない(らしい)のに、面白いことしか書けない人がいる。カレー沢薫さんの『ブスの本懐』を読んで、放心するほど笑い、その事実に気づいた。
本書は、カレー沢さんが徹頭徹尾、ブスについて考え抜いたコラム集。
「どんなブスについて取り上げるかは、編集さんから箇条書きで来たお題の中から書けそうなものに手を付けるスタイルで、自然に決まっていきました。私発のアイデアではないので、<ワーキングブス>や<ボタニカルブス>など私が見たこともないブスもいるんですが、いるならこんな感じだろうと、言葉から連想する様子を描写してみました。なのでどのケースも、街で見かけたとか具体的な観察の結果ではなく、脳内で私が作り出したブス。想像上の生き物について語るのに似ています」
ブスがイケメンとの恋愛ができるかできないかについては、「ベルリンの壁」が喩えに使われ、ブスが紫外線対策をしないことについては、「ガンジーの非暴力不服従主義」と思想は同じだと看破する。
だが、ブスの話をしているようでいて、実は女性の美をめぐる普遍的な真実を射抜いている。それゆえ、はっとさせられることもしばしば。
「ブスが抱きがちなネガティブな気持ちは誰にでもあるものでしょうし、もともと自分の中にいるブスに向けて書いているところがあります。そこに、読者が自由に何か意味を見つけてくれれば本望です」
本書は、2013年に文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品にも選ばれた、女性誌編集部を舞台にしたマンガ『アンモラル・カスタマイズZ』にも通じる世界。
「あの時点でどうしてブスについてマンガにしようと思ったのかちょっと思い出せないのですが、資料で女性誌をよく読んでいたんです。美を追究するのが使命という世界で、テーマをブスにすると面白いことが描けそうな気がしたのかな。ブスはパワーワード。もうネタ切れだと思いつつ、書きだすとやっぱり掘れるので、ブスの底は深いなと思います」
ちなみに、本書の狙いは、≪「ブスとは何か」という答えを出すのではなく≫、さらに見失わせることだとあった。確かに、読めば読むほど美醜のボーダーはわからなくなって、≪自分の容姿という呪い≫から解き放たれることは間違いない。
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